高校三年の秋から卒業、大学進学まで

一途な覚悟

29 僕は、美香が好きだ、だから、覚悟を決めた。

 空き教室から、僕と、五人の女を連れて出て、いちゃらぶしながら廊下を歩いていると、美香に遭遇してしまった。

 

 

 

 美香は、僕だと気が付くと、悲しそうに顔を逸らした。 


 

 

 僕は胸が張り裂けそうだった。


 

 

 下校中も、五人の愛人に囲まれながら歩きつつもずっと、美香の事が気がかりで、自分が厭になった。

 

 


 僕は、サイテーのくずだ。

 

 

 

 こんなにかわいい、女の子を囲いながら、僕の心は彼女たちにはなく、一人の別の女の子に向けられているのだ。

 

 

  

 ボーとしつつ、適当に会話をしながら、歩き、家に帰った。


 


 「ただいまあ。」

 玄関の扉を開け、中に入る。

 

 

 

 「おかえりい。」

 母は、僕を出迎えた。 

 

 

 

 「にいに。おかえり。」

 末の妹の紗津貴だ。

  

 

 

 時計をみると、昼に12時ごろだった。

 

 

 

 「昼ごはん出来てるわよお。食べなあ。」

 母は言った。

 

 

 

 僕は、リビングへ行って、椅子に座った。

 

 

 

 「兄ちゃん、なんだか、元気ないね。」

 妹の、恵真理は、僕をみて心配そうに言った。

 

 

 

 ボーとしていた。 


 

 

 恋煩いだろうか。

 

 

 

 あたまから、美香のあの悲しそうな顔が離れなくて、何も手に着かない状態だ。

 

 

  

 「あ、ごめん。」

 僕は、なぜか謝った。

 

  

 

 「もうっ、なんで謝ってんの。ふふふ。」

 恵真理は、おもしろおかしそうに笑った。

 

 

 

 「ははは。」

 少し元気を貰えた気がした。

 

 

 

 昼ご飯を食べる。

 

 


 塩ラーメンと焼き飯、焼き鳥だ。

 



 恋をしていると、食欲がでないものなのだろうか。

 

 

 

 あまり、食べたいという気持ちにはなれなかった。

 

 

 

 なんとか、食べる。

 

 

 

 モグモグ、モグ。

 

 


 「なんか、今日、にぃに、おかしいねえ。」

 紗津貴は、心配そうに僕をみた。

 

 

 

 「ははは。元気だよ。」

 僕はなんとか、体裁を取り繕った。 


 

 

 「そう、だったらいいけれど。」

 紗津貴は言った。

 

 

 

 妹に心配されているようでは、ダメだな。

 

  

 

 昼飯を食べ終わると、僕は部屋へ戻った。




 部屋に戻っても、一向に気分がすぐれなかった。

 

 

 

 「風呂にでも入るか。」

 

 


 僕は、風呂を沸かして、シャワーを浴びた。

 

 

 

 シャアアアアア、ボト、ボト、ボト―

 

 

 

 シャワーを浴びると、気持ち清められた気がして、いい。

 

 

 

 浴びながら、考える。

 

 


 きっと、この儘では駄目だ、墜落と破滅の道を歩むだけだ。

 

 

 

 女に溺れる道だ。 


 

 

 一生、美香と結ばれる事もきっと、ない。

  

 

 

ボタ、ボタ、ポタ、ポタ。

 

 

 

 風呂に使って、天井を見上げ、考える。

 


 

 「もう、やめよう。不純な事を続けるのはやめよう。」

 僕は呟いた。

 

 

 

 次第と、意志は強まっていった。

 

 

 

 僕も、もう、高校三年生、来年は受験で、勉強もある。

 

 

 

 最後なんだ。

 

 

 

 青春も終わろうとしている。

 

 

 

 僕は美香に釣り合う男になりたい。

 

 

 

 だから、決めた。

 


 

 もう、不純異性交遊はやめよう。


 

 

 もっと、絵を描くのを、頑張って、世界的な画家になろう。

 

 

 

 いつか、僕が、美香に誇れる人間になった時、愛を打ち明けよう。

 

 

 

 世界で通用する、画家になりたい。

 

 

 

 画家になるんだ。

 

 

 

 僕は、風呂の中で、意志を固めた。




 本気で絵をやるんだ。

  

 


 風呂から上がると、身体をバスタオルで、拭いて、パジャマに着替えた。

 

 

 

 部屋に戻り、ベッドに入って、ぐっすり眠った。

 

 


 「ごはんよ。」

 母の声だ。

 

 


 もう、日も落ちて夕方になったようだ。

 

 

 

 僕は、部屋から出て、食事の席に着いた。



 

 「にぃに。雰囲気変わったね、なんか、覚悟が決まったみたいな顔してる。」

 下の妹の紗津貴は言った。

 

 

 

 覚悟か。

 

 

 

 僕は、浮かれていた。

  


  

 かわいい女の子に囲まれ、浮ついていた。

 


 

 見失いかけていた。

 

 


 夢を叶えて、美香と、付き合って―、け、結婚なんて、しちゃって、子供を作って、幸せな家庭を築いたりできれば、どれほど、幸せなことであろう。

 

 


 想像することさえ、憚られるほどの、罰の当たりそうなほどの幸せだ。

 

 

 

 「お兄ちゃん、元気そうでよかった。」

恵真理は、胸をなでおろして言った。

 

 

 

 いい、妹たちだ。

 

 

 

 僕みたいな、サイテーの兄ちゃんを慕ってくれている。

 

 


 大事な妹たち。

 

 


 「ありがとう。」

 僕は、言った。

 

 


 「気持ち悪いぞ、お兄ちゃん。兄妹だから、当然だよ。」

 恵真理は、変なものでも見る目で僕をみた。

 

 


 「そうだよ。にぃに。」

 紗津貴も、うん、うん、と頷いている。

 

 

 

 母は、僕と妹たちの会話をほほえましそうに、みつめて、きいていた。

 

 


 いい空気だ。

 


 

 幸せな空気。

 


 

 

 

 

 夕飯を食べ終え、席を立った。




 昼頃を入ったが、もう一度、風呂に入り、歯を磨き、部屋に帰った。

 

 

 

 ベッドに、飛び込んで、横になる。

 


 

 時計の音がカチカチと、静かな部屋を鳴らしている。

 

 

 

 「美香、好きだ。」

 眠る前に想い浮かぶ事も、美香だった。

 

 

 

 僕は、美香が好きなんだなあ。

 

 


 胸が苦しい。

 


 

 「絶対、画家になる。」

 僕は、胸に誓った。

 

 

 

 寝るか。

 

 

 

 「おやすみ、美香。」

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