第2話

あれは街が浮かれ出す季節…。

この世界にはない憎き文化、クリスマスの日だった。


・・・


・・・


・・・



ベットで平日の疲れを癒やしてた休日の朝のことだ。



テテロン、テテロン、テテロン



それまで静かだった部屋に着信音が響き渡る。



俺は半分回っていない頭でそれが着信であることを知り



その電話の主が部長であることに気づくと応答ボタンを押した



「はい……ヤマザキです…」



「おい、お前今どこだ?」



「家ですけど…なにか」

「馬鹿野郎!お前!」

「今日は出勤だろ!」



「え、だって今日休日で…」


「もしかして…休日出勤ですか?」



「そうだよ、なんでシフト表見てないんだ?」



「すいません…でも先週見たときは確かに休みで…」



「は〜」


「山崎君」



「はい…」

「このご時世、仕事があるというだけで恵まれたことなんだよ?」


「工場の稼働状況によっては急遽人手が足りなくなることもある」


「そういうことも考慮して毎日シフト表の確認をするのが」


「社会人として最低限の努めだと思わないか?」



「そうですね…」



「やけに不満げじゃないか」


「なにか…文句でも…?」



「い、いえ…」



「まあこうして君と話してる時間ももったいない」

「12時までに工場に来てくれ…」



「え、12時ってあと」

「12時までに工場に来てくれ」



部長の威圧的な声は"はい"以外の回答を言わせなかった。



ガチャ!! 



工場からかけていたのだろうか、受話器を叩きつける音で電話が切れる。



「マジか…」



「今日休日出勤とか知らないし…それに…」



俺はスマホのロック画面に映る日付に目を向ける

「クリスマス…か…。」


「そりゃね!俺は独り身ですよ!!」


「31にもなって彼女の1人もいない哀れな生き物ですよ!」

「わかってる!どうせ出勤しなかったところで1人で過ごすよ?」

「でもさ…でも、せめてフライドチキンを買って」


「コーラも買って…テレビをエンジョイする…。」


「そのくらいしてもいいじゃん!許してくれよ神様!なあ!」


「1人だけ誕生日で幸せになりやがって…。」

一通り誰もいない部屋で叫び、俺は工場に向かうことにした。


・・・


・・・


・・・


ブロロロロロ



特に使いみちのない金で買った車で工場まで向かう。



30分ほどの通勤路、少し山に差し掛かったところで



俺は取り返しのつかない…



ミスをしてしまったんだ。



「マジ急がないとな…」



部長の無茶な欲求に応えようとしたのが悪かったと思う。



道路の真ん中に急に影が現れた。



「え!?」



そう思いハンドルを右に切ったときにはもう遅かった。



車はガードレールを突破し崖を落ち始めていた。



そして…

ガシャーン!!



人生でうけたことのない強い衝撃。



薄れゆく意識の中で、俺は



「次生まれ変わったら…社畜…やめてぇな…」



そう呟いただろうか



そして…



・・・


・・・


・・・

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なんで俺、異世界行ってまで社畜してるんだ…? @soululs

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