4WAVE
アロー
第1話 現れた島
「こちらリポーターの沢村です。皆さん!見えるでしょうか?あれが急遽現れた謎の島です」
島の上空を飛ぶ一機のヘリ。その中からリポートをする男性。
「突如2日前、太平洋側に現れた謎の島。近隣の漁業を行っていた漁師によると濃い霧が出た数時間後にあの島が現れたと聞いています」
ヘリから映し出される島の映像は島全体に木々が生い茂り、まるでジャングルのような光景だった。
「まだ少し霧が残っていますがもう少し近くから撮影したいと思います!」
リポーターはそう言うと指示を仰ぎヘリを近づけていく。
「ん〜普通の森という感じで変わった様子はなさそうですね、霧がかかって少し不気味ではあるんですけど」
夜9時というのもあってか、島の周辺は真っ暗であり、ヘリから当てられるサーチライトだけが島を唯一照らしていた。
「沢村さん、人影とかは何も見えないんでしょうか?」
スタジオにいるアナウンサーが映像を食い気味に見ながら言った。
「そうですねぇ、光を当ててはいるんですが何も映りませんね〜」
「そうですか。。それではここで中継を切らせてもらいたいと思います」
「わかりました〜!では現場から以上になり、、ま、、ッ」
スタジオへ映像が切り替わり番組が進行し始める。
「え〜最後現場の映像が途切れかけていて締まりが悪かったですが、これで緊急速報番組を終わらせていただきます」
翌朝、福岡県のある地域
「ハイジー!早く起きなさい。仕事に遅れるわよー!」
「わかってるよ〜!」仕事着に着替えてバタバタと2階の部屋から降りリビングに向かう。
リビングには先に朝ごはんを食べ終わってる妹がソファーに座りテレビを見ている。
「あんたはもう、階段は走らないっていつも言ってるでしょ〜、転んだら大怪我するよ」
「大丈夫だって!母ちゃんと違ってまだまだ俺はピチピチだからな尻も張りがあるぜ」
母にお尻を突き出すとパシッと叩かれる。
「よ〜し!今日も気合い入れてもらったから仕事頑張れるぜ」
「馬鹿だねあんたは〜。それよりも昨日の夜のニュース見たかい?」
「あ〜、あの突然現れた島ってやつだろ」
「何か気持ちが悪いわよね、それにあの時のリポーターの沢村さん?とその人と一緒にヘリコプターに乗ってた運転手とカメラマン死んでしまったみたいよ」
「えっ、あの後なんかあったの?」
「急にリポーターが血を流して倒れて、パニックになった運転手が操縦できなくなって海に墜落してるみたいなの」
「マジか、、。確かに最後の中継切るときなんか様子が変な気がしたけど」
「私の友達は映像が切れる前黒い物体がヘリコプターの横を通ったように見えたって言ってたよ」
テレビを見ていた高3の妹リオが話に入ってくる。
「それは謎の生命体ってことか?」
「よくわかんないけど、羽が映えてるように見えたって」
「怖すぎんだろそれ!リオもう少し詳しく教えてくれ」
「もう学校行く時間だから無理!お母さん今日テストでお昼すぎには帰ってくるから買い物行こうね」
「はい、はい、気をつけて行くんだよ〜」
そう言うと小走りに家を出ていった。
「あんたも早く行かないと遅刻するよ、弁当ここに置いとくからね」
「お〜し、俺もそろそろ行くかな、じゃ行ってくるぜ母ちゃん」
弁当を手に取ると妹同様小走りで家を出ていった。
会社までは片道30分の道のり。信号も少なくあっという間に会社に着く予定だった。
ビィーッ!!ビッ!ビィーッ!
連なる車の大渋滞。どこからともなくクラクションが鳴り響いている。まったく先に進む気配もなさそうだ。
「おいおい!どうなってんだー。この藤堂俳路(トウドウハイジ)32歳、完璧遅刻するじゃねぇかよ」
ハンドルを握りタバコを吹かしながら前を見つめる。
40台近くはあるだろうか渋滞した車が一向に進もうとしない。
すると遠くの方から反対車線を1台のバイクがもうスピードで走ってくる。
バイカーはハイジの隣で車を停めるとタバコを吹かしていたハイジに話しかけてくる。
「やっぱりハイジか!おい逃げるぞッ!バケモンだ!!」
「村井さんじゃないっすか、一体どうしたんです?」
「いいから早く車降りてケツに乗れ」
険しい顔をしながらこちらを見つめる。
「なんかわかんないっすけど、わかりましたよ」
少し不貞腐れながら車を降りようとした時
「くそッ間に合わねぇ!」
村井はバイクから降りハイジを車から引きずり下ろす。
「隠れるぞハイジ!」
渋滞中、止まっていた車の隣には新聞会社の建物があった。二人はその建物に駆け込んだ。
運よく鍵が開いており中に入ることができた。
ボロい建物で外の窓には売出し中と紙が貼ってあり中には誰も居ない様子。
村井は奥の部屋に歩いて行くとその部屋にあった窓からさっきの道路側をそっと覗き込む。
ハイジはすぐ側にあった机の上の新聞に目をやる。
大きく一面には【突如現れた謎の島】と記載されていた。少し昨日の夜のニュースと、朝の家族との会話を思い出しながらまた我に返る。
「てか村井さん!俺完璧遅刻っすよ。バケモンがどうとか、勘弁してくださいよねぇ!」
外を見つめる村井に対してハイジは息を荒立てながら近づいていく。
「静かにしろ、今から見る物は紛れもなく現実で起きていることだ。何があってもパニックを起こすなよ。」
ふぅ〜、さっきから何言ってんだかこの人は。
村井と同じくハイジは窓から外を覗き込む。
そこには信じられない光景が広がった。
「ギャッ〜。助けてくれぇ」「バケモンだぁ!!」
先程渋滞していた車の中から降りた人達が向かっていた方と逆側に悲鳴を上げながら走っていっている。
そこにゾロゾロと肌の色が灰色になり体中から血を流した人々がクネクネ歩いたり、足を引きずりながらと奇妙なあるき方をしてさっきの人達を追いかけている。
中には逃げ遅れたのか、1人に対して大勢が覆いかぶさり人の肉を食いちぎっている。
「えぇッ、なんなんですかアレは?人間、、ですよね?」
「見た目はな。だが奴らはウィルスに感染している。なぜかはわからんが、バケモンに噛まれてあんな風になっちまったらしいんだ」
「噛まれてって、、。一体そのバケモンってなんですか、、?」
「昨日テレビでやってた緊急速報のやつだよ、ヘリに乗ってた3人を襲ったのもそのバケモンみたいだ。リポーターの首を噛み、ヘリ事墜落させてる。しかしその3人の死体は見つかってないみたいでよ」
村井邦雄(むらいくにお)33歳、自衛隊員
村井はハイジの1歳上であり、剣道部の先輩でもあった。噂では自衛隊に入り結構上まで上がっているらしい。バケモンの情報は今朝自衛隊に入ったみたいで、各地域をバイクで周って住人に知らせていたと言う。
「でもあれは東京の方の島でしょ?どうしてこっちに被害が、、」
「福岡だけじゃねぇ、全国各地で一斉にこの感染が広がってるんだ。政府はこれを第4波のウィルスだ!って言ってやがったよ」
「第4波、、。えっ、政府は何か対策打つんだよね村井さん?今までだってワクチンで上手く対応してきてし、、」
「いつになるかわからんが、多分な。今回は感染スピードが早い上に被害が凄いから期待は薄いが」
「そんな、、、」
状況が上手く飲み込めないまま、朝の平和な光景を思い出すハイジ。母ちゃんとリオ、無事なんだろうか、、。
「って!、母ちゃんとリオがやばいじゃん!村井さん俺家に帰らないと!母親と妹にこの状況知らせないとマズイ」
「わかってる、、まずはお前の家に向かうとするか。これお前も持ってろ!」
ポンッと咄嗟に出した両手に村井が投げた物がずっしりと乗る。
「けっっけ、っけけ拳銃?」
「お前も使えんだろ、警察途中で辞めてんだから」
「嫌、、だってもう5年も前の話ですよ。今はただの物流サラリーマンですから、、」
ハイジは27歳まで警官だった。小さい頃からの夢だった警察官。その夢を叶えていたがある時を境に辞職していた。久しぶりに拳銃を持ったが別の意味で気が引けってしまう。手に汗が滲み出てしっかり握っていないとすぐにでも落としてしまいそうだ。
「それじゃ行くとするか。さっきの道も誰も居ないみたいだしな」
村井は出口へと向かう。ハイジは震えながら拳銃を腰に差し込むと村井の後を追った。
ガチャッ!
ゆっくりと外へ出る扉を開ける。
出た瞬間いきなり黒い影が横から村井に遅いかける。
「ヴォォォォッ!」
村井は押し倒され顔に噛みつこうとしてくるバケモノに必死で抵抗する。
「ハイジ!早くこいつを撃つんだ!!さっさと殺してくれッ!」
え、でもこの人、人間なんじゃ。。
「なにやってんだよ!」
俺には出来ない。銃で撃つなんて俺には出来ない。
「ハイジ。こいつは感染してるんだ!もう意識もないし人の心も持ってねぇ!」
だんだんと力がなくなっていく村井にどんどん顔を近づけていくバケモノ。
「ハイジ。お前の噂は知ってる、、でも俺はお前を信じてるぜ!こいつはもうバケモンなんだ!しっかり狙ってぶっ殺せ!」
そう言うと村井は力を振り絞りバケモノを押し上げていく。
「今だハイジ!!やれーーーーっ!」
ドンッ!銃口から白い煙が上がる。
力尽きた村井の上にはバケモノが覆いかぶさっている。
「村井さんッ!」
また俺はやってしまった。助ける事ができなかった。地面に座りこみ落胆する。
手足が震え、頭が真っ白になり涙が溢れてきた。
早く家族の所へ向かわなければと思っていた先程の思想は一瞬で吹き飛んでしまった。
コツ‥コツ。足音が近づいてくる。
「あ〜、死ぬとこだった。助かったぜ相棒ッ!」
座りこんで下を向いていたハイジの頭をポンポンっと触る。
「村井さん、、?生きて、たの、、?」
「お前が助けてくれたんじゃねぇか」
「でも手が震えて、視界も狭くなって撃った瞬間、あのバケモノが村井さんを襲ってたから、てっきり村井さんに弾が当たったんだと、、」
「バカだな〜。俺からは見えたぜ、しっかりお前の弾があのバケモノのこめかみを貫くところがよ」
ハイジの頭をポンポンからくしゃくしゃに髪の毛を散らかすと村井は停めておいた自分のバイクに跨った。
「ほら行くぞ!」
ヘルメットをハイジに投げるとノーヘルの村井はエンジンを掛けた。
「はいッ!」
まだ少し赤く染まった目を擦りながら村井の後ろに跨ると二人は出発した。
村井に道案内をしながら、家に帰る途中、村井に乗せてもらっている間ハイジは周りの変わり果てた光景に胸が苦しくなった。
田んぼに傾いて落ちている車、半開きになった車のドア、その中には人が居て血を流している。ピクリとも動く気配がない。パニックでみんな運転が荒くなったのか、あちこちで衝突している車も見かける。少し遠目から見えるのは歩道で倒れている自転車、傍で血だらけの男が倒れているようだ。ピクリと体が動きゆっくりと立ち上がる。こちらを見ながら歩き始めると、さっきのバケモノと同様足を引きずり奇声をあげている。
「どうやら感染して動き始めたみたいだな」
村井はそう言うと腰から拳銃を取り出し、正面を歩いているバケモノの頭を撃ち抜いた。
ドンッ!
その音とともにバケモノは、バタンッ!っと倒れた。
「これからどんどん感染者が増えて厳しい戦いになる。ハイジ、感染者には躊躇なく弾を打ち込め。じゃないとこっちがヤられてお終いだからな」
「わっ、わかりました、、」
未だに信じられない。まさかこんな非日常的な事が自分がいるこの世界で起きているなんて。
後ろからのハイジの怯える気配と不安や絶望感が伝わったのか、村井はアクセルを強め、先に見える橋の方へと向かう。
「あの橋を渡れば、もう少しで俺ん家に着きます!」
「おっしゃ」
橋に到達したが、さきほど同様たくさんの車が左右に煙をあげながら衝突している。
上手く車を避けながらアクセルを弱めバイクを走らせていく村井。
「ここもかなり酷いな」
「そうですね、早く抜けましょう村井さん!」
横たわっている人が何人も居た。
ハイジはまた感染した人が動き始めるんじゃないか、バケモノになって襲いかかってくるんじゃないか、その恐怖心から村井を急かした。
「はいよ!」
村井は残りの橋の上を先程よりも少し早く進み、橋を抜けた。
その瞬間、横から激しいエンジン音とともにトラックが突っ込んでくる。
村井は咄嗟にハイジを突き飛ばし、自分は橋の横の土手に落ちていく。
「村井さーん!!」
突き飛ばされた衝撃で、受け身が上手くできず少し手首を痛めてしまったが、倒れたバイクを起こした。バイクは少しキズが入っているが動きそうだ。
走ってきたトラックの行く先を見ると、トラックは道を逸れ電柱にぶつかり、停止している。
パァーーーーンッ、、、!
トラックからは鳴り止まないクラクションが辺りに響いている。
衝撃でトラックのドアが外れたのかすぐそばに転がっていて、少し運転席から足が見えた。
ハイジは生存を確認しようと、トラックに歩いて行く。
「あのー!、大丈夫ですか?」
クラクションの音にかき消されないように大きい声で話しかける。
「。。。。。」、、、反応がない。
顔面をハンドルの正面に乗せたままクラクションを鳴らし続ける。頭からは血を流し、体を伝った血はシートまで垂れ流れ赤く染まっていた。
死んでいることを悟ったハイジはトラックを離れようとする。
するとまったく反応がなかった運転手が後ろから奇声をあげて近づいてくる。
「なんなんだよクソッ」
イライラしながらバケモノの頭を撃ち抜き倒す。
「感染してるヤツしかいねぇじゃんかよ」
まだこの非現実に直面してから1時間くらいしか経っていないがハイジは、銃を握りしめ覚悟を決める。
「やるしかないんだよな、生きないと、母ちゃんとリオにも会えないし」
土手に向かって歩き始めたハイジは村井を探す。
「村井さーん!どこですかー?」
まったく返事がなく村井の姿が見えなかった。
下の方にはバケモノが2体徘徊しているのが見え、先程村井を呼んだ時の声が反応し、こちらにゆっくりと歩いてくる。
「すみません村井さん、、。必ずすぐ戻ってくるんで俺ちょっと先に行きますね、母と妹を助けてきます」
ハイジはバイクに跨がりエンジンを掛けると家へと向かった。
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