第14話 真夜中の敵対者
田畑を荒らす魔物の討伐を依頼された二人は、依頼主であるアジアナの家にて話を聞いている中で、黒マントの女というキーワードを耳にした。かなりの偶然ではあるが、忌むべき相手について詳細を得る事ができるかもしれない。
「アジアナさん、黒マントの女の事を詳しく教えてくれませんか?」
エルフ村襲撃の真犯人である存在が黒マントの女であり、アリシアは食い付くように質問を投げる。
「ワタシも友人から聞いた事なんでねぇ…なら、そのワタシの友人のトコロに行きましょうかね?」
「お願いします! 是非!」
アジアナは、よっこいしょと椅子から立ち上がり、アリシアが付き添うようにして家を出た。
行き先はすぐ隣の民家であり、アジアナが玄関の扉をノックすると、ちょっと間を開けてから年老いた女性が姿を現す。見知らぬ二人も一緒であることに多少警戒感を抱いたようだが、アジアナからの紹介を受けて自宅へと招き入れてくれた。
「…アンタ達が知りたいのは、あの真っ黒なマントを羽織ったヤツについてだね?」
「はい。魔物の襲撃時に目撃されたのですよね?」
「ああ、見たよ。夜に見回りをしていた時、魔物と鉢合わせになりそうになったんで、慌てて畑の近くにある農具小屋に隠れたんだ。そうしたら、その農具小屋の近くを誰かが横切ったのさ。で、誰だろうかと木板の隙間から覗き見たら、黒いマントを羽織った女だったんだよ」
「ふむ…魔物と共に現れるとなれば、普通ではないですね」
「そうでしょうな。アイツは魔物に付き添うようにウロチョロしていただけだが、タダ者じゃない雰囲気があった」
魔物には様々な形態や種別があるも、一貫して人間族やエルフ族といったヒト族に対する強い敵意を持っているのだ。その理由や、どのような基準で種族を判別しているのかは不明であるが、ともかく魔物と共存しているヒト族など普通では有り得ない。
「魔物の食事が終わると森の方へと行ってしまって、その後の事は分からないけど」
「お話ありがとうございます。実は、その黒マントの女は私達が追っている相手かもしれなくて、ちょっとでも情報が欲しかったのです」
「アンタ達は若いのに色々と大変なんだねぇ。もしかしたら、また魔物と一緒に来るかもね」
むしろアリシアとミューアにとっては、その方がありがたい。直接対峙して、オーク戦の時のように村を狙った真相を聞き出したいと切に願っているのだ。
それから数時間が経って陽が沈んだ後、夕ご飯をご馳走してもらった二人は警戒のためにアジアナ宅を出る。この暗闇に乗じて魔のモノが出没し、田畑の作物を食い荒らすわけで、それを阻止するのが本来の依頼内容だ。
「夜風って好きなんですよ。村にいる時も夜中に散歩したりしていたんです」
アリシアは心地良さそうに深呼吸し、両手を広げて弱い風を受け止める。
「フフ、怪しい徘徊者と間違えられなかった?」
「そ、そんなコトはありませんでしたよ!」
「ま、アリシアは可愛いし、不審者には見えないからね」
「褒めたって何も出ませんよ?」
恥ずかしそうにするアリシアをからかうミューア。
だが、直後に何かの気配を感じて長い耳をピクッと反応させた。
「おやおや、明らかに妙な感覚が近づいてくるぞ」
「な、なんでしょうか…?」
「不審者…というより、完全な敵対者だな」
殺気そのものをミューアは感じ取っていたのだ。敵は明確に二人のエルフを視界に捉えていて、鋭い敵意を向けてきている。
恐怖にも似たプレッシャーが心を突くが、この程度で怖気づかないミューアが気配のする方向に体を向けた。
「今日もノコノコとやって来たみたいだな。アイツらがターゲットだろう」
「大きなイノシシ、ですね」
土を踏みしめながら唸り声を上げるのは、二体の大きなイノシシ型だ。動物のイノシシに酷似しているが体格は全高三メートルにも及び、通常種とは明らかに体格が異なる。しかも、牙が異様に長く発達して、これで突き刺されたら死は免れられないだろう。
「あんな魔物がいたのか…油断するなよ、アリシア。ヤツに押し倒されたら潰されて死んじまう」
「押し倒すという行為は求愛行動ではないのですか?」
「求愛…? どういう発想なの…?」
キョトンと疑問を浮かべるアリシアに対し、ミューアは呆れたようにヤレヤレと首を振る。どうにも世間知らず感が抜けていないが、しかし、それがミューアの緊張を解してくれていた。
「ほれ、アリシアも装備を」
「あ、はい。でも魔弓の攻撃が通るか少し不安です……」
「気合で頑張れ。あのデカい胴体を貫くんだっていう気持ちを乗せて飛ばすんだ」
適当なアドバイスにも聞こえるが、弱気では勝てる戦いも勝てなくなる。常に強気で戦うのことが生存への近道なのだ。
「前と同じように、アタシが前衛に出るから援護を頼む!」
「任せてください!」
突撃してくるイノシシ型魔物に立ち向かう二人。
平和な農業地帯が、戦場と化す。
-続く-
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