22 雪の降る、道端に倒れていた。谷口京子の抱える、闇。

 人というのは、何かしらの闇を抱えているものだ。 


 大人になっても、悩みは尽きないし、苦しんでいる。

 

 

 

 12月24日 金曜日 クリスマスイブの夜。

 

 

 

 愛人、情人、思人、専属メイド、達といちゃらぶした、帰り道、駅で、倒れている女をみつけた。

 

 

 

 あれは―。

 

 

 

 谷口さんか。

 

 

 

 谷口 京子が倒れていた。 

 

 


 雪が降りしきる空の下、倒れていた。

 

 

 

 死にそうだ。

 

 

  

 「どうしたんですか。凍えじんじゃいますよ。」

 僕は、谷口さんの背中から抱きかかえて起こした。

 

 

 

 「ははは。君に助けられちゃったかぁ。」

 谷口さんは力なく笑った。

 

 

 

 憔悴しきっている様子である。

 

 

 

 いったい、どうしたというのだろう。

 

 

 

 「男に騙されてやり捨てられたぁ。真七瀬くぅ、うわああああああぁんんん。」

 谷口さんは、泣き崩れた。

 

 

 

 大人が、雪の降る夜に、駅前で、高校生に向かって泣いていた。

 

 

 

 女の子にしかみえない、いつもの大人らしい谷口さんの面影はなかった。

 

 

 

 「風邪ひいちゃいますよ。」

 僕は上着を脱いで、谷口さんに掛けた。

 

 

 

 「ありがとう、真七瀬くんは、優しいね。」

 谷口さんは、僕の腕の中にうずくまって、呟いた。

 

 

 

 「家まで送りますよ。」

 僕は言った。

 

 

 

 「ねえ、今日は、うちに、泊っていかない。」

 谷口さんは、上目遣いで僕をみて言った。

 

 

 

 「流石に、ダメですよ。」

 僕は、遠慮した。

 

 

 

 「ええええ。いいでしょ。クリスマスイブに女を一人にする気なの。今日くらい、いいじゃなぃ。」

 谷川さんは泣きそうな声でうったえかけた。

 

 

 

 「本当にいいんですか。家に高校生をあげて。」

 僕は、確認をとった。

 

 

 

 「いいわよ。真七瀬くんは、私のお気に入りだし。」

 谷口さんは、ニヤリと笑って、僕の頬をツンツンした。

 

 

 

 「わかりました。」

 僕は、今日谷口さんの家に泊ることにした。

 

 

 

 親に連絡を入れる。 


  

 友達の家に泊っているという事にしておいた。

 

 

 

 「親にも今日は友達の家に泊るっていっておきました。」

 僕は言った。


 

 

 「友達ねえ。まさか、その友達が、大人の女だなんて夢にも思わないでしょうねえ。」

 谷口さんは、意地悪な含みのある笑みを浮かべた。



 

 「でしょうね。」

 僕は返した。

 

 

 

 谷口さんの家は、駅から徒歩10分程のところにあった。

 

 マンションかビルにでも住んでいるのかと思っていたが、意外にも一軒家に住んでいた。

 

 一戸建て、20平米程度の広さであった。 

 


 

 「もう、死んじゃったけれど、親が金持ちだってね。家はあるんだ。」

 谷口さんは言った。

  

 

 

 「へえ。」

 僕は頷いた。

 

 

 

 「あがってよ。」

 

 

 

 家に上がる。

  


 

 散らかっていた。 

 


 

 独身社会人OLの家の中は生活感があった。

 

 

 

 酒の管や、煙草の吸殻が転がっていた。

 

 

 

 ゴミ箱には、お菓子や、インスタント食品、コンドームが捨ててあった。

 

 

 

 「ちょっと、掃除していいですか。」

 僕は、言った。 


 

  

 「いいわよ。むしろ、よろしくって感じよ。掃除は苦手でね。」

 谷口さんは言った。

 

 

 

 適当に部屋々を掃除した。

 

 

 

 「綺麗になったわねぇ。」

 谷口さんは掃除の終わった家をみて感心した様子で言った。

 


 一階は1LDkで、キッチン、リビング、風呂場、トイレ、居間がある。

 

 二階は、寝室と、物置部屋が一つと、ベランダが付いている。

 

 


 「ねえ。私の旦那様になってくれない。」

 谷口さんは僕をみて言った。 


 

 

 「ダメですよ。ほかに好きな人がいますし。」

 僕は断った。

 

 

 

 「この前もいってたわね。そんなに、いい子なの。」

 谷口さんは、きいた。

 

 

 

 「はい。わからないけれど、好きなんです。」

 僕は答えた。

 

 

 

 「ふうん。私は本当に、君とだったら結婚したいと思ってるわよ。」

 谷口さんは、僕に近づいて、腕を組んできて言った。 


 

 

 「近いですょ。」

 谷口さんのいい匂いがする。

 

 

 

 甘い、女の匂いがする。

 

  

 

 「ねえ、あたし、もうダメかも知れないの。悪い男に、ハメ撮り動画を

ネットで世界中に公開されちゃったぁ。あはは。」

 谷口さんは力なく笑った。

 

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