第11話:決意の火曜日

目を覚ます。

廉太郎は眼前の風景にギョッとした。

そこには、何かの爆撃を受けたかの如く崩壊した建物や、荒れた砂地に時折除くアスファルトなど、俗に言うポスト・アポカリプスの風景がそこにはあったからだ。

空は雲に覆われ、強風が絶えず吹きすさぶ。


隆起する砂の山の横に乗り捨てられた乗用車や、自転車たちを横目に砂山を登る。砂漠の砂のごとく、踏みしめるとパラパラと少数の砂が下へと流れていった。


登りきった上から見る景色はある意味壮観だった。マンションや見慣れた学校がいくつも斜めになって倒壊しかけている。一階等の下層階の部分は砂に埋もれてしまっているだろう。


「誰かぁ!いませんかぁ!?」


それらの風景に対して大きな声で叫ぶが、風の音以外には何も音がしない。


「誰もいないのかなぁ?いや、そうじゃないな。声が聞こえないんだ。学校に行ってみよう」


そう決意し、砂山を慎重に滑り降りた。




瓦礫の山々をひた歩く。かろうじて残っているアスファルトの両サイドには建物が数百年風雨に晒され朽ちており、それらをよく見ると、廉太郎が知っている個人店や居酒屋の看板がかかげられている。


更に言えばそれらの並びもよく知っている店並びだ。


「僕、この場所を知っている……?」


自問自答してみる。そう、ここは駅前だ、と認識すると眼前の風景の中に朽ち果てた何時もの駅が姿を現した。


突然、目の前にそれが現れたのにも関わらず廉太郎はこの事態を微塵も不思議がらなかった。それどころか、その風景を当たり前だと認識しているフシもあった。


「駅だ……。ここも朽ちてるなぁ。これじゃあ、学校行けないよ」


そこまで言って自分が何を言っているのか意味が分からなかった。学校は、すぐそこにあるじゃないか。それにあんなに朽ち果てていては授業どころではない。


「誰もいないのか?」


いそいそと歩き回る。誰かいないかと人影を探して右往左往する。

しかし、この界隈には誰の姿も見えない。

その時、廉太郎の髪を逆立たせる程の強い風が吹き荒んだ。長い間、風に煽られていると、ふと、自身の心に孤独という二文字が浮かんだ。


そうか。自分は孤独なのだ。

孤高といってさえ良い。

いや、そんな殊勝な存在じゃないか。僕は。


心の中で何かモヤモヤとか広がるもの感じる。そのモヤモヤに調子を合わせるように風は強く吹く。


「うわっ!?」


風に乗って、砂が目に入ってきた。瞬時に目を閉じる。強風のせいで中々目を開けられない。しばらくそうしていると、遠くから声が聞こえた。


最初は気のせいかと思ったが、次の瞬間も何か声のようなものが聞こえた。

どこから聞こえている?

目を瞑ったまま首を左右に振る。目は開けられないから耳だけが頼りだった。


まただ。また、聞こえた。


確実に声。それも聞き覚えのある。

誰だろう、と自分の心なかで、日々付き合いのある人達の声を再生させる。

父、母、楓姉さん、小泉さん、生野、長嶋、近藤……。

この声は、生野の声だ。


「おーい!有川ー!」


生野の声だと認識すると、はっきりと廉太郎を呼ぶ声が聞こえた。


「ど、どこにいる!?」


口の中に砂が入らないように注意しながら、声の主に問いかける。


「ここだ」

「何処だ?」

「こっちだ!」


今度の声は長嶋の声。


「だから!何処だよ!?」


声だけが響き、明確に居場所を伝える気の無い言葉に苛立ち、声を荒らげてしまう。


「有川君!こっちだ!」

「今度は近藤か?」

「そうだ!手を伸ばせ!」


相変わらず風が強く目を開けていられないが、声の言うとおり、前方に手を伸ばすと、その手はしっかりと握られた。


「え?」

不意の出来事に思わず目を見開いてしまう。しかし、いつの間にか強風は止んでいた。

廉太郎の眼前には、3人の見慣れた友人達が肩を並べて立っていた。廉太郎の手を握っていたのは近藤だった。


「一人で悩むなよ」


目の前のボロボロのマントを羽織った旅人のような近藤が言った。


「そうだぜ!有川!俺達がいるだろ!?」


続いて旅人のような生野が、ガッツポーズをしながら言った。


「困った事があったら言ってくれ」


最後にこれまた旅人のような長嶋がそう言った。


「僕は……!一人じゃなかったんだ!」


孤独だと思っていた。

だが、現実は違う。


そう思った時、4人の周りの取り囲む建物が光り輝き始め、倒壊していたビルも学校もちゃんといつも通りの姿に戻り、いつの間にやら人々で溢れかえった。

街は活気を取り戻した。


「前に言ったろ?何でも言ってくれって」


近藤の力強い眼差しに気圧され、廉太郎は静かに頷くと一気に覚醒した。



                  ♢


「はっ!?」


瞼がカッと開かれる。そのまま視線を天井に這わせる。


「夢……」


天井に見慣れたシーリングライトがあって、ホッとした。ここは荒廃した日本ではないのだ。


「何か気恥ずかしい夢だったな……」


ベットから上体を起こし、カーテンの隙間から外を覗く。夏の日差しが外を照りつけ、今日も暑そうだった。

ふと、時計に目をやると、いつも起きる時間よりもほんの少し早かった。二度寝するわけにもいかず、ベットから起き出して一階へと降りた。


一階からは物音が聞こえてきて、道子が既に起きて朝ごはんを作ってくれているのだと判断できた。

リビングの入り口から母の背中に、おはよう、と声をかける。


道子は、こちらを振り向いておはよう、と言った。母が忙しそうなのを尻目に廉太郎はソファに腰掛け、テーブルの上のリモコンを使ってテレビをつけた。

ボーッとニュースを眺める。例の通り魔の事件の続報はなにも無かった。捜査が難航しているのか?


自分には犯人が分かっているのに……。

と無力感を感じずにはいれないのと同時に警察の無能さに段々と腹が立ってきた。どうして宮崎を捕まえないのか?あんなに分かりやすいのに!


気付くと膝の上で握り拳を作っていた。はっ、と我に返った時、後ろから

「ご飯できたわよ」

という呑気な声が聞こえてきた。


慌てて握り拳を止め、ダイニングテーブルの席に付く。いただきます、と朝食に箸をつける。

パンを食べていると父がスーツを着た姿でリビングに現れた。


「じゃあ。いってきます!」


元気に挨拶をした俊哉は、踵を返して玄関へ向かって行った。その後ろ姿を道子は追いかける。

一人取り残された廉太郎はあいも変わらずテレビを見ながらパンにかじりついていた。


父の顔を見る度に、頭に疑問が湧き上がる。

もちろん、疑問は父が会社で何をしているのか、だ。土曜日以来、父の数字は変わらない。頻繁にできる悪さということではないのだろうか?

テレビから流れるニュースの情報はちっとも廉太郎の頭には入らない。


今度それとなく聞いてみようか?

あまり直線的では無く、回りくどく、悟られぬように……。

そうしよう。


そこまで決意するのと同時に、パンを食べ終える。もしくはその逆、パンを食べ終えたから考えるのを止めた、ともとれる。



                  ♢


通学途中の電車の中でいつもの風景を見ながら、ぼんやりと今日の夢の事を考えていた。


夢の中で最初、自分は孤独だった。それは今の現実の廉太郎の境遇と同じだ。この数字の事を誰にも相談できず、相談したとしても、楓の様に真面目には取り合ってくれない。


自分の置かれた立場について、誰にも相談できないのだ。今日の夢はそんな自分が見せた無意識のものだろう。


だが、そんな夢の中であの友人達が現れ、困り事があるなら相談しろと言った。もちろん夢の中だから、廉太郎自身が作り上げたものだ。

しかし、このタイミングでそういう夢を見るということは何かの思し召しかもしれない、と廉太郎の中で変化が起きていた。


友人達には相談しないと決めていたが、笑われてもいいから、馬鹿にされてもいいから、相談してみよう、と。


だからスマホを取り出して、コムニアスで愛華に

〈今日はちょっと用事があるから一緒に帰れないや〉

と牽制のメッセージを送った。



                  ♢


剣道部の部室。


「なあ。俺、いいのか?剣道部員じゃねぇんだけど?」


一同が腰を落ち着けてから、開口一番生野が言った。


「構わないよ。有川君の友人なのだから」


そう返答したのは剣道部主将の近藤だ。生野と長嶋は廉太郎と同じクラスだが、近藤はクラスが違う。近藤と生野はつまり接点が無い。


「それで何だよ?改まって?」


そう悪態をつくのは長嶋だった。

帰り際に彼ら3人を声をかけ、無理矢理剣道道場の奥にある剣道部の部室へと連れてきたのだ。午前授業で長嶋や生野は内心嬉しがっていたため、急な友人の呼び出しに反感を持った。


「悪いな。来てもらって。大事な事なんだ……」

「へぇ……。前言ってた、家のことに関することかな?」


近藤は鋭い。


「まぁ、当たらずとも遠からず……かな?」


廉太郎は言葉を濁した。


「何だよ?大事なことってぇ?」

「あ、あのさ……。笑わないで聞いてくれよ?」

「だから何だよ?」

「お、お前らさ……、他人の悪意っていうか、悪い部分が目に見えたらどう思う?」


誰もいない部室に沈黙が流れる。今日も通り魔のせいで全部活は停止された。剣道部とて例外では無い。


「どういう意味?何か誰かが悪さしてるシーンを見たのか?」


長嶋が、苛立ちながらも質問してくる。そんな苛立ちを肌で感じながらも、平静を装い回答する。


「いや、そういう事じゃないんだ……。何て言うのかなぁ?」


廉太郎は一番伝わりやすい言葉を探したが、そんなものは思いつかなかったので、本当のことを包み隠さず言うことにした。

3人は廉太郎の顔をしっかりと見つめ、次の句を待っている。


「そう頭の上に数字が見えるんだよ。悪さの」

「……」


またもや沈黙。やがて、生野の頓狂な声で沈黙は打ち破られた。


「は?」

「廉太郎〜。そんなバカみたいな事言う為に俺たちを呼んだのかぁ?」

「ぼ、僕は至って真面目だ!真剣に悩んでるんだ!」


夢の中とは対象的な態度。もちろん今朝の夢は廉太郎の夢なのだから、都合よく美化されていたとしても変ではないが、この態度はいくらなんでもあんまりだ。とはいえ現実はこんなものだろう。


廉太郎を茶化す、そんな2人とは対象的に近藤は真面目くさった顔を崩さず質問した。


「悪さの数字って具体的にどんな感じなんだい?」

「キャプテン、真面目に取り合わなくていいよぉ〜」

「長嶋は黙っててくれ。えーっと……つまり、今まで生きてきた中で悪した内容が数値化されてる……って考えてくれ」

「……」


近藤は何も喋らない。廉太郎はその沈黙を次の説明の催促と捉え、もっと分かりやすく説明できるように苦心し、言葉を発した。


「つまり、万引きしたり、人を傷つけたり、痴漢したりすると、頭の上の数字が増えるんだよ」

「へぇ、じゃあ、僕はいくつだ?」


そう言われて廉太郎は近藤の頭上を見る。他の3人からすると、ただただ空を見ているようにしか見えない。


「7だ」

「そうか」


近藤は納得したような顔をした。それを横目に生野と長嶋はお互い顔を見合わせ、廉太郎に聞いてきた。


「俺は?」

「俺も」


2人にそう言われ、彼らの頭上を仰ぎ見る。


「生野は、13。長嶋は11」

「えっ!?俺の方が長嶋よりも悪なのか!?」

「悪に憧れてたからいいじゃないか」


心外という顔をした生野に軽く肘鉄し、茶化す長嶋。


「ちなみに俺は生野と同じ13」

「へぇ……。どうして急に数字が見えるようになったんだい?」

「分からない。本当に急になんだ。先週の月曜日の部活帰りから……」

「何だ?剣道が悪いんじゃないか?」

「ははは。生野君、剣道が悪いなら僕も長嶋君も同じ症状になってしまうよ」


生野の茶化しを大真面目にとってしまう近藤。


「原因は分からない。医者とかにも行ってない……」


そこまで言って、楓の所は医者に入れてもいいものかと一瞬思案したが、あそこはノーカウントとして、医者には行ってないことにした。


「んで?この数字ってどうやったら増えんの?」

「信じてくれたのか?」

「いやいや、大真面目には信じてねぇよ?ま、半分ぐらいかな?」


近藤の言葉に、合わせるように長嶋もしきりにうんうん言いながら頷いている。



「いや、それだけ信じてくれれば十分だよ」


そんな2人に廉太郎は少し安堵感を覚えた。やはり、なんだかんだ言いながらも夢の通りに心強い友人だと感じたからだ。


「さっきも言ったけど、悪さをすれば増える。万引きでもそうだし、多分人を殴ったりしてもそうだ」

「虫とか殺しても?」

「おそらく。うちの近所に、小さな男の子がいる。その子は、既に3だった」

「何でだ?」

「遊びで蟻とか殺したりするからじゃない?」


廉太郎が長嶋の質問に対して回答する形になった。


「なるほど。子供は残酷だものなぁ」


長嶋が、自分も子供だということを棚に上げしみじみと言った。


「俺も、蟻の巣に水流し込んだりして遊んだからなぁ」

「ああ。それは僕もやった」

「君たち、随分と物騒な遊びをしているね」


近藤は、2人の会話を聞いてそう感想を漏らした。


「キャプテンはそんな遊びやったことないの?」

「やったことないなぁ。僕は普段も虫とか殺さないから」

「うん。近藤はそんな気がする」


廉太郎は率直にそう言った。実際、近藤は虫も殺さなさそうな雰囲気を醸し出している。


「でも、それだけだとパンチが弱いなぁ」


生野は、首を傾げ納得がいかない顔をしている。


「確かに。さっきの話はまだ、廉太郎の想像だろ?もっと何か無いのかよ?」

「そうだなぁ……。先週、この力で痴漢を捕まえた」

「え?あれは嘘だろ?遅刻の言い訳」

「違うよ!本当に捕まえたから遅刻したんだよ!」


廉太郎はいきり立った。


「えー。本当かよぉ?じゃあ、どういう感じで捕まえたんだよ」

「説明すれば信じてくれるのかよ?」

「どうだろう?」


生野はとぼけたように言った。


「内容によりけりだな」


長嶋がそれに乗っかるように更に言った。


「じゃあ、聞いてくれ!まず、俺がいつも乗ってる電車のいつも乗ってる車両にはいつも同じ駅で乗ってくるサラリーマンが居たんだ」

「分かる。俺もいつも同じ車両に乗ると、あ、この人、みたいな」

「俺は分からん」

「僕もだ」


近藤と長嶋は徒歩組なので、この電車内での出来事には共感抱けない。

話の腰が折れてしまったので、廉太郎は元に戻す。


「それで、そのいつも乗ってくる人なんだけど、電車に乗ってる途中で数字が増えたんだよ」

「え?乗ってきた時の数字覚えてんの?」

「人の数字見るの癖になっちゃってさ……」

「どんな癖だよ……」

「ははは……。それでさ、その人に話しかけたんだよ。痴漢してますか?って」

「随分、どストレートに聞いたな!」

「胆力があるね、有川君」

「いや、僕だって怖かったさ。相手は大人だもん」

「それで相手はなんて言ったんだ?」

「否定してたよ」

「そりゃそうだ」

「でも、周りの人が協力してくれて……。それで捕まえる事ができたんだ」

「へぇ……。本当の話なのかねぇ?」

「まだ疑うか?」

「そりゃ、今の話は廉太郎の話じゃん?」

「半分信じるって言ってたろ?」

「そりゃ……まあ……」

「納得いかないなら被害者に聞いてみよう」

「何処にいるか、知ってるのか?」

「ああ。この学校の生徒だった。名前はハマノ マイって言ってた。漢字はどう書くか分からないけど……」 

「うん?ハマノマイ?あの子かな?」


独り言ちた近藤に長嶋が食いついた。


「なに、キャプテン、知ってるの?」

「1個下に同姓同名の女子がいる。本人かどうか分からないが。同じ委員なんだ」

「一応会ってみて確認すればいい」

「じゃあ、それはそうしてくれ」


廉太郎は面倒くさくなってぶっきらぼうに言い放つ。


「それはそうする。んで?廉太郎は数字の話を俺たちにしてどうしたいんだよ?」


長嶋が急に核心をついてきた。


「相談したいことっていうのは、通り魔の事なんだ」


部室がシンと静まり返った。廉太郎の口から意外な単語が飛び出たからだろう。


「通り魔?」


静寂を破ったのは、生野の素っ頓狂な声だった。


「そう、通り魔。僕、見つけたんだよ。通り魔の犯人を」

「え?どうやって?」

「だから、この数字で、だよ」


廉太郎は自身の頭上の空を指さしながらそう言った。


「具体的には?」


興味が湧いたのか、長嶋が前のめりになって聞いてきた。


「たまたまなんだ。その犯人に気がついたのは。最初は僕が会った誰よりも数字が高かったから、気になってつけてみたんだ……」

「それで?」

「それが、先週の水曜日。丁度痴漢を捕まえた日の夕方だった。駅に向かって歩いてると前方に『76』の数字が見えたんだ。それでその人をつけたんだ」

「家まで?危ないやつだな」

「やはり、有川君は胆力があるよ」


近藤は一人でうんうんと納得している。廉太郎は二人の言葉は無視して、続きを話し始めた。


「んで、その日は特に何も無かった。その人の名前と家を特定しただけだ。問題はその後。土曜日にまた、通り魔の事件あったじゃん?」

「え?そうなの?」

「いやいや、ニュースやってたじゃん」


生野の無知さに、長嶋が呆れる。


「いや、ニュース見ねえし……」

「まぁ、とにかくあったんだよ、事件が。それで、月曜日にまた、その犯人の家に行って張り込んでみたんだ」

「ほう!それで?」

「増えてたよ。数字。だから、あいつが犯人で間違いないって確信したんだ」


廉太郎は力強く言った。


「ちなみに76からいくつになったんだ?」

「84」

「結構増えたな」

「実際、人を切りつけてるしな。そのぐらいが妥当なんじゃない?」

「その数字って……、誰が決めてるんだい?」


近藤の無垢な好奇心が辺りに静寂をもたらした。


「……」

「……」

「……」

「どうなんだよ?有川?」


痺れを切らして生野が質問する。


「いやいや!知らないよ!」


廉太郎は思い切り頭を横に振る。


「普通、廉太郎が見てる数字なんだから、廉太郎が決めてるんじゃないか?」

「でも、僕、あの人が犯人だって数字が変わったからそうだって確信を持ったんだよ?」

「そりゃ、その人が怪しいって先入観持ってたから、勝手に加算されたんじゃない?」

「えー?冤罪ってこと?」

「分からん」

「キャプテンも有川が分からないって言ってるから……」

「うん。すまない。変なことを聞いて」

「いや、普通のことだよ。僕自身、それを考えたことも無かったよ。まぁ、考えたところで答えは出ないだろうけど……」

「でもさ、犯人が分かってんのに、このままビクビク生きてかないといけねぇの?警察は?」

「生野。考えてみろよ。廉太郎しか見えない数字だけで警察が動いてくれると思うか?」

「難しいだろうね」


そう答えたのは近藤だった。


「そっか。俺たちでさえ半信半疑だもんな……」

「そうなんだ。僕も警察に言うのは考えた。でも、同じ結論になった。だから、もっと考えたんだ。そして、こういう結論になった」

「どんな?」

「僕達が捕まえるんだ」

「ええ〜!?」


部室に二人非難めいた声が上がる。近藤は、まっすぐに廉太郎の目を見たままだった。


「僕らがヒーローになるって?」

「いやいや、キャプテン。無理だよ無理!相手は通り魔だよ!?」


長嶋が右手を立てて空中でヒラヒラさせた。


「そう。近藤の言う通り、僕らで捕まえて、ヒーローになろう」

「マジで言ってんの?」

「マジ」

「無理!出来ないって!現実見ろよ!相手は刃物持ってんだろ?刺されるよ!」


生野が一生懸命に否定する。


「会いにいく時に、竹刀持っていくから。包丁とかよりもリーチがある」

「そりゃそうだけども……」


生野は半ば呆れて言った。


「捕まえに行くとして、どういう理由で警察に突き出すんだ?」

「ちょっ……!長嶋〜!」

「少しネットで調べたんだけど、自白も証拠になるんだって。スマホで録音して警察に出す」

「それだけか?」

「実際の現場を抑えられればそれが一番いいんだけど……。あの犯人結構時間も日にちも法則性が無くて予測を立てられないんだ」

「そうだな。昼間だったり、夜だったりで行き当たりばったりな感じがするね」


生野は、3人を正気を疑う目をして一部始終を眺めている。


「だから、直接家に行って、話を聞くだけだよ。生野もそれだったら平気だろう?つまり、インタビューだよ」

「インタビューっつったって……」

「俺も面白そうだし行ってみようかな?」

「僕も同行しよう。2人では危なさそうだ」

「生野はどうする?」


長嶋が、生野に聞く。生野は苦虫を噛み潰したような顔をした後、


「行けばいいんだろ!行けば!本当に話を聞きに行くだけだろうな!?」

「うん。それ以上でもそれ以下でもない。何も無ければ帰るさ」

「だったらいい!本当にそれ以上になったら帰るぞ!」

「うん。分かった」

「じゃあ、犯人の家、いつ行くんだ?」

「夏休み入ってからでどうかな?」

「もっと早いほうがいいんじゃないの?いつ次の被害者が出るか分からねぇよ?」

「確かにな……」

「でも、もっと慎重に行こう。相手は通り魔かもしれないんだ。あの家の周りの地理を頭に入れておきたい。僕も、あの家の周りしか分からないから」

「そうだな。警察署もしくは交番の位置とか逃げ込める場所を把握しておきたいな」

「じゃあ来週は偵察に行こう!」

「生野もそれでいいか?」

「あ、ああ……」

「では、来週に!」


近藤が音頭を取ってその日は解散となった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る