第18話 首狩り族の脅威

 武器屋の店主カーレの娘を捜索するように依頼されたアリシアとミューア。いきなりのお願いではあったが、お人好しのアリシアに促されてミューアも承諾する。


「では、娘さんの特徴を教えて頂けますか?」


「娘の名前はノブルってんだ。私とお揃いの赤いスカーフを巻いているのが特徴さね。あと私と同じで美人だからスグに分かると思うわ。ワッハッハ!!」


「あ、はい。美人な赤いスカーフ巻きの方ですね」


 ふむふむと聞いているアリシアに対し、ミューアは多少呆れながらジト目を送っている。


「年齢は十五歳。お嬢ちゃん達のチョイ下くらいさね。あっでも、長寿なエルフ族なら、見た目に反してもっとオトナなんかい?」


「いえ、私は十八歳です。今は見た目通りの年齢ですよ」


「はえ~、そうなんかね。でもエルフ族は若い身体のままで何百年と生きられるって聞くし、それは羨ましいよ。私もエルフ族なら、この美貌を保ったまま長生きできるのにねぇ」


「カーレさんはエネルギッシュな方ですから、とても若々しく感じますよ」


「あら嬉しいコト言ってくれるじゃないの! サービスしてあげちゃうわ」


 カーレは店内のカウンターに置いてあったビンから飴玉を取り出し、アリシアの手に握らせる。サービスとはいえ小さすぎないかとミューアは思うが、アリシアは笑顔で感謝していた。


「では行ってきますね!」


 飴玉を頬張り、グッと親指を立てるアリシアに続き、ミューアも店を出るのであった。






「さて、じゃあ目的の町まで行くとするか。手っ取り早く向かうためにも、馬を借りよう」


「お馬さんですか?」


「ああ。そのほうがずっと早く辿り着ける。レンタル料はかかるけど、田畑を荒らしていたイノシシ型魔物討伐の報酬から捻出するよ」


 オークとゴブリン討伐でも結構稼げたので、今は割と資金に余裕がある。なので、とにかく依頼を手早く片付けるためにも、目的地までの移動時間を短縮することを考えたのだ。


「でも、私は馬を操ったことが無いんです……」


「任せて。二人乗りすればいい」


「ミューアさんは乗馬は得意なんですか?」


「まあね。移動で馬に乗る機会は割りとあったんで、経験は豊富だよ」


 ミューアは町外れにある馬宿へと向かい、一頭の大きな馬をレンタルする。大人しい個体のようだが、馬の実物を始めて見たアリシアは少しビビッていた。


「どうした、アリシア?」


「は、話には聞いた事はありますが、こうして見るのは初めてで……ちょっと怖いなって……」


「ははっ! オークやらの魔物に比べたら全然怖くないよ。むしろ可愛い生き物さ。ほら、アタシの手に掴まって」


 差し出された手を握り、恐る恐るといったように馬具に足をかける。思い返せばピオニエーレはイノシシ型魔物を乗りこなしていて、それに対抗意識を燃やすアリシアは思い切ってサッと背に乗った。


「お~……普段よりも視界が高くなって、不思議な感覚です」


「初々しい感想だね。ちゃんとアタシに掴まっていてな。スピードが結構速いから」


「は、はい」


 手綱を動かして指示を送り、馬が一歩を踏み出す。そして徐々に加速を始めていき、あっという間にトップスピードへと達した。


「こ、こんなにも速いのですね…!」


「動物と魔物を問わず、馬は最速クラスの種族だからね。さぁ、スピードの先へ行くよ…!」


「す、すぴーどの先…? うわっ!?」


 目の前に迫る岩を飛び越え、スティッグミの外に広がる草原を疾風の如く駆け抜けていく。馬を操るミューアは気持ちよさそうに活き活きとした表情であるが、対するアリシアは必死にしがみ付くので精一杯だ。

 次またミューアと乗馬する際は、もっと速度を落としてもらおうと心に留め置くのであった。






 そうして暫く走っている中、ようやく減速していく。最初は大人しそうな馬だと思ったが、これだけの速度を維持したまま走り続けるタフさは大したもので、もはや魔物なのではと思えるほどだ。


「もうすぐ目的の町だよ。って、大丈夫?」


「ひゅ~……」


「こりゃ暫く動けないか」


 目を回しているアリシアは頭をくらくらと動かし今にも落下しそうだが、ミューアの腰に回した手はガッチリと絞めたままで、どうやら無意識にも生存本能は強いらしい。


「さて、と……」


 アリシアを担いで馬を降り、近くの立て看板に目を移すと、そこには”ロートへようこそ”という文言が記されていた。このロートという町に武器屋店主の娘ノブルが買い出しに訪れているらしい。

 馬を連れたままロートに足を踏み入れるが、何やら異変を感じ取ってミューアは気を引き締める。


「んみゅ~……こ、ここは?」


「意識がちゃんと戻ったかな?」


「あ、はい。生きて到着できたみたいですね……」


「振り落とされてなくてよかったよ。でも、この町チョイとヘンだな。ピリピリしているというか……」


 担いでいたアリシアを降ろして周囲を見渡していると、鎧を装着した女性が近づいてきた。明らかに警戒したような目つきで、不審者に対応するような態度である。


「私は町の警備をしている兵士のカナルです。いきなりで申し訳ないですが、アナタ方は何者ですか?」


「スティッグミから来たエルフで、アタシはミューア。ロートには人探しで来たんだ」


「人探し…?」


「ああ。スティッグミの武器屋の店主から依頼を受けて、ノブルっていうコをね」


「ノブルって人は確か…まあでも分かりました。お二人は敵ではないようですね」


「敵って…?」


 何故だかカナルには敵として警戒されていたようだ。その理由は不明だが、今のロートの緊張感に包まれた雰囲気と関係があるらしい。

 それをアリシアも察したようで、カナルに問いかける。


「何か町の様子が変ですね。どうかしたのですか?」


「実は先日、このロートに首狩り族の襲撃があったんですよ……それで、今は皆が怯えているんです」


「く、首狩り族…? 一体どういう?」


 首を傾げながらミューアへと視線を送るアリシア。物騒な名前だとは理解できるが詳細は知らないのだ。


「首狩り族はヒトに近い姿をしている魔族だよ。ま、見た目的には親戚みたいなモンかな」


「ご親戚さん…?」


「けど、ヤツらは殺戮と破壊を楽しむ残虐な種族なんだ。そういう意味ではオークに似ていると言えるね。でもオーク以上に厄介で、首狩り族は処刑を娯楽としていて、捕まえたターゲットを連れ帰って断頭台で殺すのさ」


「ひえ~……関わりたくないですね……」


 思った以上に惨たらしい殺戮を好む種族のようだ。その恐ろしい種族名も、断頭台にかけて楽しんで処刑をする事から付けられたのだろう。


「そういえば、カナルはノブルを知っているような口ぶりだったけど?」


「え? ああ、知っていますよ……ノブルさんは、最近ロートにやって来た武器屋さんの娘で、店の在庫が急に無くなったので買い出しに来たと仰ってました。なんですが……」


「首狩り族の襲撃に巻き込まれた、とか?」


「はい……実は、首狩り族に何人かの住人が連れ去られてしまったんです。その中にノブルさんも含まれていて……」


「なんてこった……」


 捜索対象のノブルは首狩り族によって拉致されてしまったらしい。これは大変なことになったとアリシアとミューアは頭を抱える。


「こうなったら、ノブルさんを首狩り族から奪還しましょうよ!」


「けどねェ…この前のゴブリンやオークを相手にするよりも危険だと思うよ?」


「かもしれません……でも、私達が行かなかったらノブルさんは殺されてしまいます! 見殺しにはしたくないです」


「……分かった。確かに見捨てるのは目覚めが悪いからな」


 ミューアも大概、お人好しではある。こうも関わってしまった以上は見捨てて無視する気にはなれないのだ。


「けど武器がなぁ。さすがに、このサブウェポンのナイフだけじゃ対処できないし」


 腰にぶら下げているナイフはサブウェポンとしてというより、サバイバル道具としての側面が強いので戦闘向きではない。だが、今のミューアには他に装備は無く、そもそも武器調達のために武器屋を訪れていたのである。


「なら保安課へ行きましょう。首狩り族討伐を正式な依頼として承認されれば、余っている武器の貸与もしてくれると思います。先日の襲撃のせいで兵士の犠牲が多く、人手よりも武器の方が多くなってしまいましたからね……」


「じゃあ案内を頼む。コッチも命懸けなんだから報酬は多い方がいいものな」


 ロートの町としても攫われた住人の奪還は急務であるが、首狩り族との交戦で戦える者に多大な被害が出ており、追撃するだけの余力が無いようだ。となれば猫の手でも借りたい状況であるに違いなく、二人のエルフが協力してくれるともなれば喜んで報酬も出すことだろう。

 アリシアとミューアは、カナルの案内を受けてロートの保安課を目指す。


  -続く-

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る