26 夏休み、美香のピアノを聴きに行った、自販機脇のベンチで、一緒に夏祭りに行く約束をした。

 勇気を出して、行動に移せば、何かが変わる。

 

 2023年 8月19日 土曜日。

 

 ピアノの演奏コンクールがある。

 

 僕は、美香の演奏を聴きに、コンサートホールへ向かった。 


 会場に入り、空いている席に座った。

 

 

 

 会場は満席で、立っている人もいた。

 

 

 

 コンクールが始まって、演奏がされる。 

 

 

 

 ピアノの事はよくわからないが、出場者は、どれも、上手くきこえた。

 

  

 

 しばらくして、美香がステージに上がってきた。

 

 

 

 綺麗な衣装だ。

 

 白い花のドレスを着ていた。 


 美香は、輝いてみえた、他の誰よりもずっと光輝いて、僕を照らした。

 

 

 

 チら。

 

 

 

 目があった気がした。 

 

 

 

 目が合ってほほ笑んだように見えた。

 

 

 

 僕は、それがうれしかった。

 

 

 

 美香の演奏は圧巻だった。

 

 

  

 綺麗で甘く、力強い演奏だった。

 

 

 

 演奏から、僕は、美香と繋がれた気がした。

 

 

 

 演奏が終わると、会場の観客たちは、さっと立ち上がり拍手した。

  

 

 

 美香は、ピアノで人を感動させる事のできる人なのだと、改めて実感し、雲の上の人に思えてきた。

 

 

 

 コンクールが終わって外に出て、しばらく、会場外のベンチに座って、人工甘味料のアマあまと、炭酸のシュワシュワなサイダーを飲んでいた。

 

 

 

 恋というのはこの、炭酸のように、シュワシュワと生まれては消えていく切ないものなのかもしれない、などと詩的な事を考えていた。

  

 

 

 美香は夏休み前に僕が話しかけた事を覚えているだろうか。

 

 美香は僕が会場に来ていた事に気づけただろうか。

 

 できれば、話がしたい。

 

 僕は、美香の事を考えながら、サイダーを飲んだ。

 

 

 

 「これが、美香の味か。」

 甘いサイダーと美香が重なって、切なくなった。

 

 

 

 「誰の味だって。」

 突然、思いもよらない事に、待ちに待っていた声が、きこえた。

 

 

 

 「え。」

 僕は、美香をみつめた。

 

 

 

 「来てくれたんだね。」

 美香は、クスクスと笑った。

 

 

 

 「うん。約束通り来たよ。」

 僕は、言った。

 

 

  

 「健気だね。」

 美香は、目を細めて、言った。

 

 

  

 こんなチャンスもう、二度とない。

 

 明日、8月20日 日曜日に、夏祭りと花火大会がある。

 

 美香を誘いたい。

 

 もう彼氏はいるのだろうか、予定が組んであるだろうか。

 

 不安だ。

 

 でも、誘う。

 

 

 

 「え、っと、明日の花火祭り、一緒に、どうでしょうか。」

 僕は、勇気を振り絞って、誘った。

 

 

 

 「私でいいの。」

 美香は、きょとんとした目できいた。

 

 

 

 「うん。一緒に行く人まだ、決まってないし。」

 僕は言った。

 

 

 

 「いいよ。」

 美香は、言った。

 

 

 

 え、今、いいよ、って言ったか。 


 きき間違いじゃないよね。

 

 本当にいいんだよね。

 

 幸せすぎないか。

 

 

  

 「本当にいいの。」 

 声が少し荒げてしまった、興奮している。

 

 

 

 「うん。私も、決まってないし。」

 美香は、肩をすくめて、外国人風に両手の手のひらを上に向けた。

 

 

 

 やったあ。

 

 美香と夏祭りデートができそうだ。

  

 嬉しさで、ニヤけてしまってないか心配なくらいだ。




 「明日、瞳ヶ原高校の校門あたりで、落ち合おう。」

 僕は、言った。

 

 

 

 「わかったわ。」

 美香は、返事をした。

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