第三章 銘は林獅伯 ~第一節~

 獅伯しはくたちが屋敷へと戻ってきたのは、昼を大きく回り、すでに太陽が西に傾き始めた頃のことだった。

「いやいや、申し訳ありませんねえ、獅伯さんにまで手伝っていただいて……」

「……いまさらだけどさ、大人の名前を使えば、店の人があとで屋敷まで運んでくれたんじゃないの、これ?」

 さんざん酒楼で飲んだあとに寄った本屋で、ぶん先生は大量の本を買い込んだ。それを先生と獅伯、それに史春ししゅんとで手分けして、屋敷まで運んできたのである。

「史春さんにもお手間を取らせました。足が悪いのにこんなことを頼んでしまって」

「いえ、私はいいんですが……りんさまにもお手伝いいただいたという話が旦那さまのお耳に入ると、叱られるかもしれませんね」

「っと……だったら早いところ片づけないと」

「ああ、あとは私がお部屋まで運んでおきますよ。先生は獅伯さまとお茶でもどうぞ。すぐに用意させますので」

 そういって、史春は近くにいた下女に指示を出し、自分は文先生の買い込んだ本を運んでいった。

「さんざん酒を飲んできたのにいまさら茶を飲むってのはどうなのさ?」

「まあいいではありませんか」

 昼前に飲んだ酒がまだ少し残っているのか、文先生は気分よさげに笑いながら、扇子を片手に瑞香軒ずいこうけんに向かった。

「……夕餉の席ではまた飲むわけですから、今くらいはね、あれだ、酒を抜いてもいいというか――」

「あんた、ふだんは一日中酔ってるんじゃないか?」

「いやいや、ですからいったでしょう? 大人の仕事を手伝うこともあると」

 ひんやりとした石造りの椅子に腰を下ろした文先生は、襟を大きくくつろげ、扇子で風を送り込んでいる。きょうは結局、日中に雨が降ることはなかったが、きのうまでの長雨の湿気が居座っていたせいで、今になってもまだ蒸し暑い。冷たい茶が欲しくなる気持ちも判らなくはなかった。

 そこへ折よく、蘭芯らんしんが侍女を連れてやってきた。

「獅伯さまと文先生がお戻りになられたとお聞きしまして……」

 問われもしないうちからそんなことをいって、蘭芯は侍女たちに命じて茶の用意をさせ始めた。

「大人はまだお仕事でしょうか?」

「ええ。ですから、何かご用がおありなら代わってわたしにお申しつけください」

 おそらくこの屋敷では、りゅう大人の亡き奥方に代わって、蘭芯が奥向きのことを仕切るのが日常になっているのだろう。侍女たちにあれこれ指示を出す蘭芯は、刺客に襲われておびえていたきのうとは違って、どこか堂々としているように見えた。

「それではせっかくですし、蘭芯さんもごいっしょに」

「はい」

 卓の上にはよく冷えた茶と新鮮そうな果物、それに菓子などが並べられている。ただ、その多くは獅伯が初めて目にするもので、文先生が先に手を出していなければ、口に運ぶのを躊躇していたかもしれない。

「……どうなさいました、獅伯さま?」

「いや……」

 獅伯は眉間にしわを寄せ、白く粉を吹いた赤い物体を箸の先端でつついてみた。

「……これ何?」

「それはさくらんぼの砂糖煮ですよ」

「さくらんぼ? 確かに色はそれっぽいけど――」

「熟したさくらんぼの果汁を砂糖といっしょに煮詰め、冷やして固めたものですよ。さほど珍しいものではないのですが……」

「じゃあこっちの棘が生えた赤いのは何なの?」

「それは荔枝ですよ。もう少し南のほうが本場ですが……ああ、そういえばちょうど今頃が旬でしたね」

「いったい誰がこういうもんを最初に食べようだなんて思ったんだ?」

「さて、歴史上の人物でいえば、かの楊貴妃がこの果物を好んでいたという話が伝わっていますが……獅伯さんは召し上がったことがないのですか?」

「どうだろ?」

 さくらんぼの煮凝りめいたものを箸の先に突き刺し、様子を見ながら半分ほどかじって、獅伯は嘆息した。

「――もしかしたら食べたことあったかもしれないけど、覚えてないな」

「はい? こんな特徴的なもの、一度食べたら忘れないと思うのですが……」

「忘れる奴は忘れるんじゃない?」

 甘ったるさを冷たい茶で洗い流し、獅伯はかたわらに立てかけておいた剣を手に取った。

「そうだな……あんたがまた酒を飲む前に、ちょっと聞いとくか」

「何をです?」

「この剣の……鞘のこの部分、何か字が刻んであるじゃん? あんたくらい博識な人間なら読めるかなって」

「……拝見してもよろしいですか?」

「うん」

「それでは――」

 文先生は扇子をしまい込み、獅伯から受け取った剣をじっと凝視した。

「鞘をぐるりと取り巻くようなこの紋様は……龍をかたどったものでしょうか」

「かもね。――それより、ほら柄に近いとこ。象嵌ぽく何か字が刻まれてるじゃん?」

「確かに金を使った象嵌で文字が刻まれておりますが」

 しばらく思案顔で剣をためつすがめつしいた先生は、どこか釈然としない表情で獅伯を見やった。

「……獅伯さん、どうしてこんなところにご自分の名前を刻んだりしたのですか? それもこんな、いまどき誰も使わないような古めかしい書体で――」

「その字は別におれが刻んだわけじゃないって」

「ですが、確かにここに“林獅伯”と――」

「まあそうなんだけどさ」

 空にした碗を置くと、そこに蘭芯が手ずから新しい茶をそそいでくれた。そんな彼女のまなざしも、今は獅伯の剣に向けられているようだった。

「それは別におれの名前を刻んだもんじゃなくて、最初から刻まれてたんだ」

「……どういうことです?」

「逆なんだ。今のおれの名前がその鞘に刻まれてた文字からつけられたんだよ」

「今のお名前……?」

 茶器を置いて椅子に腰を据えた蘭芯が、獅伯の言葉に違和感を覚えたのか、小首をかしげて繰り返した。

「おれが先生にそいつを見てもらおうと思ったのは、もしかしたら、その剣におれのなくした過去の手がかりか何かがあるんじゃないかと思ってさ」

「……確かにこれは、素面の時にお聞きしたほうがよさそうな話題ですね」

 文先生は居住まいをただし、あらためて獅伯の剣に見入った。

「大雑把にいえば、おれには一〇年くらい前を境に、それ以前の記憶がないんだ」

「記憶が……ない?」

 蘭芯がはっとしたように袖で口もとを押さえて絶句する。獅伯は自分のこめかみを指でたたき、自嘲の笑みを浮かべた。

「子供の頃、崖か何かから転げ落ちたらしくて、たぶんその時に頭を強くぶつけたんだろうな、きっと。自分でも覚えてないけど」

「なるほど……私も聞いたことがあります。頭をぶつけることによって、記憶を失うということがままあると」

「それでもどうにか生きてたのは、落ちた先が川だったかららしいんだよね。で、意識がないまま流されたところを、たまたまおれの師匠になる人が見つけて助けてくれたってわけ」

「ということは、意識を取り戻した時にはもう何も……?」

「うん。自分の名前も生まれた場所も、谷川に落ちる直前まで何をしてたかも、何ひとつ覚えてなかった。……ただ、その時おれが背中にその剣を背負ってたもんだから、師匠がいうには、山籠もりの最中に足でもすべらせたんだろって」

「山籠もりって――剣の修業ということですか? 獅伯さん、その時はいったいおいくつだったんです?」

「いやいや、だから自分でも判んないんだって。……ただ、たぶん一〇歳はすぎてたかな? みたいなことをあとあと師匠がいってた気がするな。一一とか一二とか、そんなもんだったんじゃない?」

「そのような頃から剣の修業を?」

「ん~……それもまったく覚えてないんだけどね」

 獅伯は獅子をかたどった飴菓子に手を伸ばし、もにゅもにゅと頬張った。

「……ただ、記憶は失ったはずなのに、不思議と剣はあつかえたんだよ。知識はともかく、身体のほうは剣術を覚えてたっていうか……だからたぶん、記憶を失う前からなにがしかの修行はしてたんだと思う」

「記憶を失っても、箸の使い方は忘れない、というような――?」

「そう、そんな感じ」

 ぼそりともれた蘭芯の呟きに、獅伯は大きくうなずいた。

「それでは、その剣に記されていたこの名前を取って獅伯さんをあらたに名づけたのも、そのお師匠さまということですか?」

「そ。この剣はおれが記憶を失う前から持っていたものだから、おれの過去とかならず何か関係があるわけじゃん? だったらこの剣のことを知る人間なら、おれのことも何か知ってるかもしれない。この剣を先生に見てもらったのも、何か手がかりになるようなことが判るかもしれないと思ったからだし」

「そういうことでしたか……つまり、そういう人間と出会うために、あなたは林獅伯と名乗って旅をしているのですね」

 したり顔でうなずき、文先生は続けた。

「……獅伯さん、ここの部分なのですが」

「ああ、その名前の両隣に並んでる何かにょろにょろした模様?」

「これは単なる模様ではなくて、おそらく異国の文字です」

「え?」

「何種類かありますが……私に判るのは、ここ、この部分が契丹きったん文字です。あと、ここの文字はおそらく吐蕃とばん波斯はしあたりの文字ではないかと――」

「は? そうなの?」

「いや、私にも確証はありませんよ。それっぽいなという程度で……契丹の文字にしても、そうだと判るだけで読めはしませんし、もちろん意味も判りません」

「そうか。それは残念……かな」

 さすがに獅伯も、長年の謎がここですべて氷解するとは思っていない。ただ、剣の鞘に何種類かの文字が刻まれていたというのはあらたな発見であり、一歩前進といえなくもなかった。

「獅伯さまは、ご自身の素性や出自が判るまで、旅を続けるおつもりなのですか?」

「え、おれ?」

 にやつく口もとを隠すように碗を傾けていた獅伯は、唐突な蘭芯の問いに虚を突かれた気がした。

「それは……いや、だって、小骨がのどに引っかかってるような感じじゃん?」

「幼い頃の記憶がないことが小骨ですか? 私としてはかなり大きな骨だと思うのですけど」

 文先生が横から口をはさむ。

「いや、だからとにかく気になるって話だよ」

 幸か不幸かこんな時世で、そして獅伯には剣の腕がある。自分ひとりで旅をしていくのはそう難しくない。だから獅伯は自分の過去を追い求める旅に出た。

「――もちろん、何も知らないままだって生きてくことはできると思う。それこそ箸の使い方や言葉までは忘れてなかったわけだしさ。ただ、自分の過去ってのがどうしても気になって仕方がないんだよね、俺」

「そこをはっきりさせなければ前には進めない、ということですか」

「そゆこと。……でもさ、お嬢さん。あんたどうしてそんなこと聞くの?」

「いえ……」

 蘭芯はうつむき、言葉を濁した。

「……獅伯さん、これはあれですよ」

 獅伯に剣を返すついでに、文先生が含みのある笑みを浮かべてそっと耳打ちした。

「蘭芯さんは、きっと獅伯さんにここにいてもらいたいのですよ」

「はぁ? 何だそれ?」

「獅伯さんの旅の目的が自分の過去を捜すためであれば、大人がどんなに大金を積んで引き留めたところで、いつかはここからいなくなってしまうわけでしょう?」

「ああ……まあそうだね」

「要するに、獅伯さんがいずれいなくなってしまうと知って、蘭芯さんは哀しくなってしまったのですよ」

「だから何でだよ?」

「本気でお判りにならないのですか? 蘭芯さんは獅伯さんのことが好きなのですよ」

「……あんたこそホンキでいってんの、それ?」

 獅伯は軽く舌打ちし、文先生の脇腹をぴしりと指ではじいた。

「ぅぐおっ!?」

 獅伯にすればさほど力を込めたわけではない。が、その気になれば、獅伯は小石や銅銭を指ではじいて飛ばし、雀を射落とすくらいの芸当はできる。それを――軽くとはいえ――じかに脇腹に食らって、文先生が身悶えしたのも当然だった。

「せ、先生!? いかがなさいました!?」

 ふたりのこそこそしたやり取りが聞こえていなかった蘭芯は、文先生が唐突に脇腹を押さえて呻き出したことに驚き、慌てて腰を浮かせた。

「い、いえ、べっ、別に……その、何と申しますか――」

「昼間っから酒を飲みすぎてるせいじゃない? 少し控えなよ」

 素知らぬ顔をして茶をすする獅伯にとっては、良家の若い娘が、きのうきょう出会ったばかりの、しかも素性の知れない流れ者に恋をするなど、ありえないこととしか思えなかった。


          ☆


「――っていうようなことをね、いってましたよう」

 屋敷の裏手を流れる運河で洗い物を片づけながら、白蓉はくようは自分が見聞きしたことの一部始終を月瑛げつえいに語った。

「子供の頃のことを何も覚えてない、か……」

「そういうことって本当にあるんですかねえ?」

「さあね。……でも、あの文先生がしたり顔で聞いてたってことなら、たぶんありえる話なんじゃない?」

「あの先生のいうことって、そんなに信用できますう?」

 あらかた皿を洗い終えた白蓉は、運河の流れで自分の手を洗い、長い溜息をもらして立ち上がった。

 劉家の一族は、今は劉大人とその娘の蘭芯しかいない。混乱の中をここまで逃げ延びてくる間に、身内のほとんどとはぐれてしまったのだという。が、代わりに多くの奉公人や食客しょっかくをかかえているおかげで、一日に出る汚れた食器の数は尋常ではない。特に最近は用心棒が増えているせいもあり、台所で洗うだけではとても間に合わず、白蓉のような新入りの奉公人は、こうして屋敷の外に持ち出してまで皿洗いをさせられるのがつねであった。

「文先生、そこそこいい男なのは確かですけどぉ、どっか頼りないっていうかぁ……わたしは断然、林さまのほうがいいと思いますよう」

「あんたの好みなんか聞いてないよ。……とにかく、本人にもあの剣の来歴は判らないってことか……」

 思案顔で小さく唸った月瑛に、白蓉はいった。

「悩むくらいならさっさといただいちゃえばいいんじゃないですかぁ?」

「それができれば苦労はしないよ。――あんただって、あのにいさんの部屋に盗みに入って返り討ちに遭った男の話は聞いてるだろ?」

「そりゃ聞いてますけどぉ、いくら腕が立つといったって、さすがに師姐の腕前だったら――」

「あんたがはやばやと剣を捨てたのは正解だったねえ」

 憂い顔を小さな苦笑ひとつで崩し、月瑛は屋敷のほうを振り返った。

 すでに劉大人もきょうの仕事を終え、また獅伯を捕まえて夕餉の席をともにしている頃だろう。月瑛がいつまでも顔を見せずにいると、劉大人や文先生はともかく、獅伯は怪しむかもしれない。

「……あのにいさんを相手にするのはわたしにとっても危ない賭けなんだよ。確証がなきゃ仕掛けられない」

「そうですかぁ? 何だか田舎から出てきた世間知らずっぽいしぃ、師姐がちょちょいと色仕掛けで油断させれば、簡単に隙を見せるんじゃないんですかぁ?」

「あんたみたいな小娘にいわれてもねえ……何はともあれ、あんたは余計な手出しはするんじゃないよ? 今は様子見さ」

 剣の鞘を右手に持ち替え、月瑛は屋敷の中へと戻っていった。

「――あ! 月瑛さん! ちょっと来てくださいよ!」

 何ごともなかったかのように姿を現した月瑛を、文先生がやたら大きな声で呼ばわった。隣にいた獅伯は不機嫌そうに眉をひそめている。

「あのさあ……声でかすぎない?」

「まあまあ、いいではないですか。月瑛さんだってあちこちを旅してきているという話ですし、えー、この際、意見を聞いてみても――」

「何の話だい?」

「獅伯どのの素性に関するお話と申しますか……」

 この屋敷の主人親子と獅伯が食事をする時は、いつの間にかこの瑞香軒に席をもうけることが決まりのようになっていた。今宵もほかの用心棒たちとは別に、獅伯だけがこの四阿に招かれ、劉大人や蘭芯と酒食をともにしている。

 さも当然のように蘭芯の隣に腰を下ろした月瑛は、娘の酌でまずのどを潤してから、早くも呂律が回らなくなりかけている書生の言葉に耳を傾けた。

「……へえ、昔の記憶がないのかい、あんた?」

 すでに白蓉から聞いていたことをさも今初めて耳にしたかのように、月瑛は目を丸くして繰り返した。

「なくたって別に不便はないんだけどね」

「それがね、あー……ほら、あれ、その――そうだ、魚の小骨みたいなものだとおっしゃるのですよ、獅伯さんは」

「気になるには気になるわけだ、ふぅん」

 白く透き通るような薄手の碗をあおり、月瑛は劉大人と蘭芯の様子を窺った。

 娘のほうは何かいいたげだがいい出せない、そんな顔でじっとうつむいていたが、父親のほうはいいたいことをすぐにでもいいたくてうずうずしている――そのように月瑛の目には映った。

「ですから」

 酔いのせいでくどくどと冗長になっている文先生の言葉が途切れたのを見計らい、劉大人は芝居がかった咳払いで斬り込んできた。

「――林どのにそのような事情がおありならば、私どもにもお役に立てることがあるのではないかという話でして」

「確かに旦那は手広く商売をやってるし、その伝手を使って情報を集めるのも楽だろうねえ」

 もっともな話だと、月瑛は大仰にうなずいた。が、肝心の獅伯はいい顔をしていない。おそらく――というより間違いなく、劉大人の伝手を信用していないのではなく、借りを作ることを渋っているのだろう。

「あのさあ、おれはね――」

 苛立ちをつのらせた獅伯がそう直言しようとする先途、月瑛はいった。

「――そういうことなら旦那、次はこっちのにいさんについてってもらえばいいじゃないのさ」

「は?」

「陳情。あきらめてないんだろ?」

「そ、それはまあ……」

武昌ぶしょうまでの道中、また例の剣士に襲われないともかぎらないけど、にいさんがついてればひとまずは安心さ。武昌くらい大きな街なら、にいさんのことを知ってる人間もいるかもしれないし、旦那は伝手を使っていろいろと調べてやれる。……どっちにとっても損はないんじゃない?」

「そうですな……」

 月瑛の案に、劉大人はさっそく胸中の算盤をはじき始めているようだった。

「おい、あんたら勝手にいろいろと話を進めるなって」

「どっちみち、行き先が武昌だとわたしはついてってやれないのさ」

 月瑛は長い袖で口もとをそっと隠すと、菖蒲の茂みの向こうの広間を肩越しに一瞥して、

「……あんたが行かないならあいつらを連れてくことになるだろうし、結局また棺桶屋を儲けさせることになっちまうかもね」

「棺桶屋が儲かろうが坊主が儲かろうが、おれには関係ないよ」

 獅伯がそういうつっけんどんな態度を見せることは、月瑛には最初から判っていた。ただ少し気になるのは、一も二もなくこの話に乗ってくると思っていた大人が、やけに神妙な顔つきで考え込んでいるということだった。

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