第10話

モリーが仕事場を別館に移した。

あの後モリーは私にした無礼を悔い足の小指を切り落とした。この国では命に変えても悔やみますという意味がある。私はモリーにそこまでしてほしくなかったけど、モリーがやりたいと言うのだから止められはしなかった。そしてかれこれ時は過ぎ別館で働き続けはや二ヶ月。まだリドルは姿を見せない。


そして私はエーミールがもともと使っていた別館にあるドレス置き場の掃除を任された。部屋に入った瞬間私は涙が出た。

「エーミールの匂いだ…このドレス私がプレゼントしたやつだわ…あぁエーミール元気かな…なんであんな奴の…!」

悲しみと怒りが込み上がってきた。ルドルフがなんて声をかけようか迷っているように感じ、

「早く元に戻る方法を見つけます。」 

そう言い部屋を出た。一人にしてくれたのだろう。私は声を押し殺し泣いた。あとからもう我慢できなくなっていたけど気にせずただただ泣いた。



部屋から聞こえる鼻をすする音を聞きながら俺は自分の無力感を感じた。四年前忠誠を誓ったマリア様が苦しんで嘆いているのに俺はなにもできない。リドル…絶対に許さない。

俺はなんでいつも何もできないんだ…?!


四年前

「ねえねえあの騎士団最強のルドルフって実の親殺しなんでしょ?」

「ええ?!そうなの?」

「うん、なんかね虐待されてたらしくて自分が助かるために殺したらしい。」

「よくこの神聖な公爵家の騎士団に入れたわね。」

「なんか前騎士団団長がルドルフを引き取ったらしくて公爵様もお慈悲でルドルフの罪を許したらしい。」

「汚らわしい庶民の分際で…」

俺が邸宅にいるのをメイドに見られるたびに影でこそこそ言われた。その日も全く同じだった。邸宅の中の図書館にいると公爵夫人と会った。俺は公爵家の皆には恩がある。だが自分が嫌われているのは百も承知。だからお辞儀だけし、邪魔にならないよう図書館を出ようとした。とおりかかったメイドが影で何かを言った。

「ふん、出ていくのね身の程を弁えてるじゃないの。」

そう言った途端夫人は振り返り、待ちなさいと言った。メイドまた影で、

「ねぇ見てマリア様にも怒られているわぁ。良い様ね!」

そう言いけらけら笑っていると、

「あなたのことを言っているのよメイドさん。」

そう言いメイドの腕を掴んだ。

「え…?」

「あなた人のことを言えるの?」

夫人はまっすぐメイドを見つめた。

「だってそれはこいつが庶民出身で親殺しだから…」

「だから?ルドルフ私の正式な護衛よ?私が直々に選んだ。それを侮辱するの?」

夫人明らかに怒っていた。

「え?でもそんなの聞いたことない…」

「ええ、だって今決めたんですもの。」

夫人はそういうとおれにむかってウインクをしてきた。ほんと戸惑ったよ。その後メイドは夫人に対する侮辱で公爵家を追い出され俺は正式に忠誠を誓い護衛となった。

俺はマリア夫人が誰よりも大事だ。俺の居場所を作ってくれた人、だからこそ守りたい。

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