(五)

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 お嬢さまたちの楽しそうな会話は日ごと増している。

 これであれば、次のステップに移っていいのでは……。

 先生に提案してみようと思った私は、お茶の用意の手をとめ、視線をあげた。

 窓外の穏やかな日の光をバックにして映った、黒髪の後ろ姿に目を細める。

 あの事故に遭われて、そして引きこもられてから……五年。

 食事のあげさげ、洗濯物の受け渡し……。部屋のドア前で行われる、顔を合わせずのその無言のやりとりは、すべて私が担当した。

 用を足すためか、ごくまれに、音もなく部屋から出てきたお嬢さまと出逢うことはあった。しかし、決まって顔を伏せている彼女は、目を合わせることなく、ただ抑揚のない小さな声で、「こんばんは」もしくは「こんにちは」―――そういってすれ違うだけだった。まるで同じアパートに住むものの、交流はまったくない人間に向かうような体温の感じられないその態度に、彼女の記憶から完全に除外されている私を確信した。それでも誠心誠意つくしたのは、幼少のころからお仕えしてきたメイドとしての務め、ということからだけではなく……。

 ご主人さまと奥さまの遅くにできた子であるがゆえ、年齢的に、自分のほうが母親としてはしっくりくる見た目。それが、我が子を抱くことの叶わなかった私を、いつしか真の親と信じ込ませていたから……ではないか。

 結果的に、時の流れが特効薬になったのか……。手元に目を戻し思う。

 であればこの流れに乗り、つつがなく元のお嬢さまに……。

 祈る気持ちで三人分のティーカップに湯気を立てた。

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