第16話 天に在す(2)
「それじゃあ早速ルーレットを回して行きましょう!」
「ルーレット〜〜〜」
「「スタート!!」」
因みにだが、これは最初から出目の決まったイカサマルーレットである。
本番前に疾風が言っていた通り、適切に役割を振ってしまうとアイドルVS冒険者では勝負にならない。
故に司会者の手によって回された後は機械操作により出目を確定する。
当人合意の上で無かったら、悪党側が使う技術である。
『運転』森 深夜 VS 木原 未日
『隠形』田原 真三 VS 葛西 赤司
『防御』中村 輝春 VS 浅沙 ロナ
『宝探し』飯野 松 VS エミリオ・バルトルッチ
『近接戦』風早 疾風 VS ウイリアム
『射撃』天城 天馬 VS 世良 燐音
わー……マジヤバでツーペア(対戦相手と競技)。
というか、予定と違う。
結果を見て慌てるスタッフさんのリアクションを見るに、機材トラブルだろう。
本来であれば、近接戦が燐音でウィリアムが射撃だった。
ウィリアム白星は番組的においしいという事と、新入り相手なら疾風が圧勝しても何ら違和感が無いという事からの対戦カードだったのだが、予期せぬリーダー対決で、絵的には何らおかしくないが、実力差的にはヤバい事態だ。
スリーペア(放送事故も追加)だったわ。
「…………」
「…………放送事故ッ! えっちゃんどしたの!?」
台詞忘れた? 無言はやばいよ。ラジオほどじゃないけどさ。
「いやその……ごめんね? わたしが苦手な種目聞いたせいで……」
「え、や、えっちゃんのせいじゃないよ! 大丈夫、大丈夫! その証拠に勝つし!
超勝つし!! えっちゃんが応援してくれたらちゃんと『エンジェルフォール』の実力見せつけてくるから!」
完全に想定外の所で自分を責めていた。
大丈夫だよ。フラグとか、そういうふわっとしたものが原因の場合は大体自分が原因だよ。
「……うん、わかった! 司会者だからどっちのチームを応援とかは出来ないけど、りっちゃんだけはしっかり応援するね! しっかり『エンジェルフォール』魂みせつけてきて! ふぁいおー!」
「おー!」
尚、番組に出演出来なかったふーちゃんのSNSにて『あたしの知らない内に新メンバー加入してる……』という呟きがされて、『新メンバー』でトレンドインされる事になるのだが、燐音は知る由もない。
「さあ気を取り直しまして、早速競技の方に移っていきましょう!」
「第一種目は『運転』です! ルールは単純明快、ゴールに先に辿り着いた方が勝利の車を使った障害物競走となります! ……え、このコース下手したら車大破しないですか?」
「迷宮仕様車で、障害物が遺物使用の最高品質衝撃吸収材なので多少は大丈夫だそうですが、飛んだりとかもするので普通に大破も有りえますが、強化服を着てヘルメットを被れば中の人は問題ないそうですね!」
「凄いですね! ただこのヘルメット、視覚、集音が制限される都合から現場で使用する冒険者は殆ど居ないそうですね。魔物の攻撃にも耐えられないケースが大半で、何も付けずに自分の感覚に命を預ける方が殆どだというデータがあります」
「成程、あくまで訓練中の事故を防ぐための防具、といった扱いなんですね!」
「開発は継続されているので、今後の技術発展によってはヘルメット有りが主流となるかもしれませんけどね! 未来に期待しましょう!」
そう締めくくって、映像はコースへと移る。
カメラは車内と、追跡ドローン、施設備え付けの三種類あって、カメラの切り替えが映像のクオリティに直結することとなる。この辺はカメラマンのちからの見せ所だ。
開始前の選手インタビューの後、いよいよ第一競技がスタートする。
尚、運転席に座る木原の顔は暗い。燐音と違い、最初から参加競技は聞いていたはずなので、『はて?』と首を傾げるが聞いてる時間もない。対戦相手の森は元よりドライバーであるし、このコースでの事前練習も行っているので余裕の表情だ。
「それではいよいよスタートです! 双方用意はいいですか?」
『あぁ』
『大丈夫です』
「それではカウントです」
「Ready……」
「「GO!」」
両者一斉に車が走り出す。
スタートダッシュはほぼ同時。そこだけ見て何の問題も無さげだと燐音は内心胸をなでおろし――
ゴッ――!
「あぁっと! 木原選手最初の障害物を回避するために別の障害物に衝突ー!?」
「えええぇ!?」
因みに、後から知った話しだが、木原は台本をちゃんと見ていなかった。
急な仕事でとんぼ返りさせられてそれどころではなかったというのもあるが、今迄は話を振られても一回がせいぜいで、後はウィリアムやロナが対応していた。今回の競技にしても、ひよっこが最低限出来るようになるための種目であるなら何が来ても問題は無いだろうとたかを括っていた為だ。
運転にしても、一般道を走らせるだけなら問題は無い。
だが、森の中で獣道どころか木々の密集地帯で車幅を意識して通れる所を探すように走る事を求められるのは想定外もいいところで、『あぁ、そういえば確かにこういう状況もあり得るなぁ』なんて現実逃避しながら木々に見立てた障害物に突っ込んだ。
尚、森選手はお茶の子さいさいといった風にスイスイ障害物の密集地帯を抜けていく。
「えぇっと……第一障害物で逆転不可能レベルの差がついてしまいましたね」
「そうですね、最初の衝突後はおっかなびっくり走行で抜けた頃には森選手の影も形もありません」
「油断しない兎に亀は為す術もないという感じですね」
「エミリオ選手がめっちゃソワソワしながら見てます」
「恐らくやってみたいんでしょうね。ボク的にも極まった人たち同士のデッドヒートが見たかったです」
これはこれでありなのかも知れないが、車に関して言えばどうしても車体のスペックに依存する部分がデカイので戦力差が広がりにくいものなのだから、確実に勝ちを拾いに行かなくても……と思わなくもなかったが、逆パターンなら間違いなく勝利を優先する自分が思い浮かぶのでそんな思考は棄却した。
「森選手ゴールです! 本当はコース毎の解説も交えたかったのですが……」
「ちょっと木原選手が愉快過ぎましたね」
『ウォォォォォォォォォォォォォォォ!!』
「おぉっと木原選手! もう競技は終了しているぞ!」
「車体で崖を飛び越えるのを諦めて、咆哮と共に車をぶん投げたァ! 車体はひっくり返る事無く対岸へ! 凄い! 強化服を着ていてもこれは凄い! 筋肉フル活用! でも本人はどうやって対岸まで行くつもりなんでしょう?」
「今回は崖下が低いので徒歩でいけちゃいますけど、マッスルパワーで崖下まで降りて、対岸をロッククライミングしそうですね」
「あぁ……というか実際の現場ならちゃんとドライバーも居ますしね」
「でもこれ、『運転』競技なので。下車しちゃった木原選手は失格です」
「勝敗が決した後に追い打ちを掛けていくスタイル」
勝者インタビューを行い、次の競技へ。
「第二種目は『隠形』です!」
「開始から三分後に放たれる十機の集音センサー搭載ドローンのカメラに3秒以上写り続けるか、ドローンが放たれた後からカウントして同じ場所に一分以上留まっても負けです」
「これは鼻の利く魔物を想定しているそうですね、本来であれば隠れていても見つかるので、如何に視界から外れている時に音を立てず離脱出来るかが勝負の決め手ですよ!」
要するに、ハイテクかくれんぼである。
フィールドは三次元的な動きを想定しており、ドローンもカメラは正面にしか付けられていない。無音であれば、ドローンの背後を移動しても見つからない仕様となっている。
燐音は恐らくこれが尤も自分にとって最適な競技だったなぁと思った。
プロペラ音を聞き分け、その風切り音からドローンの進行方向を見極めて音を立てずに移動する。爪も牙も劣る人間一匹で森で生き残るためにはこの位の事は出来なきゃ話にならない。むしろ、敵数が判明している分付け狙われても大分イージーだ。
動きを阻害する毒虫、蛇の類も居ないとなれば、敵の妨害も込みで行動可能だろうし、勝利は揺るぐまい。楽しそうだし是非やりたかった。
「……あれ」
と、そんな風に考えている内に選手たちが配置に付き、いよいよ開始の合図といったところでカメラに映る葛西を見て首をかしげる。
「どうしました?」
「なんか葛西選手が既に途方に暮れているような……」
「……そういえばそうですね? どうしたんでしょうか」
役割は斥候だって言ってたし、木原と違って役割の範囲内なのに何故……。
「あっ」
「理由が分かったんですか?」
「そういえば葛西選手……役割は斥候ですけど隠形は苦手だって言ってたような……」
「えっ」
葛西は十分も経たない内に負けた。
「勝者インタビュー……と言いたい所ですが、ぶっちゃけ二連続で勝負の体を成していないので、敗者の葛西選手に来て貰いました!」
「いじめか?」
「見事な負けっぷりでしたね! 今どんな気持ちですか?」
「嘘だろ? 初対面のアイドルにこんな毒のある聞かれ方する事あるか??」
「放送前に負ける訳ねーってドヤってたのに秒で負けた感想はどうですか?」
「えーそんな事言ってたのに負けたんですかぁ?」
「恥ずかピー!」
「「ざーこ! ざーこ!」」
「うるせぇぇぇぇクソガキ共ぉぉぉぉぉ!」
「「きゃあこわーい! おじさんの逆ギレこわーい!」」
「ハモんな!」
なんでや、ちゃんとソプラノとアルトでパート分けしてるのに。
まあ勝負自体は早くついてしまったが、木原の時よりかは勝負になっていた。
というのも、木原は自身が隠形が不得手で有ることを自覚している。故に燐音がこうする余裕まであると考えていた『相手の妨害』を主体に行動したのだ。
相手のいる場所を予測し、予測とは思えぬ正確さで補足してそちらに向けて山なりに石を投げて着弾位置に寸分の狂いも無い技術は見事と言う他無い。
ただ、これに関しては本当に相手が一本上手だった。
葛西がそういう動きを取ってくると把握した田原は逆に音を出すことで葛西の方へドローンを誘導。隠形能力でアドバンテージのある奴はそうした上で再度隠形。それを数度繰り返せば葛西はなすすべもなく合計三秒カメラに写ってしまった。
身軽な動きで一度に捉えられる時間は位置秒未満でも、四回から五回も同じ事をやられてしまえば狙いを定める暇もないし、何より距離が近くて自身もドローンに見つかってしまう。
普通に名勝負。同じ場所に留まれないルールが引っかかる事態に陥るマヌケは流石にプロが集うこの場にはいないので、試合時間自体は短かったがこの変則かくれんぼは成功だったと言えるだろう。
「ちなみにここまでの流れ、全部ボクの仕込みです」
「わかっとるわ!!」
燐音に茶化されてギャグ化されてしまったが。
「こほん、葛西選手ごめんなさいですっ! そんな訳で第三競技は『防御』です!」
「ルールは簡単、選手に目掛けて飛んでくる飛翔物を弾くなりなんなりして、後ろに配置されるゴールに入れない事です! 制限時間は十分。時間内に入った飛翔物が少ない方の勝利となります!」
「ディフェンダーのお仕事ですね。飛翔物は大小様々で、体に直撃すると強化服を着ていても悶絶する位には痛いそうです。ちゃんと武装で防ぐことも見ている訳ですね!」
「因みに、葛西選手にどの位痛いか体験してみませんかって提案したら断られました」
「りっちゃん外道だね……」
「で、今フィールドに居るのがその代わりを務める天城選手ですね」
「!?」
「弾き返せるなら弾き返すのもOK! って言ったら結構サクッとOKしてくれました!」
『っしゃオラぁ!』
フィールドでは今正に飛んできた飛翔物を棒で弾き飛ばしているところだった。
尚、
「ちなみに、飛んでくるのが一個だけなんて誰も言ってません」
『ハハ! 余裕よゆグバラッ!』
特大飛翔物にホームランされ、天城は飛翔物と一緒にゴールする。
重力に従ってボールと一緒にゴールから出てきた天城はそのまま崩れ落ちる。
「おぉ〜これは痛そうですね〜! ちなみに今回の競技ではあの特大飛翔物は設定されてません。デモンストレーション用ですね」
「スタッフさーん!? りっちゃん淡々と言ってますけどこの流れ予定通りなんですか!? なんならデモンストレーション丸っと予定にないんですけど!?」
二競技目が思った以上に短時間で終わって尺余りそうだし面白いからって選手がOKするならって条件でCM中にGOサインだしたディレクターが居るらしいですよ? 怖いね。
「さあデモンストレーションも終わり、いよいよ選手入場です! 競技の特性上、一人ずつの挑戦となります! まずは『SKY-HI』の中村選手からです!」
最初に入場してきたのは中村選手。
『運転』競技の時同様、安全のためにヘルメットを被り、手には大盾を持って見るからにディフェンダーと言わんばかりの風貌だ。
「因みに競技に使う武装は施設備え付けのものです! そのせいか、些か使いづらそうにしてますね」
「ディフェンダーにとって盾って生命線ですからね、ガードしながらも視界がクリアな物が最近のトレンドだそうですし、必要最低限の機能しか備わっていない盾は使いづらいのかもしれません」
「成程……因みにりっちゃんならどうします?」
「ボクですか? ……剣で全部弾くかな」
「おぉう達人発言……さっきの天城選手みたく?」
「そうですね、あくまで特大飛翔物が来ない前提ですけど……打ち返すと言うよりかはゴールに入れない事を優先して射線をずらす様に剣を置きますね。下手に転がすと足元が悪くなるので意図的にファールを後ろに飛ばすような感じです。球速は目で追える程度なので十分位なら結構余裕かも?」
「えぇ!? ほんとに?」
「あくまでこの競技なら、ですよ? 飛翔物に殺意がないし、痛いって言っても強化服を着てれば所詮怪我はしないレベルです。打ち返そうと思ったら片手でも行けるレベルのパワーでの攻撃なら問題ないかな」
「……あの、カンペで『じゃあ実演してみる?』って」
「番組の尺的に問題ないならいいですけど勝敗に関係しないなら全競技終了後でも良いのでは?」
生放送で途中をカットも出来ないから確定で十分、移動含めたらそれ以上時間取られるし、と内心で付け足しながら。
◆
中村は善戦したが、やはり装備等がネックだったのだろう。自らが被弾しても怯まない様は立派だったが、千球中二十個ほどゴールを許した。
因みに、試験だと一割未満に抑えられれば合格なので、合格ラインは十分に超えていると言える。
「さあお次はロナ選手です」
「実はわたし、ロナ様のファンなんですよね! ロナ様ならノーミスクリア余裕です! この勝負はロナ様の圧勝で決まりですよ!」
「ロナ様て。片方に肩入れしない司会者の矜持は何処へ?」
「それはふーちゃんに押し付ける予定だったのでりっちゃんに任せます」
「マジかよボク選手なんだけど。……因みにここでロナ選手が負けると後が無くなるので最悪ボクの出番は無くなります」
「そんなあり得ない心配はしなくて良いのッッ!」
「せめて押し付けた公平性位は捨てさせないで??」
実は、公式SNSにおいてもエレナはロナファンを公言しており、前日の投稿で『生ロナ様に会える……!』とかオタク丸出しの発言をしていたりする。
それに対するふーちゃんの辛口ツッコミとセットで。
そして、エレナの黄色い悲鳴と共にロナが剣を一本携えてステージに入る。
だが指定の位置に立ったかと思うと、その剣を地面に置いて胸の前でさながら祈るように手を組んだ。
ただし目を瞑る事はせず視線はまっすぐに
『――天に在す神速よ。我が身を持って奇跡あれ』
紡いだ言葉は祈りのようで、祈りではない。
宣誓。
少なくとも燐音にはそういう類いの言葉であるように聞こえた。
瞬間、映像越しにも分かるほどロナの存在感が大きく跳ね上がった。
体が淡く発光し、髪は無重力下のように浮遊する。
「詠唱キタ――――――!」
「え、なにあれ」
「何で知らないの!? ロナ様の魔法! 神速の加護の顕現!」
『第一魔法。『
光の発露。
奇跡は成り、魔法は顕現する。
足元にあった筈の剣が、いつの間にやらその手に収まっている。
ロナは軽い素振りのような所作で凄まじい風切り音をさせながら調子を整えた後、端的に告げる。
『――始めて下さい』
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