第五章 後悔ばかり多かりき ~第一節~

 頬についた血をぬぐい、史春ししゅんは谷底を覗き込んだ。

「……面倒なことになりましたね」

 この下には谷川が流れている。ここからどれほどの落差があるかは判らないが、ふつうに考えれば、川に落ちるまでに岸壁に何度も叩きつけられて命を落とすだろう。ましてや今の獅伯しはくは、決して浅からぬ傷を負っている。

 ただ、獅伯が最後まであの剣を握ったままだったというのは厄介だった。谷底まで下りていって死体を捜さなければならないからである。

「仕方ありませんね……そこは不甲斐ない山賊のみなさんにお願いしましょう」

 史春は刀を鞘に納めると、気を失ったままの蘭芯らんしんのもとへ戻った。

「まったく……お嬢さまもよくよく運のないおかたですね」

 あの強欲なりゅう大人の娘に生まれてきてしまった蘭芯の身の上に、同情する部分がまったくないわけではない。しかし史春は、みずからの境遇に納得がいかないのであれば、自分の力で這い上がるしかないという考えの持ち主でもある。結局は、おのれの境遇を嘆きながら、それでも親のいうことに唯々諾々としたがっているだけの蘭芯に、それだけの強さがないのが悪いとしか思えない。

「――よう、うまくいったかい、史春さんよ?」

 蘭芯をかついで主殿に戻ってきた史春に、頬傷の男が呑気に声をかけてきた。

「八割がたは――といったところでしょうか」

「八割がたァ? 何だそりゃ? 例の小僧はちゃんと始末したんだろ?」

「と思いますがね」

 淡々と受け答えをしながら、史春は部屋の隅に縛られて転がっているぶん先生と侍女たちを見やった。

「……侍女がひとり足りないようですが?」

「あ? そうなのか? でもよ、侍女を逃がすなとは頼まれてねェぜ? 違うか?」

 楊乾徳ようけんとくは悪びれもせずに笑った。

「確かにそうでしたね。まあいいでしょう。こうしてお嬢さまと文先生を押さえられたのであれば――」

「しっ、史春さんっ!」

 そこに、みっともなく裏返った文先生の声が割り込んできた。

「な、なぜですか、史春さん!? あ、あなたは、劉大人のところでずっとはたらいていて、それなりに恩も受けていたんじゃないんですか? なのになぜ、山賊の手引きなんて――」

「そもそも私は、あそこではたらきたくてはたらいてたわけではありませんからね」

 史春は蘭芯の手足をしっかりと縛ると、侍女たちの隣に並べて乾徳にいった。

「……何度も念を押しますが、お嬢さまがたには手出し無用ですよ?」

「判ってるって。あいつの娘なら俺にとっちゃ姪っ子みたいなモンなんだぜ? 手下どもにもちゃんといい聞かせとくから安心しなよ」

「お願いしますよ。……まあ、あなたも一度は牙門がもんの扉を叩いたことのある人間ですから、師父がどういうおかたかはご存じでしょうし」

「おいおい、やめてくれよ。俺ァ二度とあんなおっかねえ女とはかかわり合いになりたかねえんだ」

 乾徳がわざとらしく首をすくめて身を震わせる。おどけたふりはしているが、おそらくその言葉は本心だろう。

「もとはといえばあなたが師父の侍女に手を出そうとするからです。……師父はいまだにあなたの行方を捜させていますからね?」

「だからよ、こうしておまえさんの手伝いをして、どうにかお許しを得ようとしてるんじゃねェか。……まあ、こっちだってこれで石城が手に入るんなら、損な取引ってわけじゃねェしな」

「問題は、人質のひとりふたりで大人がおとなしくしたがうかどうかということですが」

 史春は主殿の軒先に出ると、ようやく雨が上がった明け方の空を見上げた。

「あいつの性格からして……いや、判らねェな」

 史春の隣に立った乾徳が、頬を撫でながらかぶりを振る。

「――若い時分のあいつァ母親を泣かして平気な野郎だった。そんな親不孝モンが、自分の娘をどこまで大事に思ってるかってのはな……そもそもあいつは、いつどこで女房をもらって子供なんぞこしらえたんだ?」

「私も知りませんよ」

 史春が大人のところではたらくようになったのはここ二年ほどのことである。石城に来る前の大人については、本人から聞いた以上のことは何も知らない。

「――そうそう、あなたの部下を何人か下の谷川へやってください」

「は? 何でだよ?」

りんさまの死体を確認して、例の剣を回収してきてもらいたいのです。……師父のお怒りを解く上では、とても重要なことだと思いますよ?」

「それをいわれちゃなあ……」

 乾徳はぼりぼりと頭をかくと、すぐさま手下たちに命じ、五、六人ばかりを谷川へと向かわせた。

「……それにしても、あの小僧には手下どもがかなりやられちまったぜ。いったい何者なんだ?」

「林さまの素性は私にも判りませんが、今夜の稼ぎはそれに見合うもののはずです」

「そりゃまあ、このご時世、食い詰めて賊になろうって連中はいくらでもいるからな」

 一行が運んでいた財貨だけでも、田舎の山賊たちの稼ぎとしては充分すぎるほどの額だろう。あれを元手にすれば、これまで以上の数の手下を集めるのもそう難しいことではないはずだった。

「ならいいではありませんか。私はあの剣を梅花山荘ばいかさんそうに持ち帰ることができればそれでいいのです。あなたが大人を抱き込んで石城で旗揚げしようと、大人を始末して石城を乗っ取ろうと、私には――牙門にとってはどうでもいいことですから」

「へいへい、判ってるって。……ただよ、師父へのとりなしはホントに頼むぜ、こうして手を貸してんだからよ?」

「判っていますよ。あなたが師父や私を出し抜こうなんて考えなければね」

「だからそんな真似しねェっての。……ったく、そもそもどうしてこんな田舎で昔の同門に再会しちまうかねえ?」

「私は最初から気づいていましたよ? 師父のご下命で石城へ来てすぐ、この近くにあなたがいるということにね」

「そうなのか!?」

 乾徳がぎょっとして目を剥いたが、史春にしてみれば驚くほどのことでもない。

「あなた、牙門に入った時と同じ名前で派手に商売をしているでしょう? 頬に傷のある楊乾徳と聞けば、あの頃に山荘にいた者なら、私でなくとも思い当たります」

「……いわれてみりゃあそうだな」

「ですから私は、何かことを起こす時には、師父の名前を出してあなたに手伝ってもらおうと決めていたのですよ」

「やれやれ、ハナから逃げ道はふさがれてたってわけかよ」

「まあ、昔話はもういいでしょう。あなたが見事なはたらきを見せてくれれば、師父もあなたのあやまちについては水に流してくださるはずです」

「そう願いたいね。……で、どうするよ、これから?」

「あなたはもともと、強引な手を使ってでも大人を味方に引き入れ、石城で旗揚げしたかったのでしょう?」

「まあな。もうこの国はおしまいだろうしよ」

「ならすぐにでも石城に戻りましょう。私たちがここにいる間にあの剣士が大人を殺してしまっては困りますし」

「といったって、屋敷にはまだ用心棒が残ってんだろ?」

「あそこにいた用心棒たちの中で、多少でもましといえるのは私が裏から手を回してかき集めた連中です。それも、今回こうして連れてきてしまいましたからね」

「残ってんのは雑魚ばかり、か……」

「正直、頼りになるのはひとりだけでしょう。女剣士の胡月瑛こげつえいさまとおっしゃるかたですが」

「女!?」

「ええ。とてもお美しいかたですが……いってみれば飛天夜叉ひてんやしゃのようなものです。師父とはまた別の意味で恐ろしいかたですよ」

 飛天夜叉とは天竺に棲むという怪物で、姿形こそ美しい女のそれだが、夜な夜な空を飛んで人を襲い、食らうとされている。そうした怪物にたとえたくなるほど、月瑛は強い。史春が見たところ、月瑛の実力が獅伯におとるということは決してないだろう。

「そんなのがいんのかよ……」

「噂だけなら私も以前から耳にしていました。何でも、その筋では“艶風絶影えんぷうぜつえい”と呼ばれているようです」

「そりゃあ……当代きっての女剣士を三人あげろって話になったら、師父といっしょにかならず出てくる名前じゃねェのか?」

「そうですね。……とはいえ、それも“紅雪公主こうせつこうしゅ”に次ぐ二番手としてでしょうが」

 たとえば獅伯と戦った時のように、小細工を弄して不意討ちをすれば、史春も月瑛には勝てるかもしれない。が、彼の師であり、牙門を統べる紅雪公主こと雪峰せつほう相手には、そもそもどんな策も通じる気がしないのが現実だった。

「そんな女剣士がついてたんじゃ、蛮軒ばんけんの野郎、素直にこっちの話を聞かねえんじゃねえか?」

「そこがお嬢さまの使いどころですよ」

 月瑛は蘭芯の身の上を不憫に思い、まるで妹のように可愛がっている。たとえ大人に対して蘭芯が人質として使えなくても、月瑛に対しては使えるだろう。文先生もまたしかりだった。

「なるほどねえ……そういうことなら、薄気味の悪ィ剣士に先越される前に、蛮軒との話をまとめなきゃあな」

「さいわい、雨もやみました。夜が明けたらすぐに出発しましょう。林さまの剣を捜しに向かったみなさんには、見つけ次第、すぐに石城へ戻ってくるよういい含めておけば問題ありませんし」

 濡れた前髪をかき上げ、史春は長い溜息をついた。

 見たこともない剣を捜してこいと命じられ、梅花山荘を離れてすでに二年――師父からの命を軽んじるつもりはないが、そろそろ史春も島に戻って本格的な修行に打ち込みたかった。

 いまさらのようにそう感じたのは、石城で月瑛や獅伯といった、自分より格上の剣士たちと出会ってしまったからなのかもしれない。


          ☆


 深夜の主殿に獅伯が踏み込んできた時、白蓉はくようは真っ先に裏手から飛び出し、難を逃れていた。この乱れ切った世の中を白蓉が渡っていけているのは、そういうことに鼻が利くからである。

「師姐の指示とはいえ、何が哀しくてこんな――」

 降り続ける雨にずぶ濡れになりながら、白蓉はひょいひょいと屋根の上へと這い上がり、息をひそめてことの成り行きを見守った。

 白蓉は月瑛の妹弟子である。同じ師匠について剣の修業をしていたが、あいにくと腕前のほうはさほどではなく、師匠からは匙を投げられた。ただ、軽功だけは身に着けることができたため、今は月瑛の用心棒稼業を手伝っている。月瑛とは無関係をよそおって侍女としてはたらいていたのも、劉家の内情をひそかに調べるためだった。最初から月瑛は、劉大人に胡散臭いものを感じていたのである。

「そうと判った時点でさっさと手を引けばいいのに、お嬢さまに肩入れなんかしちゃうからぁ……」

 白蓉が逃げ出したのにやや遅れて、獅伯が蘭芯を連れて外へ飛び出してきた。ああして獅伯がついていてくれるのなら、ひとまず蘭芯の身は安全だろう。

「でもぉ、先生たちは……駄目かな?」

 聞き耳を立てていると、どうやら残りの侍女たちと文先生は、そのまま賊に捕らえられてしまったらしい。白蓉としても、このまま見捨てるのは心苦しいが、あいにくと彼らを助けられるような腕がない。

 ともあれ、迂闊に動けば賊に見つかってしまうだろう。今はここで嵐がすぎ去るのを待つ以外に白蓉にできることはない。瓦の隙間から生えている雑草を何となく引き抜きながら、白蓉は嘆息した。

「……それにしても、どうしてこんなにあっさり賊に夜襲かけられちゃうかなぁ?」

 これでは見張りを立てておいた意味がない。まだ白蓉が寝ずの番をしていたほうが役に立っただろう。

「――あれ?」

 主殿の中が静かになってしばらくすると、裏手の竹林のほうへ史春が出てきた。

 ただ、いつもなら右足を引きずっているはずなのに、なぜかふつうに歩いているし、さらにいうなら抜き身のままの柳葉刀を右手にぶら下げてさえいる。屋敷での、大人のいいつけに諾々としたがっている史春しか知らない白蓉には、その姿がどうにも不自然に思えた。

「え……?」

 自信に満ちた足取りで竹林の奥へ向かう史春の後ろ姿に、何ともいいようのない不安を覚えた白蓉は、屋根から飛び降りると、注意深く距離を置いて彼のあとを追った。

「もしかして史春さん……」

 史春の向かうほうから、男たちの苦悶の呻き声が聞こえてくる。おそらくは、獅伯を狙って返り討ちにされた賊たちだろう。だとすると、史春はそのあとを追いかけて何をするつもりなのか――。

「!」

 わずかな雷光を頼りに目を凝らし、白蓉はそのすべてを見た。

「うわぁ……史春さん、やっぱり賊の仲間だったんだ……」

 史春の裏切りを目の当たりにした白蓉は、彼が蘭芯を連れて主殿のほうに戻っていくのと入れ違いに、獅伯が足をすべらせた崖っ縁へと恐る恐る近づいていった。

「これはさすがに……」

 谷底まで何十丈あるのか判らないが、落ちればまず助からないということは判る。白蓉は両手を合わせて獅伯の冥福を祈ると、あらためて今後の身の振り方を考えた。

「さっさとお屋敷に戻ってぇ、師姐を説得して雲隠れするのが一番いいとは思うんだけどぉ……」

 気になるのは、月瑛が蘭芯にやたら肩入れしているということと、獅伯が背負っている剣に興味をしめしていることだった。このまま手ぶらで石城に戻って、それで月瑛の不興を買ってしまうことだけは避けたい。

「……仕方ないかぁ」

 どう考えても、白蓉に史春にさらわれた蘭芯を取り戻すことはできない。だからせめて獅伯の剣だけでも持ち帰ろうと、白蓉は溜息交じりにそう決心した。


          ☆


 このところ雨の日が多かった。結局、それが若者にとって幸運だったといえるのかもしれない。

「――おい、あれじゃねェか?」

 朝靄の立つ明け方、細くぬかるんだ細い坂道を難儀しながら川辺まで降りてきた賊たちが、水嵩の増した川の中にいる若者を見つけて安堵の声をあげた。

「この靄の中を川の流れに沿って捜すはめになるんじゃねぇかと冷や冷やしてたが……運がよかったな」

「何が運がいいんだよ……!」

 そう毒づいた賊は、左手の先に薄汚れた布を固く巻きつけている。そこにうっすらと赤黒いしみが浮いていた。

「俺はあの小僧に小指と薬指飛ばされてんだぞ!?」

「そりゃあ運のいい悪いじゃなく、てめえの腕が悪かっただけだろ」

「ざけんなよ! そういうおめえは仲間がやられたのを見て尻込みしてたから無傷だっただけだろうが!」

「はァ!?」

「おい、よせよ。せっかくあれだけのお宝を手に入れたってのに、ここで頭領のいいつけを守らなかったら分け前ももらえねぇんだぞ?」

「ちっ……」

 泥だらけになりながら山から下りてきた賊は五、六人ほどいた。手傷を負っている者がほとんどだったが、苛立ち交じりの彼らのやり取りから察するに、おそらくあの若者にやられたのだろう。

 対して、くだんの若者のほうは、増水していきおいが増した谷川の流れの中で、丸みを帯びた岩と岩との間に引っかかっている。その顔色は青ざめていて、目は閉ざされていた。

「……あいつ、生きてんのか?」

「ふつうに考えりゃ、川に落ちてくるまでにあちこちぶつかって死んでるはずだけどな……そのわりにはまだ人の形をしてやがる」

 賊のひとりが川の両側にそそり立つ岩壁を振り仰ぎ、首をかしげた。

「まさか……まだ息があるんじゃねえだろうな?」

「よしんば息があったとしても、とどめを刺せばいいだけだろ」

 弓を背負っていた賊が、矢をつがえながら低く笑った。

「――俺がとどめ刺してやるから、誰か水ん中入ってヤツの死体引っ張ってこいよ?」

「何だよ、おまえだけ楽しやがって……」

「おまえのその手で弓を引けるんだったら代わってやるぜ」

 指を失ったばかりの仲間を笑った賊が弓を引こうとしたところで、嘉生かしょうは様子見をやめた。

「……え?」

 弓の弦が断ち切られるのと同時に自分ののどが血飛沫を上げたのを見たのを最後に、賊は河原に崩れ落ちた。

「なっ……!?」

「て、てめえは――」

 残りの賊たちが不意に現れた嘉生に気づいていまさらのように剣を抜いたが、その動きはあまりにも遅い。もともと腕がさほどでもないことに加えて、若者との戦いで手傷を負っていたせいもあるのだろう。いずれにしろ、嘉生の敵ではなかった。

「ぐぅ――」

「ぎゃっ!」

 六人いた賊たちをまたたく間に始末し、嘉生は振り返った。

「……やはり意識があったか」

 さっきまで流れに浸かっていた若者が、いつの間にか岩の上に這い上がり、剣を片手にじっとこちらを見ていた。

「冷たい水に浸ってたせいか、血のめぐりが悪くなってさ」

「そのおかげで出血が鈍くなったのはいいが、手当をしなければいずれまた血が流れ始めるぞ? それともそのたびに冷たい流れに浸かるか?」

「…………」

 若者は答えなかった。だが、その顔には嘉生への警戒心がはっきりと浮かんでいる。一度は剣を交えた間柄であれば、それも当然だろう。

 嘉生は自分が斬り伏せた賊たちを一瞥し、

「……ほかの賊がまたここへ来ないとはかぎらん。いつまでもそんなところにいないで、さっさと岸に上がってこい。そのくらいの余力はあるだろう?」

「岸に上がったところでいきなりあんたに斬られないって保証は?」

「……そのつもりがあれば、そもそも岸には上がらせないし、こいつらが矢を放つのを止めはしなかった」

 苔でぬるつく岩の上と石だらけの河原、同じ戦うにしてもどちらが場所的に有利かはさほど考えなくとも判る。若者は小さく嘆息すると、背中の鞘に剣を納め、一足飛びに河原へと移動してきた。

「つ……」

「……おまえほどの剣士が誰にやられた?」

「劉大人のところの奉公人だよ。味方だと思ってたら、いきなり飛刀が飛んできた」

「娘は?」

「あの子だったら……まあ、さらわれはしたけど無事だと思うよ。たぶん、大人への人質にでもするつもりなんだろ」

「浅薄な……」

 小さく吐き捨て、嘉生は歩き出した。

「……まずは乾いたところへ行こう。そこで火を起こして、手当はそれからだ」

「ちょっと判んないんだけど」

「何がだ?」

「どうしてあんたがおれを助けるのかってことがだよ」

「……理由はいろいろとある」

「いろいろと、ねえ……」

「……名前は?」

「林獅伯。今はそう名乗ってる」

「……そうか」

「あんたは名乗らないのかよ?」

「劉蛮軒から聞いていないのか?」

「劉――蛮軒?」

 若者――林獅伯が怪訝そうに聞き返す。

「……今は劉福民ふくみんだったか」

「あんた……大人と知り合いなのか?」

「俺と奴の関係を知り合いとはいわんだろうな、ふつうは。――俺の名は嘉生という」

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