白い部屋

ここは不思議に静謐せいひつ

生と死の狭間にいるひとを

見守っていることが嘘のように


時々、父は目を開けて

自分の輪郭を確かめるように

顔や頭をその手で、なぞるような仕草をする


少しずつ指先から体温が下がってきている

それが確かに近づいている別れの気配を

わたしに思い知らせる


窓から射し込む陽ざしが白い部屋を

仄かな蜂蜜色に染める

空調の音と父の呼吸の音だけがしている


何処か遥かを見ているような眼差しは

まるで童子わらべのように澄んでいて

それだけ父が遠ざかっていくようで


目を閉じた父の寝息が聞こえてきたから

わたしは切なさに耐えかねて

病室からそっと出ていく


目を覚ました父に笑顔でいられるように


残された時間を優しいものにするために



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


◆ 目を開けることが少なくなっていました。薄らと目を開けても遠くを見ている眼差しで。


 自分の輪郭を確かめるように顔や頭を手でなぞるような仕草を何度もしていたのを覚えています。


 少しずつ現世に別れを告げているようで、それが堪らなく切なかった。

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