第3話 挟むべきシオリ(4)


大きく開いている口に長いジャッキを挟み、万が一、怪獣が動き出したときに備えた。

「シオリ! シオリ! 起きて!」

 口の中で植物のつるのようなものに巻きつかれ眠っているシオリに声をかけた。

「みんな、シオリを助けたいの!」

 シオリのまぶたがピクリと動いた。

「シオリお願い! 目を覚まして!」

「マヤコ……さん」

「シオリ!」

 シオリが目を覚ましたと同時に怪獣も目を覚ました。

『グアアアアアアアア!!!』 

 怪獣に挟んでいたジャッキがミシミシと音を立てて壊れようとしていた。

 ジャッキが壊れたとき、ヨウは怪獣の口に入り、ヨウ自身がジャッキの代わりになった。

「ヨウさん!」 

「シオリちゃん、ごめん! アタシがこんないい加減なせいでキミを怖い目に合わせた!」

「そんなことない! ヨウさんのせいじゃない!」

「今、助けてあげるから!」

「リクナさん、あの銃でまた固めることできないんですか!」

「さっき、撃ち込んだ……」

「じゃあ、なんで、怪獣は動いているんですか!」

「あれは怪獣というよりシオリちゃん自身が動かしているんだ……」

「なっ……!」

「人の心の隙間に入り込む怪獣……取り込んだ人の心と連動してしまうんだ……」

 マヤコは怪獣の元に走り出すと怪獣の口に入り込んだ。

「マヤちゃん!」

「シオリ! シオリ!」

 マヤコはシオリの身体に巻きついたつるを引きちぎった。

「マヤコさん!」

「シオリが何に悩んでいたかわからないけど、それなら、あとでたくさん聞いてあげるからね!」

「マヤコさん……」

 シオリの瞳に涙が溢れた。

「友達だから!」

 マヤコは最後の一本の太いつるを力いっぱい引っ張った。

 シオリの心を開けるように。

「シオリが自分を変えようと一生懸命だったこと知っているよ!」

「ぐおおおおおおお!!!」

 怪獣が雄叫びを上げる。それと同時にヨウは渾身の力を込め、怪獣の口を引き裂いた!

 それと同時にマヤコはシオリの手を掴み、怪獣の中から引き出した。

 シオリを失った怪獣から仮面が消えた。

「リクナ! 銃!」

「はいよ!」 

 リクナから投げられた銃をキャッチすると、ヨウは怪獣の口の中に容赦なく撃ち込んだ。

 怪獣はドンドン膨れ上がり、風船のように破裂した。

 ガンバラルが到着し、シオリは救護班に運ばれていった。

「今回のことはアタシに責任があります」

 ヨウは清掃部隊の隊長と思われる人物に頭を下げて言った。

「上はそうは思っていない。それに怪獣被害に誰かの責任というものは存在しないんだよ」

 隊長はそういうとヨウに頭を上げるよう指示した。

「被害にあったケアはお前と友達がしっかりとしてやれ」

「はい!」

 いつもおチャラけているヨウが頭を下げ敬語で上司と話している姿が意外だった、そして見たくはなかった。

(これが大人の世界なんだ) 

 マヤコは怪獣と同じくらいその光景がどこか怖かった。

 シオリの回復は思いの外早く、二日後には退院することが出来た。

 怪獣に関する記憶は断片的にだが覚えているらしいが、ハッキリとした夢を見ていたというような感覚だったそうだ。

 シオリはマヤコとユメとススムを公園に集めた。ワンピースにハーフボブというヨウに憧れる前のシオリに戻って登校してきた。

 これにはマヤコも逆に驚いて、おはようというのを忘れてしまった。

 クラスもシオリの逆変貌ぶりに驚いたがやっと元の日常が戻ってきた気がして、シオリは普通の生徒へと戻っていった。

 シオリは放課後マヤコ、ユメ、ススムを公園に集め、三人の前で腕を組んで宣言した。

「私、不肖、春日井シオリは正直に生きることを近います!」

 三人はパチパチと盛り上がらない拍手した。

「私は自分の中に四枚の仮面を持っておりました……」   

 これは長くなるぞとマヤコたちは三人で目配せし、合図を送った。

「シオリ、おめでとう!」

「仮面卒業おめでとう!」

「真のシオリに目覚めておめでとう!」

 そう言いながら三人は荷物をまとめて帰り支度を始めた。

「ちょっと、聞いてよ!」

「どうせ、その仮面て喜怒哀楽なんでしょ?」

「そ、それは……」 

「んなもんみんな持ってるって」

「いやーギャルの幽霊から除霊おめでとうー」

 四人は笑い合いながら公園をあとにした。

 シオリの挟まっていた栞は次はどこに挟まれるのかは神のみぞ知る。






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