19 幽体離脱に失敗すると、レイスになってしまうらしい、奥村桧は、不死身の黒い霧を出す、レイスになったようです。

「どうしたんだ。黄昏れて。」 

 

 

 

 10月11日月曜日、瞳ヶ原高校の屋上にて、奥村 桧は、一人、黄昏れていた。

 

 ぼんやりと、何かが気がかりな様子で、外を眺めていた。

 

 

 

 「ああ、真七瀬か。私にだって悩みの一つや二つあるのさ。」

 桧は、言った。

 

 

 

 「どうしたんだい。」

 僕はきいた。

 

 

 

 「・・・。学校の屋上からみえる景色が好きだ。綺麗だ。海と街が両方みれる。潮が風に運ばれてきて、心地いい。」

 桧は、風を全身で感じていた。

 

 

 

 「いい街だよね。」

 僕は言った。

 

 


 「うん。」

 

 


 「大丈夫か。桧。」

 僕は心配そうに桧をみた。

 

 


 「わからない。実は、私は、幽体離脱に失敗して生霊となったレイスの一種なんだ。」

 桧は言った。

 

 

 

 「レイスの一種。何言ってんだ、御前。」

 僕は、突然の桧の冗談か本当かわからない告白に困惑した



 

 遂に、桧も頭がおかしくなったのであろうか

 

 


 「信じられないかもしれないが、本当なんだ。その証拠に私は、死ねない。」

 桧は、己の肉体をみていった。

  

 


 「そんなバカな。」

 僕はかえした。

 

 


 「証拠をみせてあげるよ。」

 桧は、ポケットから拳銃をとりだすと、自分目掛けて、撃った。

 

 

 

 バーン。

 

 

 

 銃弾が、桧のこめかみを貫通した。

 

 

 

 桧のこめかみから、奇妙な黒い霧が立ち込めた。

 

 

 

 霧は次第にこめかみに収束していき、こめかみに空いた穴は元に戻っていった。

 

 

 

 「なんだ、その黒い霧は。」

 僕は、驚いて腰をぬかした。

 

 

 

 「つまり、これが、魂と肉体の分離に失敗した、生霊、すなわちレイスの一種さ。私もこの肉体になった時は驚いた。現代科学を以ても、解明できない現象さ。」

 

 


 「そりゃあ、災難だな。」

 僕は言った。

 

 

 

 「ああ、とんだ災難さ。」

 桧は困り果てた様子でうなだれた。

 

 

 

 「にしてもどうして、幽体離脱なんてしようと思ったんだ。」

 僕はきいた。

 

 

 

 「なんとなくさ。母さんと父さんが小学2年のころに離婚して私は、父さんに引き取られて、転校した、高校になって、自分の好きだったこの街に帰ってきた。街にはおばあちゃんとおじいちゃんが住んでいる家があって、住まわせてもらっていた。二人の事は好きだった、いつも私の味方でいてくれた。けれど二人とも死んでしまった。私は一人になった。ちょっと気が滅入っていて、死者に会いに行こうとしたんだ。」

 桧は、言った。

 

 

 

 「治らないのか。元の肉体には。」

 僕は言った。

 

 

 

 人間社会で生きていく上で、幽霊なのか人間なのかわからない奇妙な状態でいるのは不便極まりない事であろう。

 

 


 「わからない。興味本位でした、幽体離脱の儀式に失敗したんだ、本で調べた情報によると、一度そうなると治す事は、ほぼ不可能らしい。」

 桧は、無念そうに言った。

 

 

 

 僕にはさっぱり理解できないが、桧はある程度の魔術を心得ているらしかった。

 

 

 

 「もし仮に、レイスだとバレれば、ヤバいんじゃないのか。」

 僕は、桧が心配になってきた。

 

 

 

 「ええ、とんでもないわよ。世界でも類をみないわ。きっと監禁されて、ずっと人体実験よ。コワいわ。」

 桧は身体を震わせ、恐怖した。

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