(二)

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 キャンバスバックを肩にかけ、携帯イーゼルと油彩セットを持ってのこの坂道は、結構なきつさがあった。ただでさえ描画に夢中で、部屋にこもりっきりだった躰だ。それでも時折なでる春風の心地よさが、そのつらさを和らげる。

 道順をプリントアウトした紙に目を落とす。目的の家はもうすぐだ。バックを肩にかけ直すと、両足を励ました。


『絵画館MIRU』

 わたしの名前をとり、そう銘打ったHPを、最近ごく久しぶりに更新した。そこには写真に収めた自身の絵画作品が載せられている。

 べつに作品を販売しようなどという目的ではなかった。美大に通っているとはいえ、プロの画家になる気など毛ほども持ってはおらず、単に絵を描くのが子どものころから好きだっただけで……。

 しかし描いたら描いたで、誰かに見てもらいたいと思うのは人の性。そして、できれば感想なりをもらえたら……ということから、HPにはメールアドレスも添えられてある。

 本来であれば、現物を見てもらうのがベストなのは承知している。が、そう都合よく披露できる場所も機会もなく、画廊を借りきってなどということも、さすがにコスト面で難しい。ゆえに、このような方法を思いついたわけで……。

 そんな『絵画館MIRU』を更新して間もなく、メッセージが入った。肖像画を描いてほしいという。

 もちろん作画依頼なども募ってはいなかったので、非常に驚いた。だが、それを喜んで受けたのは、絵画で報酬をもらえたことなど一度もなく、かつ、もらえるなど夢にも思っていなかったから。

 また、依頼者の苗字が自分のものと同じだという奇遇も、心のどこかで親近感を持たせ、承諾の後押しとなったのではないか。


 どこか懐かしさをもよおさせる、古めかしい洋館が見えてきた。

 門の前にたどりつくと、「UEDA」という表札が出迎え、目的の家であることを知らせた。

 目を瞠る依頼料から想像していた通り、大きな屋敷だった。

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