第3話 挟むべきシオリ(2)
自分でマネしておいてシオリでもヨウという人物がわからなくなっていた。
シオリは次の日も次の日も同じ格好で登校してきた。
すぐにヨウみたいになれるとは思っていない。
それでもなりたかった。
マヤコ、ユメ、ススムはシオリに内緒でヨウに相談した。
「ねえ。ヨウからシオリに言えないの?」
「何を?」
ヨウはボリボリとお煎餅を食べながら言った。
食べカスがこぼれても良いようにテーブルにチラシを敷いて。
「シオリに自分のマネはやめろって」
「アタシをファッションリーダーにして何か問題でも?」
「シオリ、すごいクラスで浮いちゃってるんですよ……」
「私たちが擁護できるレベルんじゃないんすよ」
「なーんかアタシが悪いみたいな言い方だなー」
「それは……」
「シオリちゃんもヨウのマネなんてしないで私のマネをするべきなのにねー」
突然、リクナが現れた。
驚くユメとススムだが、マヤコはとっくに慣れているので冷静だった。
「リクナさん、実験終わったんですか」
「今、休憩中。私のマネした方が間違いなく賢くなれるんだけどなー」
「リクナさんのマネはマネで難しいと思うな」
科学者に目覚めたシオリを三人は想像したが全く似合わないが今よりはマシかもしれないとも思った。
「まあ、最初に人のマネをするときは
ヨウは話を締めくくるかのように言った。
マヤコたちは何も言えなかった。
それはシオリが悪いわけでもヨウが悪いわけでもなかったからだ。
シオリの格好にも周りは慣れてきたらしく、からかう者もいなくなり、また日常がやってきた。
確かに、ヨウを初めて見た時はみんな衝撃を受けたが今となってはそれが日常だ。
誰もシオリの格好に驚かなくなったがシオリ自身、本当はやめたいと思っているんじゃないかとマヤコは思っている。
シオリは帰って来て乱暴に自分の部屋に入り、カチューシャやズボンを憎らしいモノのように投げた。
「こんなの違う……どうして……私は……ただ……」
(自分を変えたいだけなのにどうしてこんなにも苦しいの)
日に日にシオリの口数は少なくなってきた。
見た目に反して、心は曇っている。
シオリは一人、公園のベンチに座ってため息をついていた。
「もう疲れたな……」
シオリは新しい仮面を自分で作ったと思っていた。
『ヨウ』という仮面を。
しかし、ヨウの仮面だと被っていたモノはヨウの似てない仮面だったのだ。
似てない部分を取り繕おうとして、どんどん歪になっていく。
自分でもわかっていた。
もう、もとに戻る道を見失ってしまった気がした。
「あれー? シオリちゃんじゃん?」
顔を上げると憧れていたヨウがいた。
ヨウはシオリの隣にドカっと座るとシオリをジロジロと見た。
「ふーむ。アタシは今のシオリちゃんも好きだけどにゃー」
シオリはドキリとした。
「だ、だっしょー! イケてるっしょ?」
「ぶはははは! 良い! 良いよ! シオリちゃん!」
シオリはヨウに笑ってもらえて嬉しい反面、胸の中がチクチクした。
ヨウに言ってほしいことはそれじゃない。
「私、ヨウさんみたいになりたいです!」
「ふふ。嬉しいな……シオリちゃんにそう言われると」
「でも、いくらマネしてもツラいんです……」
シオリは涙をこらえて言った。
シオリちゃんはさ……とヨウは続けた。
「アタシになりたいの?」
シオリは、ハッとした。
確かにヨウみたいになりたいと思っていたが、それはヨウになりたいということなのか全く考えたことがなかった。
「今は憧れても良いけど、大人になったらアタシみたいになっちゃダメだよ」
いつもの笑顔を浮かべながらヨウはシオリの前を歩いて行った。
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