横顔

ホスピスの個室のベッドに

眠る横顔は静かで

訪れたわたしは

ゆっくりと上下する胸元を見て

今日も安堵する


父は眠っていることが多くなった

時々、ゆっくりと目を開けて

吸い飲みで水をこくんこくんと飲んでは

また、微睡まどろみの中に戻っていく

窓の外は小雪が舞っている


その手は痩せてすっかり細くなったけど

柔らかくてほんのりと温かくて

父の生命がまだ地上ここ

留まってくれていることを

わたしに知らせてくれる


ベッド脇の机に置かれた母の写真に

もう少し待っていてねと話しかける

仲の良い夫婦だったから

寂しがるかもしれないけど

写真の母は優しく微笑んでいる


残されたこの時間が

あとどのくらいあるのかはわからないけど

この年古としふりた娘は

明日も穏やかな父の横顔に会えますようにと

ただ、ただ、祈りながら病室を後にする


師走の夕暮れ

雪はみぞれへと変わったようだ



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


◆ この頃、父は眠っていることが多くなり、たまに目を開けて吸い飲みで水を飲んでは、また眠りの世界に戻っていくようでした。

会話はもう出来なくて、それでも手を握れば温かい。


まだ、わたし達のところに留まってくれている。どうか明日も会えますようにと、ただそれだけを祈っておりました。

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