「それでどうしたんですか?」

鈴美は瞳を大きく見開かせてそう尋ねてきた。

「何でもねーよ。というかお前こそ何で1人でホテル街にいたんだ?」

本当に疑問である。レストラン周辺はホテルやちょっといかがわしいお店が多く学生が1人で出向くような場所ではない。

「お前、普段清楚ぶってる癖に...まさか!?」

「そ、そんな訳ないじゃないですか、というか清楚ぶってる訳じゃなくて正真正銘の清楚なので!」

いや、その発言のしてる時点でファション清楚なんだよなあ。

なんて事を思いつつ、俺は笑みを浮かべた。

不覚ながらこいつのお陰で落ち着いてきた。

「へー。すごい、そうかー。清楚だな。それじゃまた、明日学校で!」

小馬鹿にしたからなのか、帰ろうとしたからなのか、物凄い眼力で鈴美に睨まれた。

やはり、美人に睨まれると怖いななんて思いつつもう逃げられないと悟った俺はもう一度席に着いた。

「...わかった!わかったから睨むな...泣くぞ」

「いや、さっきも泣いてたんですから変わりませんって」

「変わるだろってか女子に睨まれるとか怖すぎて声あげて泣くからな」

正直、美人に睨まれるというのは苦手である。

今回のはもちろん冗談であり、それが目に見えてわかるからまだ良いのだが、これが仲が良くない女子と起こったと考えると玉ヒュンモノである。

ごほんっと喉をならし、間を開けてから俺は重い口を開いた。

「うちの父親が再婚して美人な母と義妹が出来た」

「へー...それって最近発売したラノベですか?」

「んなわけあるか」

「まあ、でもその話が本当だとしたら萌ブタな先輩からすれば万々歳な話じゃないですか」

心なしか、少し波風の口調が強いような気がする。

というか強い。

「おい、言葉にトゲがあるぞ」

これはもしかして、やきもちか?やきもちなのか?そう一瞬、思ったがこのファション清楚ドライ後輩に限ってその可能性は低いだろう。

「本当に気づいてないんですか?」

波風がこちらをまるで迷子の子供のような視線でこちらを見つめてくる。

ロングに下ろしている艶のある黒髪に少し薄茶いろが混ざった可憐な瞳。

制服越しでもわかる、胸の膨らみ。

改めてみるとこいつは本当に綺麗な少女なのだろう。

「まあ、それでどうして嫌なんですか?」

俺から望んだ答えが出ないと悟ったのか波風はやや呆れた様子でこちらを見つめてきた。

「...これが初めてじゃないんだ。今までにも4度あった。それで4度目に家族になった妹と色々あって生き別れちゃって。」

「はい」

「その妹の親権は一応父にあるから、妹が帰ってくる可能性があるのに彼女らを家族として受け入れる訳にはいかない」

そう。妹は今でも俺に存在意義を提供してくれている。

彼女と母に愛されたという事実があるから、俺はこうしてある程度真っ当に生きてこられている。

そんな妹を裏切る訳にはいかない。

妹の居場所を兄貴として守らなければいけないのだ。

「まあ、妹は帰りたいとは思ってないと思うけどな」

俺に力がなかったから、俺が子供だったから、俺が妹より一歳しか年上じゃなかったから妹を傷つけてしまったのだ。

「そんな事ないと思います!妹さんは今も先輩のこと愛してると思いますよ」

波風は慈愛に満ちた微笑みをこちらに向け、手を握ってくる。

手は壊れてしまうのではないかと思う程に柔く、小さかった。

「...決めました」

先程の笑みから一変、少し強張った表情で波風はそう呟いた。

「お店に戻りましょ?先輩だけが、傷つくのはあまりにも理不尽です」

「も、戻るって」

波風の手の握りが強くなっていることがわかる。本気なのだろう。

「でも、家族のいざこざにお前に迷惑をかけるわけには...」

波風がこちらをどのか寂しそうな表情を浮かべ見つめてくる。

「気づいてよ、ばか」

何かに気づいてほしいような様子、俺の為に本当に怒ってくれる優しさ、妹と同じ下の名前、そして時々感じられる妹の面影。

「お前...鈴美か?」

「...うん」

その一言と同時に俺の頬にすぅーと涙が流れた。

「そうか、あのまま無事だったのか...よかった」

「はい、私は今家族にも恵まれて幸せです。」

よかった。本当によかった。

鈴美が無事に高校生になれていて本当によかった。

「話が戻りますが、迷惑じゃありません。これは私たち兄妹の戦いです!」

こうして俺たち義理の兄妹は再開を果たすのだった。

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義妹がクラスの高嶺の花だった件 天草 仙 @kamuidyo

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