第1話やくびょう?疫病?薬尾ヨウ(3)

 風呂から出て宿題をやっているといつ入ってきたのかヨウは布団の上で寝転んで漫画を読んでいた。

 のん気なやつと思いながらマヤコは意を決して、ヨウに訊いた。

「アンタ、何者?」

「しがない大学生」

「大学行ってないじゃん」

「今は休みー」

「なんであんなことできんの」

「あんなことってー?」

「ロボット倒したこと」

「ちょっと格闘技やってたら誰でもできるよ」

「この前テレビで空手選手が野良ロボット倒そうとして大けがしたってニュースやってたよ」

「そいつが弱かっただけー」

 ヨウはマヤコの顔を見ず、ずっと漫画に顔を向けている。 

 マヤコはそんな、ヨウにムカついて、漫画を取り上げた。

「あ、今いいとこなのにー」

「うるさい、だいたいカバーかけて何読んでんの……」

 それはこの前、終わったばかりの漫画だった。

 単巻で完結しているが、ネットで名作だと言われている。

 マヤコも読んで思わず泣いたくらいだ。

「ヨウもこんなの読むんだ」

「うん、友達が描いたもんだからねー」

「へぇーって、え?」

「いやーアイツ、出世したなー。ま、アタシは最初からアイツは将来ビッグになると思っていたけどねー」

「ヨウに友達いたんだ……じゃなくて、友達が漫画家? すごいじゃん」

「大人になるとこういうヤツが周りでどんどん現れるよ。他にも小説家や社長やら俳優になったヤツらもいるし」

 みんな夢叶えて偉いなーとヨウは付け足した。

「ヨウは、なりたい大人になれたの?」

「あーそれ聞いちゃう? 聞いちゃいますか?」

「聞かない方が良い?」

「うーん。よくわかんない」

 ヨウは腕を組んで思い出すふりをしながら答えた。

「なんか今が一番楽しいからいっかなって?」

「ダメな大人の言い訳みたい」

「夢を叶えた人がみんな偉いわけじゃないよ」

「それは……そうかもしれないけど……」

「まあ、子どものうちから将来設計している子もいれば、大人になってから夢も持つのも良いことだから」

「なんかカウンセラーみたいな言い方」

「マヤちゃんは夢ある?」

「ない」

 ヨウは漫画を読むのを再開しながらマヤコに言った。

「まあまあ、そう慌てなさんな」 

「私寝るからヨウが電気消してよね」

「合点承知ノ助ー」

「何それ」 

 マヤコにはわからなかったが、かなり昔のギャグである。

 ヨウが漫画を読み終える頃、マヤコはすでに寝むりに入っていた。

 電気を消したあともヨウは何か作業をしていた。

 マヤコは偶然のにも目が冷め、ヨウの作業を見ていた。

 耳にヘッドセットを付けてタッチパネル式キーボードで何かを打ち込んでいるようだ。

 マヤコはゲームでもやってるだろうと思い、深く考えずに寝なおした。

『様子はどうだ?』

「はい、まだ小さいですが、徐々に巨大化していくのは間違いないです」

『そうか。そのまま、その地域の警備を頼む』

「了解です」

 ヨウはヘッドセットを外し、キーボードを閉じ「のんびり過ごしたいものだねー」

 と伸びをしながら眠りに入った。

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