サキ
〈サキ〉
「あ、あのー……」
「えっ?」
突然暗闇から声が聞こえ、私は激しく首を振り周りを見渡した。
「あ、下です。すません背が小さくて」
幼い声に顔を向けると、そこには派手な衣装を身につけた小学生の男の子がポツンと立っていた。
「ど、どうしたの。ま、まだお家回る時間じゃない、でしょ?」
久々の子どもを相手に上手く口が回らない。
「お菓子……くれませんか」
彼はそう静かに言うと、両手でビニール袋を広げてこちらに差し出した。さっきのおっさんの件があったので、この男の子には妙な安心感を覚える。しかしお菓子は当然ながら持っていない。何があったのかは知らないが、ここはひとまず他の人に頼むよう言う他……
「僕、一人になっちゃって」
私の顔を見るため、思い切り顔を上げて目線を合わせてくる。
「この服、みんなにバカにされたんです。母さんと一緒に……時間かけて作ったのに、せ、センスないとか……い、言われて……」
「あぁーちょ、ちょっと」
暗闇の中で鈍く光る涙を見て、ハンカチを差し出しながら私も顔が熱くなった。
「……ごめんなさい、急にこんなこと頼んで。でも、お菓子持って帰らないと、母さんが、母さんが悲しんじゃうと思って……」
「分かった、分かった分かった。大丈夫。私と、お菓子買いに行こ」
膝を曲げ、正面から彼と向き合う。
「私、サキ」
「……光輝、って言います」
優しく微笑みを交わす私たちの頭上を、何かが風を切る音とともに過ぎ去っていった気がした。
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