夜想曲

父の病院から帰り着いた頃に

電話がかかってきた

「お別れの時がいよいよ迫っているかもしれません」


泊まりがけで付き添えるように

簡単な着替えだけ持って病院へと向かう

ホスピスの畳の家族控え室に荷物を置いて


病室に行って父の手をそっと握ると

父は薄らと目を開けた

もう話しはできなくてもその手は温かい


命の炎は消えていないのだ

父はまだ此処に居る

手を握ればこうして握り返してくれる


病室にはショパンの夜想曲ノクターン

かすかに流れている


わたしは幼い子供のように

駄々をこねたくなる

まだ、ねぇ、もう少しだけお願い


父はまだ此処にいる

父の魂は此処にいる


夜想曲ノクターンが流れている


いかないで、おとうさん


夜想曲ノクターンが流れている



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


◆ 恐れていた知らせでした。

 ホスピスを出て、自宅の玄関のドアを開けようとした時に携帯電話が鳴りました。


 泊まれる用意をして息子たちに連絡して、病院へ。


 父の手を握ると薄らと目を開いたのです。まだ手だって温かくて、握り返してくれる。お別れが迫ってるなんて嘘でしょう?


 クラシックが微かに流れていました。父もわたしも好きだったショパンの夜想曲セレナーデでした。

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