第17話 家族を失った感情

 今朝は早めに学校に着いてしまった。

 あのまま家にいるのも辛かったので気を紛らわす為に早くに学校に来たのである。


教室向かうと突然廊下の方で叫び声が響いた。

まだ来ている生徒の数が少ない朝の教室から悲鳴が聞こえたのだ。

何事かとルギナは自分の教室へと足を急いだ。

恐る恐る教室の中を覗いてみればクラス一の暴れん坊こと、日村進が机を投げて暴れていた。

「てめえらふざけんじゃねえよ! 俺の前で親父の話をするな!」

 彼はキレたら手がつけられないほどに暴走していた。

「何? 何があったの?」

 ルギナは教室の隅にいたすでに登校していたクラスメイトにこの状況を聞いた。

「なんか三田くんと花井くんが昨日家族とレストランで食事したって話をしてたら日村くんのお父さんの話になって、日村くんが突然怒り出したみたい」

 よくわからない理由で日村は怒っていた。

 誰かが教師を呼びに行ったのか騒ぎを聞きつけた教師が駆け付けて、椅子や机を投げ飛ばす日村を二人がかりで押さえつける。

「やめなさい日村! お前も怪我をしてるじゃないか!」

 暴走して椅子を壁に投げているうちに壁から跳ね返った椅子で日村自身も腕や足に打撲を負っていた。

「このクラスの保健委員の生徒はまだ来てないのか?」

教師がそう叫び、ルギナは自分が保健委員だと名乗りでる。

「はい、僕ですけれど……」

「日村を保健室に連れて行ってくれないか。ここの片づけは私達がやるから」

そう言い渡され、教師の一人とルギナは共に日村を保健室に連れて行くことになった。


 保健室に着いたものの、まだ朝早い時間の為に養護教諭が来ておらず、応急手当てができなかった。

 仕方なく、養護教諭が来る時間まで保健室で待つことにした。

「じゃあ君はここで日村が暴れてないよう見てていてくれ。私は君たちの担任に状況を説明してくる。」

そう言い残し、教師は保健室から出て行った。

あまり仲の良いわけではないクラスメイト、それも暴走していた脅威のある生徒と二人きりになる状況は好きではなかったがルギナは日村を見ていることになった。


日村も先ほどの興奮から落ち着いてきたのか、今は静かにしていた。

何も話さないのも空気が悪くなる、と判断したルギナは日村に話しかける。

「なんでそんなにイライラしてるんだ? いきなり暴力をふるうなんてよくないよ」

 ルギナは日村にそう言った。

「親が揃ってのうのうと幸せそうにしているやつを見るとむかつくんだよ。さっきあいつら、俺のこと「お前の家は父ちゃんいないからな」とか言いやがった。それがどうしても許せなかった」

「え、君の家、お父さんいないんだ」

 初めて聞いたクラスメイトの家庭の事情。

それは暴れん坊の日村の悲しい過去だった。

「俺は昔、飲酒運転でうちの父ちゃんを亡くした。だけど父ちゃんをひいた犯人は今は懲役期間が終わってのうのうと社会復帰して生きている。たった数年ほど刑務所で服役しただけで俺の父ちゃんを殺したことが許されてるんだ。俺は今でも犯人を絶対許さねえ」

その気持ちはルギナには痛いほどに理解できた。

ルギナもラフィディアでは唯一の家族だった母を亡くし、恵まれた家庭を恨んでいたからだ。

家族を亡くしたものは犯人に対して強い恨みを抱いていた。

 その日村の姿は夢で見たヴィルキア夫人の姿を思い浮かばせた。

家族を亡くし、その犯人を絶対に許さない。日村は父親について触れられたこと、その怒りで関係ない他者へまでもをストレスのはけ口にする。

 もちろん日村のやっていることは肯定されるものではないが彼もまた昔はまともだったが家族の理不尽な死により変わってしまったのだ。

大切な家族を亡くしたということはそれだけ残された家族にとっては暴走させるほどの大きな傷跡を残すことなのだ。

ルギナはこの世界にもそうやって理不尽な想いをしている者がたくさんいるのだと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る