第1話やくびょう?疫病?薬尾ヨウ(4)


 学校に行くとユメとススムが言いふらしたのか昨日のヨウの活躍の話題でクラスは持ち切りだった。

「マヤコだ! 昨日のヨウさんカッコ良かったー!」 

 ユメはヨウのマネのつもりで足を上げて蹴りのポーズを取っていた。

 ススムも「ヨウさん……かっこよかったな……」と机の上に肘をついてウットリしていた。

 マヤコはヨウの話題ばかりしているやつらが気に食わなかった。

 マヤコが席に着くと八方美人のシオリがやってきた。

「ねえ、私もヨウさんに会ってみたいな」

「シオリもかよ……」

 シオリは両手を後ろに回し、「おねだりする恋人のようなポーズ」で話しかけてきた理由がヨウのことについては意外だった。

 シオリが少し苦手なマヤコにとっては断りたかったが、友好関係を悪くするのもイヤなので了承した。

 シオリは、「やった!」と猫の手のように丸くした両手を顎の横あたりに持ってきて漫画のキャラのように飛び跳ねた。

今日はマヤコ、ユメ、ススム、シオリと大所帯で帰ることになった。

 マヤコはなぜこうもみんなヨウに興味を示すのかわからなかった。

「そんなに良いかねえ……あの真っ赤頭が」 

「そこが良いんじゃない!」

 真っ先にユメが言った。

「あんな頭の人なかなかいないし、存在が個性の塊みたいな人だよ!」 

「うん。なんか、日常を変えてくれそうな雰囲気だよね」

 ススムも「うんうん」と頷いている。

 シオリの期待はどんどん高まって目がキラキラと光っていた。

「いいなー! 早く会ってみたい!」  

「えー。ガッカリしてもしらない……」 

 マヤコの声が入ってないかのように三人はヨウの話題で持ち切りだった。

 今回は帰り道にヨウが現れなかったので、マヤコの家で待つことになった。

「ただいまー」

 マヤコが言ったあとに 

「おじゃましまーす」

 と三人の声。

「ただいまー」

 ともう一人。

 四人が後ろを振り返ると話題の中心人物、薬尾ヨウが立っていた。

真っ赤な髪をかき上げながらニヤニヤと笑っている。

ユメたち三人は突然のヨウの登場でまるでスターが現れたのかのようにキャーキャーと黄色い悲鳴を上げていた。

 マヤコは冷静に。

「取りあえず居間に行こうか」

 とみんなを誘導した。

 マヤコがジュースとお菓子を用意して居間に行くと三人はジッとヨウを見つめていた。

「あの、ヨウさんは……」

 ススムが先陣を切って質問をした。

「どうして髪が赤いんですか?」

 マヤコはずっこけそうになった。

(さすがにそれは失礼だろ)

「ああ。これ? カッコイイから」

 ヨウは髪の毛の先をクルクルと指で回しながら答えた。

 その姿はテレビで見るチャラ男かホストのようだった。

「はい! 次は私!」 

 すっかりヨウへの質問タイムと化していた。

 次はユメだった。

「ヨウさんはこの中だと誰がタイプですか?」

 マヤコは口をつけたばかりのジュースをふき出しそうになった。

(これは合コンか何かか!?)

「うーん。難しい質問だね……みんな魅力的だからね」 

 ヨウはイケメンタレントがするかのような爽やかスマイルを見せた。

(一体、みんなはヨウをどんな風に見てるんだろう?)

 最後はシオリの番だった。

「あの、ヨウさんは……恋人とか好きな人いるんですか?」

(うわー。でた、大人に必ず聞くタイプの質問)

「恋人はいないけど好きな人はいるよ」

「え?」

 マヤコは思わず声が出た。

 一番興味が無いはずの質問なのに反応した自分が恥ずかしかった。

「好きな人っていうのは正しくないな好きな人たちかな」

「好きな人たち?」

 聞いたシオリは疑問形で返した。

「うん。好きな人たち。もちろんシオリちゃんも入ってるよ」

 そう言ってシオリの後ろに行くと両肩に両手を軽く置いた。

「アタシに繋がってる人はみんな好きだよ」

「繋がってる人?」

 今度はススムが聞いた。

「人はさ、知っているから一人じゃないんだよ」

 ヨウが何を言っているのか四人はわからなかった。

「街にたくさん人がいるとするでしょう? その人たちがみんな知っている人だったら一人じゃないけど、そこにいる人達がみんな知らない人たちだったら寂しくならない?」

 ヨウの言おうとしていることが見えてきた。

「それは繋がっていないからだよ」

「繋がっている人がいるから寂しくない。繋がっていない人たちの中だと寂しい」

「じゃあ、私たちはもうヨウさんと繋がったんですね!」

「もちろん」

 ヨウは歯を見せて笑った。 

「私からも質問良い?」

 マヤコはジュースを飲み干し、ドン! とテーブルの上に置くとヨウ睨みつけるように聞いた。

「なんで野良ロボットを倒せるほど強いの?」

「それはヨウちゃんが強いからだよー! アチョー」

 ヨウはふざけながらカンフー映画の構えのようなポーズを取った。

「だから、その強さの秘密を聞いてるの!」 

 マヤコはいら立って机をバン! と叩いた。

「ヨウ……アンタさ……」

 みんなが息を飲む中、ヨウだけが呑気にジュースを飲んでいる。

「改造手術をされてる?」

 シオリ、ユメ、ススムは顔を見合わせ「え、ここ笑っていいところ?」と反応に困っている。なぜなら、マヤコの声が真剣そのものだったからだ。

「ふっ。バレちゃったか……」

 ヨウは両手を海外ドラマの犯人のように両手を上げて「まいった」というポーズを取った。

 シオリたちも声には出さなかったが心の中で「そうなの!?」とツッコんだ。

 マヤコは得意気にしてやったりという顔になっていた。

「いやーさすがマヤちゃん。よくぞ見破った」

 ヨウは悪者がするように手をパチパチとならした。

「そう! 薬尾ヨウは改造人間である! ヨウを改造したチョッカーは世界征服を企む悪い奴らである! 薬尾ヨウは自分の自由のために戦うのである!」

 ヨウは拳を握りながら熱く言った。

 が、当のマヤコは。

「ふざけないで!」 

「いや、マヤコが言ったんでしょうが!」

 シオリたちを代表してススムがツッコミを入れた。

「じょ、冗談で言ったらヨウが乗ってきたんだもん!」

「もう、漫才じゃないんだから……」

 ススムがジュースを飲みながら呆れる声を出し、マヤコは頬を染めて仕切り直しとばかりにコホンと咳払いをして話を戻した。

「で、結局、ヨウは何者なの?」

「うーん? マヤちゃん家の遠い親戚で今大学生やってるお姉さん」

「だから……そうじゃなくて!」

「あ、ジュースもう無いね。マヤちゃん買ってきてよ」

「なんで私が?」

「なんかこの子たちアタシに訊きたいこといっぱいあるみたいだし、その間に質問に答えようかと思って」

 シオリたちの目はヨウに釘付けだった。

 マヤコは反論しようとしたが諦めて買い出しに出掛けた。

「えーと、コーラ、オレンジジュース、カルピスあれば良いか……あとお菓子もだな……」

 マヤコは口では不機嫌そうだがヨウたちといるのが楽しかった。

「家に友達が来るのって何か良いな……」 

 買い物袋が無かったら今頃スキップして帰っていただろう。

 マヤコは声を弾ませながら、大きく「ただいまー」と言った。

 居間から聴こえる笑い声は玄関まで響いた。

(みんな楽しそうにやってるな)

 マヤコは早くみんなと合流したくて買ってきたコーラとカルピスを冷蔵庫に入れ、コップを用意し、氷を入れジュースを注いだ。

 お盆にジュースとお菓子の袋を持って入った。

「みんな楽しそうだねー」

 ゆっくりとお盆を置いてみんなの方を見ると、シオリはヨウの膝に頭を乗っけ、ススムはヨウの肩を揉み、ユメはヨウの写真をカメラで撮っていた。

 マヤコはその予期せぬ光景にズッコケた。

「ヨウ、何したんだよ!」

「何って? ナニ?」

「いや、みんながなんかおかしいだろ!」

「アタシはただ一人ずつお話しただけだよ。ねえ、ススムちゃん?」

「は、はいーヨウ様……」

 ススムはモジモジしながらヨウの肩を揉んだ。

「ヨウ様!? ヨウ! アンタ、どんな話すればこんなになるんだよ!」

「もう! マヤコ、ヨウ様に失礼でしょ! だいたいヨウ様と一緒に住んでるなんて生意気なのよ! 私と代わりなさい!」

 カメラでヨウを取りまくっていたユメはキンキン声でまくし立てた。 

 マヤコは混乱した。

 一番まともそうなススムが真っ先に壊れ、ユメも同様な状態になり。

 マヤコは両手で顔を隠し、ヨウの膝の上で猫のように頭を乗っけているシオリの肩をゆすり問い質した。

「シオリ、何があった……?」

シオリの表情を見ると顔がゆるみ切り、目は漫画で例えたら少女漫画の瞳のように蚊がいていた。

 マヤコがコンビニに追加の飲み物を買いに行っている間に起きた、もはや怪奇とも呼べる現象。

 ススムたちは「ヨウ様」とヨウを崇めている。

「ヨウ! お前何をしたんだよ!」

 もう一度、ヨウに怒鳴った。

 さすがのマヤコも「お前」と乱暴な言葉が出るほどヨウに怒った。

 いや、ヨウに対する怒りより、みんなといるの楽しいなと思った自分に怒りを感じていた。

 ヨウに骨抜きにされたシオリたちはライブ終りのファンのようにキャーキャー言いながら帰っていた。

 ヨウはそれを見て大きく手を振りマヤコはわけがわからず頭を抱えた。

「マヤコは良いなーヨウの姉貴と暮せて」

 昨日の勢いが抜けたのかユメはヨウ様からヨウの姉貴になっていた。

「いきなり何?」

「だってヨウの姉貴のプライベートが見られるんだよ!」

「私は一ミリだって興味ないの!」

「うう。このカメラにもっと収めたい」

 ユメは持ち前のカメラを構え撮るふりをした。

「あんまり、そのポーズやってると盗撮と間違えられるよ」 

「この学校に私のカメラに適う被写体なんていないよ」

 ユメは自慢のアンティークカメラを持ち直しながら言った。

「学校に通う全人間を敵に回した」とマヤコは心の中で呟いた。

「おはよう」

 ススムがやってきた。

 マヤコはススムのある変化に気付いた。

「あれ? ススム、髪伸びた?」

「う、うん……マヤコも気付いてくれたんだ……」 

「マヤコも」というところに引っかかったがすぐに気が付いた。

「ヨウが昨日ススムの髪、褒めたな」

「……うん」

 頬を染めながらうつむくススムはまるで美少年のような出で立ちでマヤコは驚いた。

(ススムってこんなに顔良かったんだ。幼馴染だから気が付かなかった)

「はあ……ヨウ様」

『おはよう』も言わずにシオリが突然現れた。

「うわ! ビックリした!」  

 なぜならシオリはいつも必ず誰振り構わず「おはよう」というのだ。

 それに一番早くに学校でマヤコに会うのはいつもシオリだ。

 シオリは三人に気付いてないかのようにフラフラと教室に向かって行ってしまった。

「あれが恋する乙女の姿? か?」

 ユメとススムは腕を組んで「うんうん」と唸っている。

「恋って、だ、誰に?」

 マヤコには予想がついていたが念のため二人に聞いた。

「それはヨウさんでしょ」

 二人は揃って言った。

(はあー。ヨウのやつ、みんなにどんな話したんだよ……)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る