第2話 秘書と白衣
さて、なんとか某大学病院の医局秘書として滑り込んだ私ですが、勤務前にいろいろ説明したいので、一度来てくれと連絡が。
無職の私は予定もないのでさっそくOKし、医局へ。
秘書さんたちは数名いて、自己紹介してもらった。みんな初対面では親切そうだが、裏ではわからない。それが女という生き物である(ひどい偏見)。
仕事をするにあたり、白衣を着るらしい。もちろん、新品などではなく先生方のおさがりである。私の普段着のセンスの悪さがカバーできるのであれば全くの無問題。
2着お借りしたうちの1着は先生の名前の刺繍が入っていた。これは自分で取ってほしいと言われたので、持ち帰ってとることにした。まだ開始まで数日あるので余裕だろう。
秘書の方に某大学病院内を案内してもらい、その日は白衣を持って帰った。
まだ無職(仮秘書)の私は、翌日白衣の先生のお名前の入った刺繍をとることにした。
まずは糸切狭で切ってみる。
………。
……。
…。
とれない。
うーむ。非常に頑丈に刺繍されているようだ。とれると大変だもんな。しかし、使いまわしする身にもなってほしいものだ。
実はうちはお隣さんの奥様が内職で縫物の繕いなどをされている。ので、母がお隣さんに行って刺繍をとる道具(名前わからん)を借りてきてくれた。
よし、これでばっちりとれるはずだ。
………。
……。
…。
とれない。
道具以前の問題で、やはりこれ刺繍が頑丈すぎるのである。
母にも手伝ってもらい、悪戦苦闘しながら刺繍をとろうとしたが、どうしても無理だった。
母「もう取れませんでしたって素直に言ったほうがいいよ」
私「…そうする」
勤務開始の日に持っていき、某大学病院を案内してくれた秘書さんに
私「すみません、とれませんでした…」と言ったら、
「いいよ。じゃあ私とろうか」
と言って、ほかの白衣を貸してくれた。
しかし、結局彼女もその白衣の刺繍は取れずじまいで、そのまま私に返ってきたのだった。
別の秘書さんに聞いたら、彼女は私と違って白衣の刺繍をどうしても取らなければいけないものだと思ったらしく、専門店に持っていって5500円かけて取ったらしい。日当吹っ飛ぶわ。秘書の給料は安いのである。
刺繍とるのにそこまでやろうという姿勢が素晴らしい。
クリーニングしても取れないけど、ハサミとかですぐ取れる刺繍ってないもんだろうか。
誰か開発してください。
主に私から感謝されます。
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