美香との夏休み

25 高校三年の夏休み前、美香に話しかける事ができた。

ずっと恋に恋焦がれている、片思いの人がいる。

 

 幼稚園の頃から、波長が合っていたような気がする。

 

 意識していたのかも知れない。 


 一目惚れだった。

 

 お互いが、話すことは殆どない。

 

 一つ年下の、前髪パッツンの、艶やかな黒髪のボブの女で、僕がパッツン前髪が好きなのは、きっと、彼女の影響だ。

 

 ずっと、想いを打ち明けられず、告白できずにいる、僕の最愛の人。

 

 

 

 2023年 7月21日 金曜日。

 

 もう、高校三年生になった。


 

 

 高校二年の春、僕が恋に恋焦がれる、上ヶ吹 美香は、瞳ヶ原高校に入学した。

 

 嬉しかった、また、美香が、同じ学校だ。

 

 なのに、僕は、美香に話しかける事も、告白する事さえ、できなかった。

 

 大好きで、仕方がないのに―。

 

 

 

 気づけば、高校三年、来年受験を控える受験生で、卒業すれば、もう美香と話す機会もなくなってしまう。

 

 

 

 僕は、思い立った。

 

 

 

 なんとか、美香に話しかけよう。 


 

 

 美香と話したい、近づきたい。

 

 

 

 7月21日は、一学期最後の日で、明日から夏休みだ。

 

 

 

 夏休み前に、美香と話して、連絡先だけでも交換したい。 


 

 

 終業式が終わり、昇降口付近で、美香を待っていた。

 

 

 

 帰る前に、絶対、話かけるぞ。

  

 

 

 しばらく、待っていると、美香は友達と話しながら歩いてきた。

 

 

 

 話しかけづらい。

 

 

  

 でも、今日しかない。

 

 

 

 「あの、こんにちは。」

 僕は、思い切って話しかけた。

 

 

 

 ちゃんと喋れているだろうか、声が出せていただろうか。

 

 

 

 「才丸先輩―。」

 美香は、僕の事を覚えていた。

 

 

 

 ずっと、幼稚園の頃から、年は違えど、同じ学校だった。

 

 

 

 幼稚園に通っていた時、雪の降る季節に氷柱集めを一緒にした事があった。 

 

 小学生、中学生の時は話した事はない、時々、廊下や、通学路、学校内で、通りすがるだけだ。

 

 時々、通りすがって、美香をみているだけで幸せだった。

 

 目が合うと、嬉しかった、波長が合っているような気がした。

 

  

 

 「えっと、その、ピアノ好きです。」

 僕には、これが限界だった。

 

 

 

 美香の事が好きだとは、言えなかった。

 

 連絡先を交換しようだとも言えそうになかった。


 けれど、話しかけることはできた。

 

 

  

 「あ、うん。ありがとう。」

 美香は、僕をみた。

 

 

 

 綺麗な瞳だ。 


 好きだ。

 

 

 

 「じゃ、また。」

 僕は、その場から逃げ出したくて、帰ろうとした。

 

 

 

 「待って。」

 美香は僕を呼び留めた。

 

 

 

 「よかったら、次の演奏ききにきてよ。」

 美香は、ニコりと笑って言った。

 

 

 

 僕は、嬉しかった。

 

 はじめて、美香と口をきけた気がした。

 

 

 

 「ありがとう。」

 僕は、胸の高鳴りを感じていた。

 

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