第24話 いざ、勝負
勝負はいざ始まる。
「みなさん!僕の言うことに従ってください!」
人質が皆、犯人達のいる入口方面へ身体を向けているところの反対側から大声でそう叫んだ。
「君は一体なんだ!?」
「犯人が人質は大人しくしていろって言ってるのだぞ!」
いきなり出てきた中学生という子供が言うことが信じられるはずはないのかそう叫ぶ客もいたがルギナは続けて叫ぶ。
「僕は今から全員が助かる方法を持ってます! みんなどいてください!」
中学生という子供の言うことがあてになるかはわからないがルギナの突然の発言を信じたものもいたようでルギナは座っている人質の中を全速力で走り抜け、犯人達に近づいた。
「おい!勝手な真似をするんじゃねえよ!」
犯人グループのうちの比較的人質に近い場所にいた一人がルギナを怒鳴りつけて武器を向けて脅そうとするが今のルギナには武器など怖くもない、何せどうせ残り少ない命を投げ出す覚悟でここへ来たのだから、
ルギナは手のひらに魔力を集中させて風の魔法を引き起こした。
激しい風の魔法は人質の頭上を激しく吹き荒れ、人犯人グループめがけて風の魔法を打ち込んだ。
ルギナの身体から強風が巻き起こり、それは台風のような暴風だった。
そのうちの衝撃波は犯人グループに向けられそれが武器を持った者へと吹き付きつける
「なんだあ!? なんでいきなり風がこんな屋内で吹くんだ!?」
人質を囲んでいた犯人達ははまるで何かに身体を突き飛ばされたかのように体ごと吹き飛ばされ、そのはずみで構えていた武器を落とした者が何名かいた。
その謎の力に誰も逆らうことも疑問を投げつけることもできないのか、突然の魔力の暴走をこの世界に存在しない魔法と認識できない人々は「キャー!」「何が起こっているのだ!?」と叫ぶことしかできなかった。
ルギナは走り切って、数百人の人質の中から客の前に出て、犯人グループと対峙した。
人質と犯人グループの間に割って入った形だ。
「なんなんだてめえは? 見たところガキじゃねえか。誰に言われてここに来た?」
「僕はあなたたちをここで始末せねばなりません。どちらにしろもうすぐ警察がここを抑えます。投降するなら今です」
「なんだガキがあ、何様のつもりだ!?」
「僕の要求は二つです。投降するか、人質を解放してください」
「誰がてめえみたいなガキの言うこと聞くか! 大人しくしてやがれ!」
そう言い放ち、持っていた刃物をルギナに向ける。
「てめえが何かするなら犠牲者が増えるぜ」
そう言い放った主犯格の一人は刃物を人質のうちの一人である子供へ向けた。
「ひっ……」
子供はルギナによって犯人に刃物を向けられ、今まさに危機に面していた。
いうことを聞かねば殺すと脅しているのだ
「そうはさせません」
その時のルギナの目はまるでヴィルキア家に火をつけた時のように殺気立っていてもはや人の心を持っていなかった。本気で犯人達をこらしめるつもりなのだ。
ここでは銃器がある以上お得意の火の魔法は厳禁だ。
それならば炎以外の魔法で戦えばいい。
ルギナはラフィディアで習得した他の属性魔法を目一杯使えるだけ惜しみなく使うことにした。
「言うことが聞けないのならば強制的に排除します」
今度は水魔法を作り出し、ルギナの手のひらからはまるで泉のように水が湧き出てそれは大きな水の塊になる。
「くらえ!」
人質へ凶器を向けた犯人メンバーの一人に大きな水の玉を投げつける。
「なんだ!? つめてえ!」
ルギナが放った水の塊どんどんあふれでては男の身体にぶつかり、まるで津波に流されるようにずぶぬれになりながらその勢いでショッピングモールの入り口へと男は流された。
そこへすかさず今度は雷を作り出し、そこへ放った。
水は電気を通すので、水で濡れた男の身体には雷が撃ち込まれる
「ぎゃあああ!」
叫び声と共に男は体中にショックを受けて気絶した。
おそらく短時間だがもはや戦闘不能だろう。
「なんなんだ一体!?」
突然の謎の力を理解できない犯人達は混乱していた。
ルギナは犯人達との距離で間合いを置きながら遠距離から攻撃できる雷や水に風といった魔法を次々と使いこなし、応戦した。
光の魔法で光の玉を作った。それを犯人グループの一人に命中させる。
光の玉は形を持ち、犯人達の身体にぶつかると、その場でかなりの光を放ち、はじけ飛んだ。
「う、うっげええ、眩しい!?」
あちらの世界では戦いに使うには威力の弱い魔法でしかなかったが光の魔法は魔力が存在しない地球では十分な威力になる能力だった。
リーダー格の男は目をかばいながらその場に倒れ込んで転がりまわった。
ルギナの放った魔法。この世界では謎の力で自分に何が起きたのか状況も把握できずにその場で身体を落ち着けようとするために激しくもがく。
「突入! 突入しろー!」
ルギナは入口の外にいる機動隊に聞こえるように大声で叫んだ。
中の様子が犯人達が動けない隙をつかみ、機動隊が突入する
それはまさに、一度に大波が押し寄せたかの如く、大人数の機動隊が押し寄せた
「確保―!」
頑丈なシールドを持った機動隊の制服に身を包んだ機動隊が一斉に入口から中へ入ってきた。
すさまじい足音と怒声が響き渡り、主犯格の男は「しまった」と声を上げ、先にルギナによって戦闘不能にされた犯人の仲間達は警察官に身柄を確保される。
外で待機していた機動隊が犯人グループの隙に生じたことにより一斉に屋内へ突入してきたのである。
ショッピングモールの屋内はあっという間に機動隊の突入により包囲された。
「人質を保護して怪我人を救護せよ!」
けたたましい数の機動隊と警察官により屋内はもはや人質と救護で混雑していた。
警察官の一人はルギナに声をかけた。
「君、どこから入ったんだい? 犯人達に何をした?」
警察官はルギナに対して質問を投げかけた。
この場で何かをしたのであれば事情聴取としてルギナを尋問する必要もあるからだ。
ルギナは今まであったことをどう説明しようか、とうろたえた。
しかしその背後で今まさに手錠をかけられようとした犯人の男が最後に悪あがきのつもりなのかルギナをにらみつける。
「ガキがあ……舐めた真似してくれやがって、ちっくしょう! このままやられてたまるかあ!」
犯人は最後のあがきとばかりに手錠をかけようとした警察官を全力で振りほどき懐からダガーナイフを取り出す。
どうやら何かがあった時の為に最後の手段として懐に武器をさらに隠し持っていたようだ。
「まだ武器を持っていたのか!」
武器を持った犯人を抑え込む警察官を全身の力でなぎ倒してルギナへとナイフを向けて突撃してきた。
ナイフは子供の腕程の太さがあり、刃がギラギラと光っていて切れ味もよさそうだ。
こんなものをまともに振り回されたら命に係わる致命傷となるダメージを受けるだろう。
リーダー各の男は少しだけルギナの腹めがけてナイフを向けた。
「死にやがれガキがああ!」
これまで離れた場所から遠距離魔法でばかり頼っていたルギナは至近距離からの攻撃から身を守る術を持っていない。
すぐに警察官が拳銃を犯人に向けたり取り押さえようとするも間に合わなかった。
主犯格の男はルギナに一直線に刃を向けて突撃した。
ずぐり、と深く刃物が肉を切り裂く音が響く。
その一瞬の出来事にまるで時間が止まったかのように優一は腹に当てられた衝撃を感じる。
「あ……」
その腰には犯人が持っていたナイフが突き立てられれいた。犯人が最後にと放った刃が優一の身体のルギナに命中したのだ。
「ざまあ……みやがれ」
そう言われて犯人はその場に倒れ込み、すぐさま警察官によって抑えられ手には手錠をかけられた。
腰からはナイフの淵からどくどくと血が流れだし、ルギナは立つこともできずにその場に倒れ込む。
「か……はっ」
下半身が熱く、傷がじくじくと痛みだす感覚が襲ってくる。
いよいよ優一として死ぬ時が来たのだと悟った。
痛みでもはや何も考えられなくなる。
「怪我人だ!すぐに救護を!」
警察官が大声でそう言い放ち、人質達はルギナの身体からあふれる血を見て騒ぎだした。
そこへだ。
「優一…くん?」
人質と警察官の大勢の中からよく見知った顔の人間が出てきた。
私服姿の友梨だ。人質解放で保護された彼女は怯えた表情でそこに立っていた。
ルギナにとっては探していた人物をやっと見つけることができた、
犯人グループと戦っている少年に見覚えがあり、それが知り合いだとわかった彼女は警察官の突入で保護されるものの優一を見つける為に血相を変えて出てきたのである。
「ゆ……り……」
友梨の姿を視界に入れるも意識はどんどん遠ざかっていき、視界は暗闇に閉ざされていく。
友梨は驚愕の表情を浮かべ、優一が犯人に刺されたと知ると、一緒にいた家族の制止を振り切って優一の傍にかけより、叫んだ。
「優一くん!? 死んじゃ嫌だよ!優一くん!?」
その叫びもむなしく、もはや当の本人にはもう聞こえていなかった。
自分がここで死ぬのであればそれはそれでいい。もう残り少ない寿命が早まっただけだ。
冥界はどんな場所かな、と思いながら最後に見た恋人の顔を思い浮かべながら
最後に友梨を救うことができてよかった、そう思いながら。
「これでいいんだ。これで自分にふさわしい最後だ」
そしてルギナは優一として意識を失った。
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