1の9 龍之介とその仲間、県代表に選ばれる事(後編)
四人目の副将、ヤスケ。
彼の勝ち方も見事だった。
素早い動きで相手をけん制し、掴ませない。
ここと思えばまたあちらとは、まさにこのことだ。
相手はいい加減にじれて、がむしゃらにつかみかかろうとした、その時である。
ヤスケは思い切り身を縮め、床に両手をつくと、まるでコサックダンスのように、左脚を回転させた。
敵の足先が脛に当たり、前のめりになったところを、すかさず潜り込み、腰に乗せて投げ飛ばした。
僕が教えた柔道の腰投げだ。
相手はもろに肩から落ちて、脱臼をしたようだが、僕が出ていて治療してやると、バツが悪そうにそのまま引っ込んでいった。
さて、次は大将戦、つまりは僕の試合だ。
相手は僕よりも遥かに背が高い。おまけに筋肉質で、プロレスラーにでもしたらぴったりの体格をしていた。
もう自分たちの勝ちはないと分かっているが、流石にディフェンディング・チャンピオンだけの事はある。
目を血走らせてはいるものの、距離を取って冷静な構えを取っていた。
膠着状態が一分ほど続いたが、いきなり向こうから左右のジャブを繰りだして来た。
だが、こういう時、背が低いというのは便利だな。
僕はそのパンチをかい潜って、奴の右腕を担ぐと、一本背負いで二度投げ飛ばした。
二度目に投げた後、僕はそのまま背後に回り、片羽絞めに掛ける。
通常の柔道なら、参ったをすれば一本勝ちになるんだけど、彼はそれをしなかった。
仕方ない。
僕の腕は奴の頸動脈にかかると、ものの一分もしないうちに、彼はぐったりとしてしまった。
”落ちた”のだ。
『それまで、それまで!』審判の声が響き、場内はどよめきに包まれた。
僕は勝ち名乗りを受ける前に、奴の身体を起こすと、活を入れる。
はっとして目を覚まし、後に居る僕の方を見る。
何も言わず、僕は黙って手を差し出すと、向こうもそれに応え、手を握り返した。
すると、場内に歓声とともに、拍手が起こった。
少しばかり照れ臭いな。
ただ、僕は柔道をやっている者として、当たり前の行為を取ったに過ぎなかったんだが、この世界ではこうしたことが非常に潔いと思われるらしい。
闘う者の心構えってのは、何処の世界も変わらないものだ。
試合が終わり、セレモニーになった。
僕達、ヤマト村の
少しばかり尻がくすぐったい。
僕は今まで、人前で表彰なんかされたことはあまりなかったからね。
それでも”代表”ってのは、悪い気持ちはしないものだ。
応援に来ていた村のみんなも、僕達の活躍を心から喜んでくれた。
特に村長のライスケ氏の喜びようったらなかった。
村に帰ると、待っていた村人たちが総出で出迎えてくれ、その晩は歓迎の宴と相成った。
ゴンゾウたちは照れ臭がったりしていたが、昨日まで村を襲っていた自分たちが、受け入れて貰ったのが嬉しかったんだろう。
”兄貴、これも兄貴のお陰だ”と、四人から何度も礼を言われた。
キキョウさんは宴席の間、ずっと僕の隣にいて、お酌(くどいようだが酒じゃない。ブドウジュースだよ!)をしてくれた。
彼女が僕にどんな気持ちを持っていたか・・・・この時はまだ分らなかった。
いや、気づかなかったという方が正解かな?
しかし、浮かれてもいられない。
まだ僕達には、全国大会という、大きな目標があるんだからな。
第一部、終わり。
鍬形龍之介、異世界格闘奇譚 冷門 風之助 @yamato2673nippon
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