所領拡大と技術開発など

真里谷信興に対し、里見の家臣になるよう命じ、理由を説明し、餌をぶら下げて納得させ、下がらせた後、次に呼んだ里見成義に、真里谷家の処遇と与えた命を教える。


「なるほど、宗泰様は某に信を置いていないと…」


そう言いながら、今にも吹き出しそうな顔をしながら里見成義が、泣きまねをする。


「下手な芝居はよせ。 無駄な争いをせずに、真里谷の所領を得られるのだ。 それに真里谷もこれでは怪しい動きは出来まい」


そう、里見成義に命じたのは、里見家が真里谷の臣従を認め家臣とする事。

現時点で真里谷が領する所領は安堵する事。

そして、家臣とした後、真里谷の家臣に接触し真里谷家内部の情報を常に把握できるようにする事だ。


甲斐を攻め取れば、真里谷は甲斐に転封させるので、上総の真里谷領はそのまま里見成義に与える予定になっている。

まあ実際の所、現時点で真里谷が領する地域は上総の内陸部が殆どで、内房は豊嶋が、外房は里見が、ほぼ抑えているので、交易路を封鎖するだけで真里谷は弱体化し、いずれ内から崩壊するのだが、甲斐を攻める際に甲斐武田家の分家である真里谷家を使わない手はない。


里見成義もそれを分かっていて敢えて泣きまねをしていたのだ。


「では真里谷信興を里見家の筆頭重臣、いや家宰待遇でお迎えいたしまする。 尤も、我が里見家の居心地が良すぎて家臣のままで居たいなどと言い出さねば良いのですが…」


そう笑いながら話す里見成義と、暫く雑談をし、その後、道灌を伴って最初に居た部屋に戻る。


「さて、道灌の目から見て里見成義をどう見る?」


「そうですな…、やはり野心が強く、ここまで所領を広げられたのは殿のおかげではなく、自分の才覚と思い込んでる…、いやそう自分に言い聞かせ、豊嶋家と対等になろうとしている。 と言った感じに見受けられ申した。 尤も本心を出さぬようにしている節があるので、虚勢を張っているだけかもしれませぬが…」


道灌が里見成義をそう評するが、里見家って、史実では結構信用ならない家だから、あながち間違っていないような気がする。


「それにしても、真里谷と里見、双方に互いを監視するよう命ずるとは。 一方は密かにと言い、もう一方には監視するよう命じたと伝えるとは。 万が一にも里見が裏切る際は真里谷を味方に引き入れねばならず、そうなれば風魔衆が異変に気付き、事が露見するので先手が打てる。 このような策をよくもまあ思いつかれますな」


呆れたように話す道灌だが、その顔は、楽しそうな顔をしている。

うん、道灌もこういう謀略的な事は意外と好きなんだな…。


報告に来ていた道灌が駿河に帰った後も、一門衆や重臣と面会し、領内の状況、論功行賞案、新たに増えた所領の統治状況、新しい技術開発状況に加え、新兵器の案、離島の所領化と産業の促進の話などが多くあり、全く休む暇がない。


もっとも、役目を与えられている一門衆や重臣達も激務で休む間も無いのだが…。


その中でも論功行賞に関しては、10月に行う事とし、戦後すぐに正条植えを実施させ、現在検地をおこなっているが、最初から味方していた国人衆、調略に応じた国人衆、合戦の中で寝返った国人衆に分けて転封を含め所領が極力飛び地とならないように調節をさせている。


因みに何故10月にしたかと言うと、ぶっちゃけ豊嶋家の財政が火の車になりかけており、新たに得た所領の年貢を論功行賞前に徴収する為だったりする。

銭は江戸で鋳造しているので、論功行賞の際に加増転封と共に銭を渡す予定だ。


関東では豊嶋家が銭を鋳造し流通させたので、米から銭に経済が替わりつつある。

そして北は葛西領を中心に、南は津島や堺、博多や鹿児島との取引も銭を使うようにしているので後はインフレにならないように注意をする必要があるが、まだまだ日ノ本に必要数の銭が行き渡ったとは言えないので、現在、銭の鋳造所はフル稼働だ。


そして離島の領有化に関しては、成氏との合戦が終わった直後から伊豆の海賊衆に命じ、未来で言う所の小笠原諸島、豊嶋家が最初に発見した事になるので、今後は豊嶋諸島と呼ぶ無人島に、開拓のための人足と代官を送り込んでいる。


これから開発を本格化するのだが、まずは船を着けられる港湾設備の設置を急務としている。

予定ではこの豊嶋諸島でサトウキビの栽培を大々的に行う予定だ。

後は住民の確保だが、離島だけあって集まるかどうかが心配だが…。


因みに成氏との合戦の最中でも、豊嶋家の職人達は新技術の導入や新兵器の試作などをおこなっていた。

技術に関しては、耐火煉瓦の作成に加え、反射炉の建設、そしてガラス製品の作成だ。


耐火煉瓦はまだ良かったが、反射炉は手書きの図面だけで建設をさせてこともあり、5基ほど失敗作となり、6基目で何とか成功した感じだ。

これで耐久力は鍛造物に比べて劣りはするものの、鉄砲の砲身を鋳造し量産が出来る。

ダメになったら再度鋳造して農具や生活用品にする事で再利用できるし…。


後、ガラス製品、これはやっと出来たという感じでまだ色も悪いし、不純物が混じっていたりするので今後も要研究だ。

いずれは切子…、豊嶋家が最初に作れば豊嶋切子と命名し、外国にでも売りに出せるはず。

ガラスの窓も作りたいし、こちらは研究費を惜しみなく使って技術向上に力を注ぎ込んでいる。


新兵器?

いや、あまり聞かないで欲しい…。

特に指示を出していた訳ではなく、職人達が自発的に行っていたのだが、戦国後期から江戸時代初期に作られた面白鉄砲が並んでいた…。

複数の銃身を持つ鉄砲とか、一回の射撃で数発分の銃弾を放てるが、再装填に時間がかかるので実用的では無かったり、銃身が複数あるので重たすぎたりと、残念な結果だった。

ただ職人達のやる気を削がないよう【頑張ったで賞】として多少の金と賞状を挙げたけど、出来ればとんでも兵器制作に、鉄の無駄使いは止めて欲しかった…。


それにしても6月ともなると米の相場が高い。

現状、米不足や食糧難には陥ってはいないが、今までは余剰米を奥州で売る事で利益を得ていたのだが、余剰が少ない為、西国で買い付けて奥州で売り捌いているが、相場が高いのであまり利益が出ていないのが現状だ。

収穫期に安く大量に買い付けられるように手配はしているが、来年から甲斐国を中心に疫病とそれに伴う飢饉が発生するはずなので、それに備えた貯えが必要なのだが、なかなか上手くいかない…。


だが、朗報だったのは、蝦夷地に勢力を持つ蠣崎氏の影響力の無い、十勝川周辺の人々との交渉が成功し、港建設とそれに伴う港町の建設、農地開発、鉱山開発の許可を得て、交易をおこなう事になったのだ。

許可を取るにあたり、かなりの量の米や麦などを要求されたようだが、毎年米や麦を治めるのではなく、許可を取る際に要求されただけなので、長い目で見たらリターンの方がでかいから問題はない。


港が出来れば、冬場を除いて船で米や麦、稗や粟、農具に多少の武器などを売り込み、反対に砂金に石炭、毛皮などを仕入れる。

豊嶋領で採れたサツマイモや柿を輸送し冬場に干し芋、干し柿、硫黄も入手が容易になったのであんぽ柿を作り、日ノ本に流通させる事も出来る。


あんぽ柿ならかなりの高値で取引されそうだし。

まあ買える人は限られてくるから、豊嶋領内での贅沢品どまりのような気もするけど…。


後は、豊嶋家内の役割分担を明確にして、法律を作らないとな…。


やる事が多い…。

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