第14話 同じ年の少女


 ルギナが日比田優一として学校へ行き始めて数週間が経過したこの日は、後期委員会を決める日だった。

 クラスから男子と女子、一名ずつが委員会に就任し、それぞれ二人で各委員会の仕事をする。日比田優一ことルギナなるべく勉強に時間を使いたいので仕事が少ない委員会を希望し、は保健委員に決まった。

 そして同じクラスのからは津久見友梨という女子が優一と同じ保健委員会を務めることになる。

「優一、羨ましいぜー。クラス一の美少女と同じ委員会なんてな」

 保健委員会に決まった優一を友人がそそのかす。

 津久見友梨、それはこのクラスなら誰もが知っている美少女だ。

 ルギナにとってはクラスメイトというものは親しい者以外はほぼ視線にも入れていなかったがこれからは委員会をするにあたって共に活動することが多くなるので覚えておかねばならない。

 津久見友梨は中学生らしい女子の平均身長で美しい顔立ちにロングヘアーだがその美しい髪とふくよかな胸のおかげで色気があり、表情は明るいもののおしとやかでまさに美少女というべき容姿だ。それはまるで夜空に浮かぶ月のような美しさだった。

  セーラー服の胸の部分は強調され、スカートからはすらりとした細い脚が見える。 

 学校生活に溶け込んでいて友人もそこそこいてその美貌から別クラスにまでその存在を知ららている程には知名度のある美少女だ。


 委員会の日にルギナは友梨に挨拶される。

「日比田くん、委員会で一緒になるの初めてだよね。これからよろしくね」

「……よろしく」

 あまり女子と話したことがないルギナは控えめに挨拶する。

 ルギナは今まで生きていてラフィディアでは人に疎まれる存在だった分、同性の友人もいなかったので母親以外の異性に接触をされたことがなかった。

 こちらの世界では小学校や幼稚園といった生活も経験したことがない。

中学生に上がれば異性とやりとりをするのが少なくなる年齢の為にそれは日比田優一になっていても同じであまりクラスの女子と話す機会もなかったのだ。

「これからは同じ委員会になるわけだし、優一くん、って呼んでいいかな?」

「どうぞお好きに」

「優一くん、今まで話したことなかったけどこれからは同じ委員会として仲良くしようね」

 同性の友人ならば仲良くしたいが異性と親しくしたことのないルギナにとっては友梨のこの近づいてくるスタイルは少々どう扱っていいのかわからなかった。




学校は中間試験期間に入り、ルギナは授業に追いついた後はもうすでにその先の中等教育の単元など覚えたも同然だが、初めての豆テストではない定期試験も復習のつもりで勉強に励んだ。


試験は無事に終わり、一週間後に中間試験の順位が発表された。

 廊下の掲示板に貼られた中間試験の順位表の前で他のクラスの生徒が感想を言い合った。

「今回の一位誰? 今まで百番以内にも入ったことないやつじゃん」

「だよなー、日比田って名前、今まで順位表でも見たことねえもん」

「全教科満点って化け物かよ……」

 順位表を見れば今回は学年内で日比田優一ことルギナが一位のトップの座を取っていた。点数は五教科満点というケアレスミスすらもない完璧な成績だった。

 日比田優一のことを知らない他のクラスの生徒達がいきなり一位に躍り出た日比田優一という存在に目を騒ぎ始める。

 その結果に驚いた他のクラスの者達は突然トップに躍り出た日比田優一の存在に何者かと噂する。

 それまでは百番以内にすら入っていなかった目立たない存在だったはずの日比田優一が突然学年一位を獲るほどの優秀な成績なのだ。

「今まで順位表にも載ったことないやつがトップなんて何かずるしたんじゃねえの?」

「いや、その日比田って奴は最近家庭教師をつけて猛勉強してるんだとよ」

「じゃあズルじゃなくて本人の実力なのかよー。家庭教師なんて羨ましいぜ」

 それは家庭教師をつけた本人の努力だけではなく、中身が日比田優一ではなくルギナという違う人物に入れ替わっていることをこの学校の生徒は誰も知らない。

 誰もが今までは目立たない存在だった日比田優一という人間が突如短期間で成績を勢いよく伸ばしたとしか思われていないのだ。

「すっげえじゃん優一! お前今回一位だぜ。もう入院のブランクなんてねえじゃん!」

「やっぱり今回は優一かー。そりゃあんだけ豆テストで満点取ってたらなー」

「すげえよな、最近の優一は。入院から戻ってきてからもう以前とはまるで別人みたいだぜ」

 日比田優一の最近の優秀ぶりを友人達が絶賛する。

 

 ルギナは今回の成績に満足して、堂々と教室に戻ろうとした。

「優一くん」

 廊下の掲示板を見た女子が話しかけてきた。津久見友梨だった。

「凄いね、優一くん。掲示板の順位表見たよ。入院しててみんなよりも遅れがあったのに数週間で授業にはちゃんと追いついたし豆テストで満点取ってるし、入院から退院してきた頃は授業もわからないとか言ってたのが嘘みたい!」

 まるで可憐な花のような笑顔で津久見友梨はルギナのことを褒めたたえた。

「大したことはないよ。最近は勉強が楽しくてたまらないんだ」

 ルギナはそう答えた。

「でも、入院してしばらく学校休んでた分、授業も受けてなくてその開いた期間の分まで勉強追いつくの大変だったんじゃない? それを取り返すように勉強頑張ったってことだよね! 優一くんは頑張り屋さんなんだね。そういうの本当に凄い!」

 津久見友梨は本当のことを知らない。この身体の中身は以前の日比田優一なのではなく違う別人になっていることを。

 津久見友梨だけではない、クラスメイトも家族も本当のことを知らず、優一が別人のように変わったとしか思っていない上での発言なのだ。

「優一くん、勉強楽しいって凄いね。今度私にも勉強教えて!」

 津久見友梨は笑顔でそう言った。ルギナはその顔に一瞬心がときめいた。


 津久見友梨は友人に呼ばれ、他のクラスの教室へと歩いて行った。

 友梨がいなくなった後、博がルギナに話しかける。

「優一ってさあ、津久見には興味ねえの?」

「興味って?」

 いまいちこの世界の男女関係に疎いルギナはその意味がわからなかった。

「ほら、好きとか異性としてどうなのよってことだよ。俺らの年齢だとそういう意識も出てくるじゃん?」

 好き、というのはいわば恋愛関係のことだろうか、と思った

「な、ないよそんなの! 今勉強することが楽しくてそんな女の子のこととか考えられない」

 ルギナはそう聞かれ、意味を理解すると顔を赤くして否定した。

「なんかあいつ、最近優一にやたら話しかけてくるよな。やっぱ委員会繋がりできっかけできたからなのかなあ」

 博の言う通りルギナがこの学校に日比田優一として来た頃には接点はなかった津久見友梨だが、委員会で同じ仕事になってからは彼女はルギナに絡むようになったのだ。

「津久見ってクラス一のマドンナっていわれてるほどの美貌なんだぜ。中学生であれなら将来きっと美人になるぜー。もしつばをつけとくなら今のうちかもな」

 友人のその発言に、この日からルギナは少しずつ津久見友梨を意識するようになっていた。



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