第11話 黒幕の影
追い詰められたオーク兄は自らの命の保証を条件に、エルフの村を襲撃した理由を話し始めた。
その言葉を聞くアリシアとミューアは怒りと不愉快さを感じざるを得ず、ヘラヘラとしているオーク兄とは対照的に険しい表情をしている。
「それで、族長邸からエルフの秘宝を奪ったのもアナタ達で間違いないのですね?」
「秘宝…ああ、あのヘンテコな枝のことカ。回収を頼まれていたブツだったから確かに持ち帰ったゾ。でも、アレはもう黒マントの女に渡しちまっタ。だからココには無いゾ」
「それは悲報ですね……」
せめて秘宝さえ返してもらえればと思ったが、一足遅かったようだ。
となればアリシアの次のターゲットは正体不明な黒マントの女となる。
「その黒マントが何処にいるか知ってますか?」
「知らないナ。あの女については本当に詳しいコトは知らないンダ」
しかし手掛かりは無く、協力関係にあったオークでさえも居場所は分からないらしい。こうなれば地道に探す以外の道はないだろうが、素性を隠して行動する相手の尻尾を掴むのは探偵でも難しいだろう。
「もうコイツから聞けることは無いな」
「じゃあ帰ってクレ。オデの命だけは助けてくれるって話だったナ?」
「あ? そういえば、そんな約束だったな……」
ミューアは頭を掻き、オークとの約束を思い出す。
「確かに言った。お前だけは見逃すってな」
「そうダロ?」
「アレは嘘だ」
「エッ?」
無慈悲にも剣が振り下ろされ、オーク兄の頭部が切断された。
最初から約束を守る気など微塵も無かったようで、スッキリとしたようにフゥと一息ついて剣を仕舞う。
「すまんな。でもアンタらが悪いんだ」
「ミューアさん……」
「おっと、今のは酷いなんて説教はヤメてくれよ?」
「いえいえ、お説教なんてしませんよ。ミューアさんがやらなくても、私がきっと……」
アリシアもまた魔弓を装備したままであり、魔力の矢を装填した状態であった。つまりはトドメを刺す気でいたわけで、ミューアを咎めようとは思っていない。
「案外、アリシアは非情さも持ち合わせているんだな。ますます気に入ったよ」
「あ、いえ、褒められるようなことでは……私も悪いコになってしまったのかも……」
「生きていくならズルく、そして時には冷酷さも必要なんだ」
村の中でぬくぬくと育ったアリシアは外の世界の過酷さを未だ知らない。今回の理不尽な事件でその一端に触れたわけだが、これからも常識や倫理に反するような事態に遭遇するだろう。
それを切り抜けるためにも冷徹な思考や、ズル賢い知恵も持ち合わせておかなければならず、お人好しなだけではダメなのだ。
「けどまぁ、振り出しだな。あくまでコイツらは実行犯、黒幕は黒マントの女らしいからね」
「一体何者なのでしょうか? ミューアさんは心当たりはありますか?」
「さあ……だが気になるのは、エルフの秘宝を知っているという点だ。オークは回収を頼まれたと言っていたし、その女の本当の目当ては秘宝だったのかもしれないな」
「私のような一般エルフでも詳細を知らない物ですし、外部の人間族などが知り得るとは思えませんね。ということは、黒マントの女はエルフ族…?」
族長が所有していた秘宝は家族ですら触れさせてもらえない代物らしく、どのような物品かすら極一部のエルフしか知らない情報だ。何故かミューアはその知識を持っていたが。
「エルフの裏切り者ってことか…まさしくダークエルフだな」
同族の中に裏切り者がいるというのは、二人にとって信じたくはないことだ。しかし、現実問題として容疑者候補に最も近いのはエルフ族である。
「信じたくはありませんが……」
「ともかくエルフ族には注意を払った方がいいかもしれない。まぁ、どこかから外に秘宝の情報が漏れ出ていたかもしれないし、エルフ族が黒幕と決めつけるには早いか」
ミューアは周囲を観察して、手がかりになるような目ぼしい品が無いことを確認し、ホラ穴の入口に足を向ける。こんな血生臭い現場からはサッサとオサラバしたかった。
「もう夕方か。今から森の中を移動するのは危ないな」
「どうしますか?」
「うーん…あっ、山の麓に小屋があったじゃん? そこで今日は夜を過ごそう」
アリシアは頷き、山を下って行く。
夕陽はもうすぐ地平線の果てに沈みそうになっていて、空には星の光が瞬き始めていた。
夜虫の鳴き声が響き渡る中、二人は麓の小屋へ辿り着く。その内部は荒らされているものの最低限の日用品は揃っていて、つい最近まで誰かが生活していた名残を感じる。
「きっとオークやゴブリンがジット山に棲みついた時に追い出されたんだな」
「まさに縄張り争いですね。負ければ居場所を失ってしまう……」
「だから勝たなきゃいけないのさ。失っちまったらもう……」
今のアリシアには心が痛む光景だ。故郷を失った時の感情がフラッシュバックして、自然と胸を押さえる。
「でも生きていればリベンジできる。今日みたいにね。だから希望は失うな」
ミューアなりの励ましでアリシアの肩をポンと叩き、そのウインクにアリシアは笑顔で応えるのであった。
-続く-
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます