大学受験

37 師匠と、美術予備校の橋一椿さん。

 絵がもっと、上手くなりたい。

 


 

 国立美大の大学入試は、一次試験と二次試験に分けられていて、一次試験は、2月下旬に、二次試験は三月上旬にある。

 

 

 

 一次試験は素描きで、素描きの成績によって、二次試験が受けられるかどうかが、決まる。

 

 

 

 僕は、油画を専攻する予定だ。




油画学科の試験は、3日間で、油画を仕上げるというものだ。




2023年、9月7日、日曜日、午前7時ごろ。

 


 

僕は、ベッドから起きて、洗面所で顔を洗った。

 

 

 

 もう、戻れない、楽しい、いちゃらぶ、ハーレム生活も、もう終わりか。

 

 

 

 朝飯を食い、シャワーを浴びて、歯を磨き、着替えた。

 


 

 今日は、朝から、神谷師匠のところで、絵を描いて、午後は、予備校で、練習する。

 

 

 

 「いってきまーす。」

 家を出た。

 

 


 師匠のいる小屋に着いた。

 

 

 

 いつもの通り、神谷師匠は、キャンバスに、筆を走らせている。

 

 

 

 力強く、生命力溢れる、絵だ。

 

 

 

 「おはようございます、師匠。」

 僕は、挨拶の声をかけた。

 

 

 

 「お、真七瀬くんか。おはよう。」

 師匠は、筆を止めた。

 

 

 

 僕は、師匠の横に、イーゼルを出し、キャンバスを立てて、絵を描き始めた。

 

 

 

 しばらく、描いていると、小屋の扉が開き、谷口さんが出てきた。

 

 

 

 昨日、谷口さんのサンドバッグでもなくなっが、気まずい感じはなかった、自然に、僕たちは、別の形で、付き合いを続けることはできるに違いない。

 

 

 

 「あら、真七瀬くん。来てんだ。おはよう。」

 谷口さんは、僕をみつけると、言った。

 

 

 

 「おはよう、ござます。」

 僕は、挨拶を返した。

 

 

 

 谷口さんには谷口さんの人生があって、僕には、僕の人生がある。

  

 


 谷口さんには、幸せになってほしいと、思った。

 

  

 

 絵を描いて、一段落、つくと、師匠は言った。

 「調子はどうだい。」

 

 

 

 「そこそこナイスですかね。」

 僕は答えた。

 

 

 

 「そりゃ、いいね。予備校は慣れてきたかい。受験で描く絵と、自由に好き勝手に描く絵は違うからね。僕じゃ、教えられないんだ。」

 師匠は、筆をくるくる指で回した。

 

 

 

 「ですね。受験には受験の対策が必要ですし、予備校も、楽しいので、行ってよかったです。」

 僕は答えた。

 

 

 

 「受かるといいね。」

 師匠は、言った。

 

 


 「はい。」

 僕は返事した。

 

 


 絵を描いていると、時刻は、午後6時を回っていた。

 

 

 

 「そろそろ、帰るので、片付けします。」

 僕は、イーゼルとキャンバスを、小屋の倉庫にしまい、筆を洗い、パレットを掃除して、キャンバスにシートを被せた。

 

 

 

 「ご苦労さま。あまり無理はしないようにね。」

 師匠は、片付ける僕をみていった。

 

 


 「はい。ありがとうございます。」

 僕は、礼を言った。

 

 

 

 「うん。行ってらっしゃい。」

 師匠は、送り出した。 


  

 

 午後7時ごろ、予備校に着いた。

 

 

  

 自宅から電車で、東方向に10分。

 

 

  

 神谷師匠のいる小屋のある街外れの、山の麓から、30分ほどのところに、僕の通っている美術予備校はある。

 

 


 予備校は、高校三年の夏休みから通い始めた。

  

  

 

 美術予備校に行くと、意外に浪人生もいたりして、瞳ヶ原高校で、同じ美術部にいて、美大に受からなかった先輩もいた。

 

 


 予備校は、50人程度が在籍しているのだが、一クラス10人ほどで、クラス分けされていて、担当の講師が一クラスに一人就く。




 美術部で、元僕の専属メイドだった、吉川さんも、クラスは違えど、通っている。

 

 

 

 教室に入ると、中では、同じクラスの人達が、自由に絵を描いたり、椅子に座って携帯を弄ったり、していた。

 

 

 

 しばらくすると、担任の講師が部屋に入って来て、言った。

 「おー。みんな来てるね。こんばんはあ、今日も、みっちり描いていこうねえ。」

 

 

  

 橋一 椿

 

 赤髪ウルフカットの釣り目の女で、オレンジ色のつなぎの作業服を着ている。

 

 34歳で、国立美大卒らしい。

 

 僕のクラスの担当講師だ。

 

 煙草吸いのヘビースモーカーでもあった。

 

 

 

 色の勉強とか、デッサンの仕方とか、色塗りのあれこれ技法を体系的に勉強することもあるが、大半は実技の練習だ。

 

 

 

 実際に手を動かして、課題の絵を描き、講評してもらう。

 

 

 

 講評で気づけるところもあり、もっと上達できるようになる。

 

 

 

 橋一さんの、講評はわかりやすく、明確で、的確だ、参考になる。

 

 

 

 「相変わらず、君は面白い、絵を描くねえ。デッサンに至っては、上手すぎるよ。ははは、先生よりずっと上手い。」

 橋一さんは、僕の肩を叩いて言った。

 

 

 

 橋一先生は、鋭い目つきをしていて、憂いを感じる表情で、どこか、儚げで、限界で生きている感じが、かっこいい。

 

 

 

 ロックな人なのだ。

 

 

 

 授業終わり、橋一先生は、僕を呼んだ。

 「才丸くん、ちょっと、いいかしら。」

 

 

 

 「はい。どうしたんです。」

 進路相談とかをするときに、個室に入った。

 

 

 

 椅子に向かい合うように座る。

 

 

 

 「だいぶ、絵が変わったわね。どうしたの、心境の変化でもあった、最近よく休んでたし、でも来てくれて少し安心しちゃったわ。」

 橋一さんは、僕の事を心配してくれていたらしい。

 

 

 

 付き合いが長いわけでもないのに、意外にも、お人よしならしい。

 

 

 

 「ま、いろいろですかねえ。」

 僕は、今週にあった別れの連続を思い出しつつ言った。

 

 

 

 「へえ。女関係とかかなあ。」

 橋一さんは言った。

 

 

 

 エスパーだろうか、どうして、わかったのであろう。

 

 

 

 「どうして、わかったのですか。」

 僕は、きいた。 

 

 

 

 「女の勘だよ。今日は、すごい、張り詰めた様子で描いてたね。、いつも気迫がすごいんだけれど、絵に人生賭けるって感じで、凄まじかったよ。」

 橋一さんは、言った。

 

 

 

 「ははは。先生はお見通しですね。」

 僕は、答えた。

 

 

 

 「ま、あんまり無理はしないでね、君は頑張り過ぎちゃうタイプっぽいから、頑張り過ぎて、ダメになった人をこれまで何人も見てきた。」

 橋一さんは、どこか遠くをみて懐かしんでいるように言った。





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


だんだんと、受験が近づき、高校も終わりに近づいていっちゃいます。


破廉恥な展開は、少なくなっていきますが、面白くなるように、努めております。


最後まで、楽しめる作品にしたいです。







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