第13話 黒マントの女への手がかり
ミューアが宿泊する宿へと戻ったアリシア達は小休憩を挟み、町の保安課へと赴く。ここでミューアが受託していたオークやゴブリン討伐の成果を報告するのだ。
「頼まれていたオーク討伐の件は終わらせてきた。ジット山にヤツらの死体がゴロゴロ転がってるから確認してきてくれ」
「ご苦労様でした。至急、役所から人員を派遣して事後処理を行いますので、報酬はその後にお渡しします」
町の役所に隣接された保安課窓口の女性が報告に頷き、書類にハンコを押している。後は報酬が支払われるのを待つだけとなったようだ。
「ん? 隣の窓口が騒がしいな…?」
近くから言い合うようなやり取りが聞こえてきて、ミューアは耳を傾ける。どうやら町の住人と保安課職員がモメているらしい。
「仰ることは分かりますがねぇ…数週間前から人手不足なのはご存じでしょう?」
「そこを何とか頼みますよ! このままじゃ生活できなくなっちまうんです」
「この町の近くにある渓谷地帯に現れた魔物の集団を討伐するため、多くの戦闘要員が出払ってるんです。アナタの言うのは魔物ではなく害獣でしょ? それなら森の方にでも追い払うなり、対策を考えてくださいと申し上げたハズですが?」
「ありゃ害獣ではないですよ。魔物に違いないんですって!」
「でもねぇ…優先度が違うんですよ」
その住人の老婆が魔物の駆除を要請しているようだが、職員には取りあってもらえてないようだ。
「何か困っているようですね。私達で力になれないでしょうか?」
アリシアはスタスタと歩み寄り、老婆へと話しかける。
「お婆さん、どうかされたんですか?」
「聞いて下さいよ、お嬢さん! 実はワタシの畑で育てている野菜が魔物に食い荒らされているんです。夜中になってソイツは現れるんですが、ワタシのような老人にゃ手に負えんので……近隣の田畑も被害にあっていて、これじゃあスティッグミの農業は全滅してしまいますよ」
「それは困りましたね……」
「ですが、町の兵達は別の案件で手が離せないと……」
「ふむふむ……」
アリシアはポンと手を叩き、ミューアの方に振り向く。きっと自分達で手伝おうと言うのだろうなとミューアは予測できていた。
「ミューアさん、私達で魔物討伐を引き受けましょうよ」
「そう言うと思った。まっ、オーク討伐も終えて時間が出来たし、やってみるか」
フリーランスのハンターとして活動するミューアにとって、報酬さえ出るのならば引き受けて損は無い。特に今は無一文のアリシアのために少しでも稼ぎが必要なのだ。
「おお! ありがとうお嬢さん達! 魔物が出現する夜まで、ワタシの家でゆっくりと休んでくださいな」
老婆は嬉しそうに会釈し、アリシアが任せてくださいと胸を張っている。
「というわけで、アタシとアリシアでやらせて下さい」
そんな中でミューアは窓口に向き直り、職員と仕事の交渉を行う。正式な依頼とならなければ報酬は支払われないので、こういう確認は大切なのだ。
「分かりました、頼みます。事態が解決したら報告をお願いしますね。相手が魔物か不明なので、報酬の額は達成後に決定となってしまいますが……」
「最低限のモノが貰えれば構いません。害獣だったとしても、ある程度は出ますよね?」
「それは勿論。我々としても対応すべき案件が溜まっているので、フリーランスのミューアさんには感謝していますし、協力料金は惜しみませんよ」
「結構。では、また」
老婆の後に続いて保安所を出て、町の外郭にある農業地帯へと向かうのであった。
「お若い方に来て頂けて良かったですよ。おや、よく見たら、お二人さんはエルフ族ですかい?」
「そうですよ。私達の種族をご存じなのですか?」
「ええ、それは当然。この町はエルフの村に比較的近いので、たまに買い出しなどで訪れるエルフ族の方がいらっしゃいましたからね」
基本的にエルフは村から出ることはないが、ごくたまに外出して人間族と交流を行うことがあり、村では手に入らない物品の購入などをするのだ。この街はエルフ村が存在する森に近いため、外出したエルフの訪れる場所として定番になっていたらしい。
「そうそう、自己紹介がまだでしたな。ワタシの名前はアジアナです」
「私はアリシア・パーシヴァルと申します。そして、こちらはミューアさんです」
「お二人共可愛らしくて気品を感じますな。ですが相手は魔物じぇけぇ、大丈夫ですか?」
平穏そのものの農業地帯の一角、小さな一軒家にてアジアナのもてなしを受ける二人。差し出された茶を啜りつつ、ミューアは自信満々に大丈夫だと答える。
「問題ないっすよ。か弱く見えても、アタシは魔物狩りで食っているんです」
「そりゃ心強い。ここら一帯は年寄りばかりで、魔物なんかに太刀打ちできませんのじゃ。ちょっと前までは、こんな被害は無かったんですがねぇ……」
「魔物が出現するようになったのは最近なんですか?」
「森にオークやらゴブリンやらが棲みつくようになった直後ですかなぁ」
「なるほど。元々森に住んでいた魔物がアイツらに追い出されたってワケか」
縄張り争いに敗北し、森から離れざるを得なくなってしまったのだろう。そうしたモノ達が食料を求めて田畑を荒らしているようだ。
「保安課の人は、魔物でなく害獣なのではと言ってましたが…敵はどんなヤツなんですか?」
対処するべき敵の情報を事前に知っておくのは大切なことである。それによって戦いの行く末も変わるだろうし、まさに生死に直結するのだから。
「確かに、最初は大柄な動物達がやって来たのですや。ワタシらも動物であればと、なんとか追い返していたんでさぁ……でも、その翌日には魔物が現れるようになって、さすがに困っているのです……」
「ふーむ。魔物は複数体いるんすか?」
「大きな猪のような魔物が二体ほどですなぁ。あと、そういえば…変な女も目撃されていまして」
「変な女?」
「ワタシの友人の話では、魔物の近くをウロチョロしていたそうな。黒っぽいマントを羽織っていたとか……」
「黒マントの女!?」
オークにエルフの村を襲うよう指示した者も黒マントの女であり、これは偶然とはミューアには思えなかった。
-続く-
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