13 奇妙なところに住んでいる、絵の師匠の神谷 真。

 絵を描くのは楽しい、だから将来は、画家になりたい。

 

 そう思い始めたのは、僕が画家という職業を知った時からだ。

 

 子供頃から、絵を描くことは好きだった。

 

 だからずっと描いてきた。 

 

 明けても暮れても、ずっと絵を描いてきた。

  

 

 

 今日は、4月29日、金曜日。

  

 昭和の日で、2021年のゴールデンウィークのはじまりの日だ。

 

 

 

 僕には絵の師匠がいて、かれこれ、5年ほど師事している。

 

 

 

 街の外れの山の麓の洞窟の地下に住んでいる。

 

 

 

 洞窟は、1950年代に人工的に作られていたもので、自然災害で、埋もれて、工事していた人が生き埋めになっているところであったらしい。

 

 

 

 僕は、小学2年の頃、森や川を探検している最中見つけたのだ。

 

 

 

 何やら、怪しげな雰囲気を子供ながらにも感じていた。

 

 


 奇妙に、立つ小屋が、洞窟の近くにあった。

 

 

 

 小屋の前に、お兄さんがキャンバスを前に、座っているのをみた。

 

 

 

 彼が、僕の師匠になる人だったのだ。

 

 

 

 あれから、7年、弟子入りしてから、五年が経つ。

 

 

 

 「よう、真七瀬来たか。」

 おじさんは僕をみつけると、筆を止めて言った。

 

 

 

 神谷 真

 髪が膝辺りまで伸びた黒髪ロン毛の男だ。

 

 目鼻立ちは、しっかりとしていて、美形だ。

 

 美青年だ。

 

 街外れの森になんて住んでいるが、アパレルブランドと、化粧品をネットで販売していて、大金持ちならしい。

 

 僕でも知っている名前の会社だった。

 

 美大出身らしくて、絵がクソ上手い。

 

 海外留学の経験もあるらしかった。

 

  

  

 「君も物好きな少年だね。飽きず、僕に絵を教えてもらいに来るなんて。」

 神谷師匠は、僕のなりをみて言った。

 

 

 

 「師匠は、僕がこれまで会ってきた人間の中じゃあ、一番、すごい人ですから。」

 僕は言った。

 

 

 

 「ははは。照れるね。」

 師匠は、照れくさそうに頭を掻いた。

 

 

 

 師匠の癖だ。

 

 

 

 「課題にしていたデッサンと、スケッチブックは描いてきたかね。」

 師匠は、言った。 


 

 

 「はい。」

 

 


 「どれどれ。」

 

 

 

 師匠は、僕の描いてきたものをみた。

 

 アドバスをくれるのだ。

 

 

 

 「最近、いいことでもあったかい。絵が生き生きしてるね。女でも出来たかな。」

 師匠は、からかうように言った。

 

 

 

 あながち間違いでもなかったから、流石は師匠だなあ、と思った。

 

 

 

 「ははは。」

 僕は苦笑いした。

 

 

 

 「図星かな。ま、人の恋愛に口は出さないよ。デッサンは見せ方がよくなったね。もともと、写真みてえ、に上手かったが、構図とか、絵のかっこよさ、独創性に欠けていたからね、スケッチブックもいいね。君らしいよ。」

 師匠は言った。 


 

 

 「ありがとうございます。」

 僕は礼を言った。

 

 

 

 「もう君に教えられる事なんて殆どないね。君は僕に師事して一年も経たずに、僕より上手くなった。」

 師匠は言った。

 

 

 

 「そんな事ないですよ。師匠の絵は、凄いです。」

 僕は、正直な気持ちで言った。

 

 

 

 「君は上手い。僕の方が人生を長く生きている、だから、経験で、味が出てるだけさ。君も、いろんなものをみてきいて感じて、絵に反映させれば、誰かを感動させるものが描けるようになるよ。」

 師匠は、言った。

 

 

 

 師匠にすすめられて、休みの日に美術館に行ってみたり、いろいろなものに触れた。

 

 

 

 「君の絵は純粋で、僕は好きだよ。」

 師匠、僕の絵をみて言った。

 

 

 

 「ありがとうございます。」

 

 

 

 「今日は、ここで、少し描いて帰りなさい。」

 師匠は、筆を手に取り、絵を描くのを再開しながら言った。

 

 

 

 師匠と絵を描いている時間が好きだ。

 

  

 

 しばらく描いていると、時刻も午後5時を周り、日が落ちてきた。

 

 

 

 「君は、国立の美術大学に行くのだろう。そろそろ入試に向けた事をした方がいいかもねえ。予備校とかは行く気ないのかい。」

 師匠は言った。

 

 

 

 「行った方がいいですかね。」

 僕はききかえした。

 

 

 

 「ま、君くらい実力があれば、三年からでも遅くないね。僕もある程度は教えてるし。」

 師匠は、しばらく思案して言った。

 

 

 

 「君も、画家になりたいんだろう。」

 師匠は、たずねた。

 

 

 

 「はい。ずっといってますよね。」

 僕は返した。

 

 

 

 「変わらないね。」

 師匠は、穏やかに、言った。

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