義妹がクラスの高嶺の花だった件

天草 仙

星空が煙で覆われ、電灯で煌めく街の夜。

俺は父と久しぶりに外食をしに、レストランへと向かっていた。

というか父と食卓を共にすることに自体が3年ぶりであった。

別に父の仕事が忙しいとかでもない。

だが、俺が中学二年生の時に色々ありそれ以来父とは口を利いていなかったのだ。

「八一、バイキングだぞ~」

と父は珍しく笑みを浮かべていた。こんな笑みは初めてみたかもしれない。

俺は胸には嬉しさと同時に憎しみが沸き上がっていた。

俺はすかさず左手をぎゅーと握りしめ、目をつぶり深呼吸をした。

これは俺の母親と妹が教えてくれた方法で今でもこれを使っている。

この一連の動作をすると、彼女らの笑みが頭の中を巡った。

俺にとって彼女ら血の繋がりはないが家族なのだ。

彼女らだけが、俺に存在意義を与え、時には叱ってくれたのだ。

「ここが今日お世話になるレストランだ」

どうやら頭の中であーだこーだ考えていたらもうお目当てのレストランに着いたようだった。

心なしか父の声はいつもより幾分かトーンが高い気がした。


レストラン内はお洒落な照明器具やインテリヤの数々が並んでいて、えも言えなくなる程に美しい内装だった。

気の良さそうな従業員に案内され、奥の個室部屋前前まで行くとどこか違和感がした。

少し年老いた女性の声と俺と同年代くらいの少女の声が聞こえるのだ。

父はどこ吹く風といった様子で構わず、戸を開けていた。

戸を開けるとそこには綺麗な父と同年代くらいの女性とその隣にクラスメイトの桐崎さんがいた。

「ごめん遅れたわー」

「大丈夫私たちも今きたところよー」

なんて会話を父と女性は繰り広げている。

ふと女性と目が会うと慈しむような視線を向けてきた。

父と彼女らはどのような関係なのだろう。

あらかた予想は着くが一応聞くことにしてみた。

「父さん、この方たちは?」

父は先程の笑みとはうって変わって少しばつが悪そうな表情を浮かべている。

「お前の母になるエミさんと桐崎ちゃんだ」

またこのセリフだ。

実は俺は義理の家族が新たに出来るということを4回も繰り返している。

これが父と俺の関係を悪くした原因でもあるのだが。

1回目は小学校1年生の時、新たに姉と母が出来た。

その時からだろうか。父の俺に対する扱いが酷くなっていった。

最初は無視などといったものであったが次第にエスカレートしていって食事ぬきや暴力が日常化していった。

それをみた姉と母も俺に虐待を行うようになり...

ということが3回目の家族まで続いたのだ。

だが4回目の家族。いや、本当の家族は違ったのだ。

母は何かを頑張ったら温もりを教えてくれ、悪いことをしたら常識のある言葉で叱ってくれた。

妹は騒がしく世話の掛かる子で俺に慈しむ心や居場所を与えてくれた。

2人は人を作る要素で最も大切であろう愛を教えてくれたのだ。

そんな生活を中学校2年生まで続けていたのだが、ある日母は買い物の最中車に轢かれ亡き者になってしまった。

母は僕の好きなオムライスの献立表を握りしめ、この世を去ったようだった。

そして妹も母側の親族の家の前に父が置き去り妹はその親族に家で暮らすことになった。父は妹の意見を無視して送りつけたのだ。

妹は別れ際

「大きくなったら絶対にまた、にいにの所にくるからね!」

と言ってくれたのだ。妹にそんな事を言わせた自分への嫌悪と童児に父への憎しみが沸き上がってきた。

それから俺は父と口を聞くことがなくなり今にいたる...

といった感じた。

エミさんと桐崎さんのみつめると笑みが返ってきた。

2人はとても良い人なのだろう。

「血の繋がりはないけれど、精一杯お母さんするからよろしくね」

「クラスではあんまり喋ったことなかったけどよろしくね!」

だが、俺は2人を受け入れるわけにはいけない。

父と家族になったら苦しむ事になるだろうし、それに妹と約束したのだ。

親権的には父名義あたるようなので妹が戻ってくる可能性は十分あるからだ。

「ごめんなさい。俺はあなたたちを家族だとは思いません。妹の部屋だけは使わないで下さい。俺の部屋は好きにして良いので」

彼女たちは悪くない。全ては力がなかった俺と父が悪いのだ。

「おい!八一!失礼だろ!」

父がこちらへ向かって怒鳴ってきたが怒りたいのはこちらの方だ。

今でも妹のあの絶望したような表情が脳裏から離れないのだ。

「幾度となく女を泣かし続ける父さんにいわれたくないよ。前から思ってたけど父さんって清楚系の女性がを泣かせるのが好きなんだね。今回は不倫?DV?どうするの?俺も父さんみたいに女を泣かせまくるよ。これが父さんのいう常識なんでしょ」

我ながら最低だ。俺のこの発言により、個室の雰囲気よりいっそう最悪なものへとなっていった。

エミさんや桐崎さんにも関わりが事でこんなことをいうなんて自分で自分を殺したくなった。

「じゃお、俺はこれで」

俺は個室を飛び出すように出て優雅に食事をきている人たちを横切るように走り去り店から出た。

「あー!八一先輩じゃないですか!」

店のすぐ側で涙を拭いていると後輩の波風鈴美がいた。

部活帰りだろうか?

「今からファミレス行きませんか?出来れば先輩のおご...ってどうしたんですか!?」

涙を拭ききったつもりだったがどうやら少し残っていたらしい。波風にばれてしまった。こいつは図々しいようで優しく、仲間思いなヤツなのでおそらく心配させてらしまっただろう。

「なんでもねーし。というか後輩の癖に先輩に気なんか使うな」

「そっちこそ先輩の癖に色々溜め込まないでください。ほら、とりあえず今日の所は私の奢りで良いのでファミレス行きましょ!良ければ話し合い聞きますよ?」

波風の笑みはどこか妹に似ていて俺は悲しみを忘れ、たちすくしてしまうのだった。

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