成氏との会談 2

地球は丸い話から南蛮人の話になり、俺と事前に説明をしていた太田道真以外の面々の思考が追い付かなくなってきたので、一旦、地球や南蛮人の話を止めて、本題であるどのようにして日ノ本を纏めるかの話をする。


「まず、成氏殿には、足利幕府の…、いや、乱世を治められない将軍の権威失墜を弾劾し、倒幕の旗頭になって頂きまする。 そしてまずは関東を統一し、奥州を纏め上げて畿内へ兵を進めまする。 畿内を押さえれば朝廷を押さえたも同じ、そこで成氏殿を征夷大将軍に任じて頂きその後、足利将軍家として征夷大将軍の地位を返上し、まつりごとの在り方を大々的に変える事を宣言して頂く所存」


「足利家将軍家として征夷大将軍の地位を返上し、政の在り方を変えるか…。 だが誰が政をおこなうのだ? まさか政を朝廷にさせるなどとは言うまいな」


「朝廷は…、いえ、帝にはこの日ノ本の象徴として、公家と共に祭事を取り仕切って頂き、政には口出しをさせませぬ。 日ノ本が安定するまで政をおこなうは某と成氏殿、そして我らに味方した者の中で優秀な者で組織を作り、合議で決めまする」


「合議など、それぞれの利害で直ぐに瓦解しようぞ。 それが分からぬ其方ではあるまい」


「左様、恐らく直ぐに瓦解いたしましょう。 故にまずは、帝の名を持って日ノ本に惣無事令を発して頂き、国人衆同士の私戦を禁止し、争いは裁断所を設け、そこで裁き、それに従わぬ場合は帝の名をもって罰しまする」


「なれどそれでは後醍醐帝政権下で行なわれた建武の新政と同じことになるのではないか? そうなれば、新たな足利尊氏公となる者が現れるだけであろう」


「確かに、しかし後醍醐天皇のような政は行いませぬ。 帝には御禁裏領として大和の地を治めて頂き、公家への俸禄を帝より下賜する形を取って頂きまする。 あくまで朝廷は祭事を司り、政からは離れて頂く所存。 なれど最初からこの事を公家衆に伝えれば帝を巻き込み良からぬ企みをするは必定。 故に公家の所領と帝の御禁裏領として大和一国を用意し、大和で収められた年貢を帝が公家衆の官位に応じて分配するようにすれば、乱世で所領を横領され困窮している公家衆は安定した収入が得られると喜びましょう。 あとはゆるり、ゆるりと…」


「恐ろしい事だが面白い。 所領を横領され困窮している公家を助ける振りをしながら権力を奪うか…。 だが公家など前例が前例がと騒ぎ、煩わしいだけで無用な存在。 その公家共の目を逸らす為に安定した収入を餌にするか」


「公家など負の遺産でしかございませぬ故、使えるだけ使い潰し、後は大人しく帝の身の回りの御世話だけをして頂けばよろしいかと」


「しかし、其方が申す政を行うとしても、全てを纏める者がおらねば、やはり直ぐに瓦解しようぞ。 最初は其方が先頭に立ち纏めれば良いが、その後はどうする? 其方の子が後を継ぐなれば幕府と変わりあるまい」


「故に、最初は某が先頭に立ちまするが、その後、先頭に立つ者は、家柄、出自を問わず優秀な者を養子として集め育て、その中から選びまする。その為にも日ノ本に住む者全てが文字の読み書きが出来、算術が出来るよう日ノ本の各地に学び舎を設け…」


「やはり夢物語だ…。 だが面白い。 家柄、出自に関係なく優秀なれば日ノ本を纏める事が出来るとはな…。 だが武士は如何なる? 争いを禁じられれば武士は必要なくなろうぞ」


「それにつきましては、国人衆で石高10.000石以上の家はその石高に応じて中央に税を収めるよう定め、その金で武士を日ノ本を守る国軍の兵とし南蛮と争いが起こった際の武力と致しまする」


「話が大きすぎる! 全て絵空事、絵に書いた餅ではないか! そもそも関東を統一すると申すが、下野、常陸は先の合戦後、家督争いや勢力争いが激化し混沌としておるのだ。 余の名を使おうと、下野、常陸の国人衆は従わぬであろうぞ」


「従わぬのであれば滅ぼすのみにございます。 成氏殿を旗頭に、従う者を除き攻め滅ぼしたうえで所領を没収し安定化させる所存。 幸いなことに今年の収穫高は例年よりも減少し、来年には甲斐を中心に疫病が流行し、その余波は関東をも巻き込むことは必定。 民百姓の身に降りかかる塗炭の苦しみから、我らが救うという大義名分も立てられます故」


「疫病だと? なぜ其方は来年の事が分かるのだ!」


「神…、いや神仏からのお告げを受けました故、某はそのお告げに従うまで」


「神仏のお告げか…、そのような世迷言を余が信じると思うか?」


「来年になればお信じになられましょう。 豊嶋家は今年、上野を平定したら、攻め込まれぬ限り、これ以上の争いは致しませぬが、来年には常陸、下野を獲りまする」


そう言い俺が頭を下げると、成氏はどう返事をしてよいのか悩んでいるような表情をしている。


「待て!! この事、鎌倉の足利政知は知っておるのか?」


「いえ、話しておりませぬ故、存じませぬ。 成氏殿を征夷大将軍になどと知られれば大騒ぎされるのは必定」


「なれば政知を如何するつもりだ?」


「説得致します。 それに…」


恐らく成氏は、足利政知の暗殺という事が頭をよぎったのだろうか、一瞬険しい顔をし続く言葉に耳を傾けている。


足利政知の説得。

普通に説明しても確実に政知は首を縦に振ることは無い。

それどころか成氏ではなく自身を征夷大将軍とするように言い出すのは火を見るよりも明らかだ。


なので成氏には、政知の嫡男である、足利茶々丸を養子として迎え入れ、家督を形式上継がせる。


足利茶々丸に関しては色々と悪い話しか聞かないが、政知からすれば厄介払いが出来たうえ、古河の足利家を取り込めると思うはずだ。


茶々丸には鎌倉、古河の二つを茶々丸が一つに纏める為に成氏の養子になるのだと言えば嫌とは言わないはず。

まあ茶々丸とは会った事が無いので何とも言えないが…。


「なので、政知様には茶々丸殿を成氏殿の養子とし、畿内を制圧し、朝廷を我が物としたら、成氏殿の後を継ぎ関東公方になって頂くと伝えれば、次男の潤童子が次期将軍になると思われるかと。 道具にされる茶々丸殿には申し訳ないのですが…」


「政知にはお気に入りの次男、潤童子が次期将軍にと思わせておくという事か。 して我が子らは如何するのだ? すんなりと茶々丸を養子とする事を家中の者も良しとせぬであろう」


「左様でございまするな…、故に茶々丸殿の人となりを見てからの判断になりまするが、最悪茶々丸殿には病死して頂こうかと」


「病死か…、余はあまり好かぬが、致し方あるまい」


「それに僧から還俗した政知様は権力に対する執着心が強うございまするが、両上杉の傀儡だっただけあり、政、謀、荒事、全てにおいて疎うございますれば、疎んでいる茶々丸殿が病死したとしても怪しまぬかと」


「聞きたいことはまだ山ほどあるが、最早頭が追い付かん! 後日、江戸に使者を送り返答する」


そう言うと、成氏は席を立ち、野田、梁田を引き連れて帰っていく。


うん、やっぱり頭が追い付かないよね。

自分でも説明する順番を間違えた感じだし…。


成氏と接触を持てたし、初めて会ったけど大体の人となりはわかった感じがするから、もう少し時間をかけて説得しよう。


それにしても、成氏って俺が予想していたより頭の回転が速いし、慣例なんかに囚われないタイプだったことには驚いた。


時代が時代だったらもっと後世に名を遺しただろうな…。

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