第2話カイロ?回路?海路リクナ(2)


 ヨウが風呂に入ってるとき部屋ではリクナとマヤコの二人きりになった。

 このときが一番気まずい。

 友達の友達という関係で保っていたものが共通の人間がいなくなることにより、バランスが崩れ、わかりやすくいうと何を話したら良いかわからない。

 お互い「へへへ」と愛想笑いを三十分ぼど浮かべつつづけている。

 普段はカラスの行水かのように早く風呂に上がると言うのに今日に限ってやけに長い。

 沈黙を破ったのはリクナだった。

「ヨウについて訊きたいことあるかな?」

「え、えっと……」

(ありすぎてどれから訊こう……)

「ヨウってなんなんですか?」

「私が知りたい……」

「訊きたいことあるかって言ったじゃないですか」

「知ってることだけなら答えられる」

「えっとじゃあ、ヨウは何でロボットを倒せるんですか」

「アイツだったらロボット以外のモノも倒せるぜ」

「た、例えば……」

「怪獣とか」

 マヤコは困惑した。リクナは本気で言っているのか、そしてヨウの正体がリクナ自身もよくわかっていなそうである。

「えっと、なんで若返りの薬なんて作ったんですか?」

「おい、ヨウの質問じゃないじゃないか」

「だってリクナさんもヨウについてわからなそうだし」

「いや、知ってるぞ! アイツの好きなものは食べ物だ! 食べられれば何でも食うやつなんだ!」

「はあ」

「あと、ヨウは……!」

「ちょっとちょっと、何、アタシのことで盛り上がってんのよ」

 髪を拭きながら寝間着ジャージの姿でヨウがやってきた。

「ヨウ……」

「リクナ、変なことマヤちゃんに拭きこんでないでしょうね?」

「言ってないぞ」

「マヤちゃん、何拭きこまれた?」

「ヨウはロボット以外に怪獣を倒せるって」

「なんだそんなことか」

「え、倒せるの?」

「モノによるんじゃない?」

「…………」

 ヨウの言葉がふざけているように感じなくマヤコは黙ってしまった。」

 ヨウが見つめる窓の外には怪獣が暴れているのだろうか。

 そのときのマヤコにはわからなかった。

「はあーリクナちゃん可愛いっかたな……」

 シオリは自分の身体を抱きしめため息をついた。

「リクナちゃんじゃなくてリクナさんだろ」

 カメラを磨きながらツッコむユメ。

「でもブカブカ白衣に子ども姿ってキャラ立ち過ぎてるよね」 

「キャラってあれは好きでなっちゃったわけじゃないし」

 みんな言いたい放題だ。

 まあ、いわゆる新キャラ登場という感覚なのだろう。

「見た目は子ども頭脳は大人でしょ。そこもキャラたちしてる」

「なんか事件とか起きちゃったりして」

 ユメのカメラが一瞬キラーンと光った気がした。

 相変わらずブカブカの白衣を着て、またもや居間を実験室に改造していた。

「リクナさん、その白衣だとやりにくくないですか?」

「この大きさじゃないとダメなの」

「なんでですか?」 

「いざ、大人に戻ったとき裸だったら困るでしょ」

「あ、そうか。服ごと大きくなるわけじゃないですもんね」

「そのときのためにいつでもこの白衣を着ているってわけ」

(意外とまともな理由だった)

「薬出来そうですか?」

「これで間違いないはずなんだけど、どこかの数字が合わないみたい」

「数字が合わない?」

「火は酸素、熱、燃料、燃料は可燃物のことね。まあ、この三つが揃わないと火は絶対に着かないの」

「え、そうなんですか!?」

「つまり、それと同じでどこかの何かが足りないってこと何だけど地井あれ、小学生の理科で習うんじゃないのか?」

「私、勉強苦手です勉強全般苦手です」

「賢そうな顔していて意外だね。むしろ、勉強できそうな顔してるのに」

「まあ、よく言われます」

 マヤコの言っていることは嘘ではない。

 実はシオリ、ユメ、ススムは勉強ができるエリートでそんな三人と一緒にいるせいで、マヤコもエリートだと思われているのだ。

 これに関してはマヤコは少し困っている。

「マヤコちゃんはラッキーガールだね」

「……ラッキーガール」

 突然、耳慣れないというかリクナに似合わない言葉が出てきて、なんのことだかわからなかったがつまり、「君は運が良い」ということだ。

「なぜなら私は科学者だ。つまり、頭が良い。小学生の勉強なら任せなさい」

 実験の手を休めることもなくここまでマヤコと会話してるのだから、きっと頼りになるのだろう。

 しかし、一応、顔を見ながら会話してるが手だけ作業しているというのはシュールな光景である。

「ヨウは勉強できるの?」

 マヤコは夕飯時に聞いてみた。

「もちろん!」

「できないよ」 

 ヨウの「もちろん」の続きをリクナがさらった。

「ちょっとリクナさ~ん酷いんじゃないこと?」

「だって本当のことじゃん」

大人気おとなげない! あ、今、大人じゃなかったか!」

「人が気にしてることを!」

 二人のケンカが始まろうとしたとき「バンッ!」とテーブルを叩く音がする。

 音の主はママだった。

 力強く箸を置き「パンッ!」と勢いよく両手を合わせ「ごちそう様でした」というと無言で台所に食器を片付けに行った。

 これはママが怒っている証拠だ。

 ヨウとリクナはさっきのケンカが無かったかのように黙々と夕飯を食べた。

「今日からマヤコちゃんと一緒に寝る」

「えーなんでよーヨウちゃんと一緒に寝ようよー」

「寝相が悪い」

「あはは。私は構わないですけど」

「マヤコちゃん、かたじけない」

 と言いながらベッドの上に飛び乗り布団にもぐるとすぐに眠りに入った。

「リクナさん、疲れてたんだね」

「まあ、一日中数式やらわけわかんない記号と向き合ってればね」

「そういえばヨウは今日何してたの?」

「炊事、洗濯、家事、親父」

「親父は余計でしょうが。そうじゃなくてそれ以外」

「大学行ってたー」

「嘘つけ」

「いやマジマジ大学行ってたんだって」

「そもそも何て名前の大学なの?」

「さあて、寝に入りますか」

「話を逸らすな」

「マヤちゃんもいつまでも起きてちゃダメだぞ! お肌に悪いぞ! それじゃお休み!」

 ヨウもすぐに寝に入った。

 狸寝入りではなく完全なる睡眠だった。

 マヤコがベッドに入ると猫のように丸くなったリクナがいる。

 リクナはマヤコより小さいせいかベッドの狭くならずに済んだ。

「確かに中身は大人とはいえ、妹ができたみたい」 

 マヤコはリクナの寝顔を見ながら微笑んだ。

 リクナはマヤコが眠ったのを確認すると小柄な身体を生かして難なく布団から這い出た。

 月明りがカーテンの隙間から漏れ、リクナともう一人を照らす。

「んで、アタシに何の用があってきたんだい? リクナ博士?」

「薬尾ヨウ……お前……いや、アナタには戻ってきて貰いたい」

「アタシはもう解放された身だよ?」

「あれはアナタが研究所を破壊したからじゃないですか」

「そのチカラを与えたのはアンタじゃないか」

「違う! 私は、その力を……」

 そのとき、『ズドン!』という地響きが響いた。

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