第3話 これまでの物

 3


「例えばよくあるものだと……」


 ファイルをパラパラとめくり、過去の依頼を眺める。


「やっぱりペットですかねぇ。早乙女さんペットとかは……」

「俺あれ飼ってます。金魚すくいでゲットした金魚」

「え? いつのですか」

「こないだの夏祭りで、友達と久々にやったんですよ」

「へぇー。まぁでも金魚は逃げたりしないですもんね」


 またページをいくつかめくる。


「もう売られていない昔の漫画、とかありますよ」


 大きくヒットはしなかった漫画にもファンはいるもので、ふとしたきっかけで何十年も前の作品にハマるケースも多い。こういう依頼では基本的に古本屋などを当たって捜索するのだが、時として独自のルートで入手する場合もある。


「俺漫画読まないんですよね、小説とかは読むんですけど」

「小説でもいいと思いますよ」

「でも結構最近の作家さんが好きなんですよね」

「あー、そうですかー。もうじゃあ、靴下片方、とかは」

「はい?」

「…………」

「……フフフッ」


 自然と訪れた沈黙に、思わず二人とも吹き出した。


「い、いや、あるじゃないですか。靴下片方だけしかないみたいな」

「そりゃ勿論ありますけど。え、なんすか、そんなのも捜してくれるんですか」

「まぁ、探偵事務所なので」


 美咲のわざとらしいどや顔に、早乙女はまた笑い声を上げた。


「あとは、夢、とかですかね」

「夢? また面白そうなこと言いますね」

「以前小さい子でいたんですよ。僕には夢がない、だから夢を一緒に探してほしい、って言う子が」

「素敵な話じゃないですか」

「ちなみに早乙女さんは……?」

「俺は夢ありますよ」

「あー、あるんですね」

「ずっとパイロットになりたくて。まだ諦めてませんよ」

「そうなんですね。じゃあ……」


 美咲はまたパラパラ音を立てながら、ファイルを覗き込んだ。

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