27 美香と夏祭り。

 過去に戻って、やり直したいことは、無数にある。

 

 運命の分岐点。

  

 あの時の、選択が、僕の未来をよくも、わるくも変えてしまった。

 

 

 

 2023年8月20日。

 

  

 

 瞳ヶ原町の、夏祭りだ。

 

 

 

 昨日の、ピアノコンクールの終わりに、僕は美香と夏祭りデートの約束をする事ができた。

 

 

 

 夕方の6時に、瞳ヶ原高校の校門付近で待ち合わせることになっている。

 

 

 

 少し早めに僕は校門へ行った。




「あ、真七瀬せんぱーい。」

 美香だ。

 

 


 手を振って、校門の方へ来る。


 

 

 浴衣を着ている。 


 

 

 紺色に赤と白の花びらの模様だ。

  

 

 

 綺麗に化粧もしてあって、いつもと雰囲気が違って、ずっと、美しかった。

 

 

 

 「どこの別嬪さんかと思いましたよ。」

 僕は思わず言った。

 

 

 

 「ははは。そういってくれると嬉しいな。」

 美香は照れ笑いした。

 

 

 

 瞳ヶ原高校から徒歩、3分程のところに、屋台が並んでいる通りがある。 

 


 

 祭り籤、射的、輪投げ、金魚すくい、ヨーヨー。

 

 たこ焼き、唐揚げ、焼き鳥、焼きそば。

 

 たい焼き、凹版焼き、りんご飴、苺飴。

 

  

 

 店が並んでいて、いい匂いがする。

 

 

 

 りんご飴を買って、舐めながら練り歩いた。 

 

 

 

 美香と並んで歩ける事が、幸せだった。

 

 

 

 好きだ。


 

 

 思いが溢れて来て止まらない。 

 

 

 

 美香と手が繋ぎたい。

 

 

 

 触れたい。

 

 


 僕は、美香の歩く横顔を、気づかれないようにこっそり、みつめていた。

 

 

  

 綺麗だ。

 

 

 

 美香、好きだ。

 

 


 美香と一緒になりたい。

 

 

 

 美香と幸せになりたい。 

 

 

 



 「美香、好きだ。」

 





何言ってるんだ、僕。

 




 今、美香が好きだって言ったよね。

 






 ピュー、ドカーンンンンン。

 





花火だ。

 




 綺麗だ。






 「ん。何、私の名前呼ばなかった。」

 美香は僕の顔をまじまじと見つめて言った。

 

 

 



 きこえてなかったのか。

 



 僕の、決死の告白は―、ははは、なんだそりゃ。

 

  

 

 花火は、僕の告白を置き去りにして、上がっていく。

 

 

 

 ドーンんんんっ。

 

 

 

 「なんでも、ないよ。」

 僕は、美香の隣に近づいた。

 

 

 

 「ああ、そう。」

 美香は言った。

 

 

 

 一緒にいられるだけで、幸せだ。

 

 

 

 こうして、高校最後の夏祭りに、一緒に居られて幸せだ。

 

 

 

 どうしようもなく、幸せで、泣きそうだ。

  

 

 

 美香の姿を、目に焼き付けよう。 


 

 

 花火の光が美香を更に、輝かせて、どうしようもなく、いとおしく思われた。

 

 

 

 いとおしくて、好きで、とうとくて、だから、僕には触れることさえできない。

 

 

 

 大事なものだから、手をつけたくない。

 

 

 

 僕の大切な、美香、幸せにしてやりたい。

 

 

 

 今の僕と美香とじゃ、釣り合わない。

 

 

 

 きっと美香は、凄いピアニストになる。

 

 

 

 僕には、なにもない。 

 

 

 

 美香を守る術も、持っていない。

 

 

 

 いつか、迎えにいきたい。

 

 

 

 僕が、胸を張って美香の隣にいられるようになった時、もう一度告白しよう。

 

 


 ヒュー、ドカーン。

 

 

 

 最後の花火が上がり終わった。

 

 

 

 「終わっちゃったね。」

 美香は、寂しそうに言った。

 

 

 

 「うん。」

 僕は返した。 

 

 

 

 「ねえ。浜辺にいって、玩具花火してから、帰らない。」

 美香は、提案した。

 

 

 

 「いいね。」

 僕は答えた。

 

 

 

 近くの、コンビニに行って、玩具花火を購入した。

 

  

 

 徒歩5分ほどのところにある浜辺に来た。 


 

 

 買ってきた玩具花火を開ける。

 

 

  

 ライターで蝋燭に火を付けて、蝋燭の火を玩具花火に着ける。


 

 

 「わあ、キレイだね。」

 美香は、着火し激しく燃焼し、発光している、手持ち花火を持って、言った。

 

 

 

 僕も、蝋燭から別の花火に火を灯して、着火した。 


 

  

 ジュウぅううう。

 

 

 

 花火が燃える音と煙が、二人を包んだ。 


 

 

 「あ、もう線香花火しか残ってないや。」

 美香は言った。 

 


 

 気づけば、買ってきた花火はもう、殆どなくなっていた。

 

 

  

 「どっちが、長く続くか勝負しよう。」

 美香は提案した。 

  

 

 

 蝋燭の火をに二人同時に線香花火を寄せ合って火を灯す。

 

 

 

 バチバチバチ。

 

  

 

 すごくきれいだ。

  

 

 

 線香花火は、二人を照らす。 

 

 

 

 しゃがんで、線香花火をみていた。 

 

 

 

 火花が飛び散り、やがて、小さな火達磨だけが残った。 

 


  

 「あ、落ちちゃった。」

 美香は、言った。

 

 

 

 「僕もだ。」

 僕は言った。

 

 

 

 勝負の結果はわからなかった。 

 

 


 二人とも、同じくらいだった。

 

 


 「楽しかったね。」

 美香は、ニコリと笑っていった。

 

 

 

 「うん。」

 僕は答えた。 

 


 

 暗い夜の中、さざ波の音が当たりを打ち、心地いい風が吹く。

 

 

 

 「じゃ、帰ろうか。」

 美香は言った。 

 



 別れたくない。 

 

 今日はずっと、一緒にいたい。 

 

 

 

 「うん。」

 切なかった。

 

 美香との時間が終わってしまう。

 


 

 瞳ヶ原高校の校門まで、歩いていく。

 

 わずかな距離でさえ、美香と歩く事ができるのは幸せだ。

 

 校門についた。

 

 

 

 「じゃ、バイバイ、今日はありがとう、楽しかった。」

 美香は手を振った。

 

 

 

 寂しい。

  

 

  

 「バイバイ。」

 僕も手を振って別れを告げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る