第8話 家族の日

 そんな訳で、12月24日。燐音の誕生日である。

 下手にシチュエーションに拘るとエライ目に会う事は既に嫌というほど学習したので、世良家での開催となったのは、諸悪の根源(不本意)りんねから見ても正解であるように思う。


 というのも、家にいる時は基本的に不幸な目に合いにくいというのは経験上把握している。問題が起こるのは何時だってちょっとお出かけなんかしちゃった時なのだ。大きな事件に限らず、学園生活を地獄の鬼に支配されたりとか、部活の後輩に下着ドロさせていた女性用下着泥棒の元締めドン・ランジェリーを罪状に冤罪ギガ盛りトッピングで豚箱にぶち込んだりとか。


 まあだからってずっと家に引き篭もっている訳にもいかないし、ジンクスとして外で仕事をしなかったお陰か、無事親の扶養からは外れる事と相成った。

 エレインの様に大金持ち! って訳では間違っても無いし、学費等の費用を全部自腹切れるって程は稼げていないが、一人暮らしにあたって現段階でも仕送りなしに生活出来る程度は継続した収入を得られるようになっていた。


 しかし、冒険者をやるならば、これ以上の収入が無ければ日頃のメンテで容易く飛んでいく額だ。生活を考えるならそれらは冒険者としての収入で賄えなければとてもじゃないがやっていけない。

 例えるなら『実家ぐらしの新入社員』程度の、多少は貯金も出来て、ある程度趣味に使えるお金も出来る位の生活的余裕しかないと言う感じだ。


 これから高校生になろうって奴の金銭的自立度では無いのは確かだが、燐音は転生しているのだからもうちょいパーッと華やかな活躍があってもいいのでは無いかとも思うわけなくもない。ただ残念ながらこれは現実なので、そう思っても現実はこれが限界なのである。



 因みに、部活を引退した燐音が自堕落な生活を送れたかといえば、そんな訳は無かった。どうも、浅沙道場門下生の世良燐音です。


 流石に毎日ではない、燐音は進路に関する話を担任教師以外に全くしていないので、周囲の認識としての肩書は受験生である。本当はもうとっくの昔に特待生としての入学が許可され、進路は決まっているのに。

 もしバレたら同じくスポーツ推薦での進学が決まっているらしい鬼との『マンツーマンレッスン@地獄への片道切符』が始まってしまうのでこの事は墓まで持っていくと決めている。担任教師への口止めも万全だ。


 因みに、道場はちょっと志向の違う地獄だった。

 浅沙凛桜という女の肩書を思い出して欲しいのだが、道場において奴は、『道場の美人な娘紅一点』なのである。


 ……察しの良い人なら分かっただろうが、部活において味方だった男衆は道場に置いて完全に敵だった。鬼の味方で、鬼だった。

 奴が特に気にかける男、という肩書で道場に置かれた燐音はひたすらに孤独で、それは間違っても私物を道場のロッカーに置こうとは思えないレベルだった。

 試合をすれば大多数には勝てる。多少やる程度の輩には常勝無敗の勝率だ。だがここは名門道場だ。そんな奴ばかりな訳はなかった。

 流石にチート臭い、競い合うのも馬鹿らしいと思うような奴は師範……鬼の祖父の大鬼位だったが、テンプレな勘違いをされて当たりが強いし剣も強いし最悪だった。何だあのモンスターの群れ。


 しかも愚痴を零せる相手エレインが遠い所(物理)に行ってしまったので、フラストレーションは貯まる一方だった。デュエルしたい。

 だが今日、予定通り遊びに来るマイフレンドによってその大半は解消される事だろう、これでまた当分は生きていける。

 尚、クリスマス稽古とかいうアホな単語を作り出す輩も存在したが、燐音は普通に予定があるので断固たる意思で断った。


 今日は本来稽古日じゃないやんけ、勝手に人のバースデー兼クリスマスをダークネスに染め上げる予定を生やすんじゃぁない。俺は友達とどんちゃん騒ぐんじゃ。


 佳境に入った二度目の中学生活は燐音の感覚で言うと正直地獄で、肉体的にもそうだが前世で社会人になってからも友好関係を持っていた友人との関係が破綻したまま修繕できず、色恋的な意味での女っ気が全く無かったり、精神的にもかなり散々な結果に終わった。転生して人生やり直してるのに盛大に失敗するとかそんなんある?


 閑話休題。


 エレインからは事前に昼頃には到着するという連絡を受けていた。

 そして二時間前辺りから、メッセージアプリで『後1時間52分47秒で着くよ』『後47分12秒だ』『わたしエリーさん。今駅にいるの』『後20分33秒といったところだ』と結構な頻度のメッセージを受け、最初こそまともに返していたが終盤ではもう『ポヨー!(ゲーム版)』か『ペポーイ!(漫画版)』としか返さなくなった。

 だってなんて返していいかわからないし……。

 直近で『09:29』というメッセージが来たので、もうすぐ来るのは間違いないだろう。エレインもネタ切れ起こしてるやんけ。

 

 そしてメッセージからマジで九分二十九秒後、インターフォンが鳴る。

 十秒前に玄関で待機していた燐音は抜かり無く鳴ったと同時に扉を開いた。


「久しぶり! エリー!」

「燐音、会いたかったよ」


 抱擁で再会の喜びを分かち合い、頬を合わせる。欧米風である。

 まあ抱擁はアメリカ風で、チークキスはヨーロッパ風でどちらも反対側には戸惑うそうなので何処の挨拶だよって突っ込まれそうだが。


「長旅お疲れ様。疲れたでしょ」


「まあ日を跨がない分楽だよ。早起きも慣れてるしね」


「旅の慣れ方が違う……」


「どちらかと言うと出張慣れかな」


「十二歳の台詞じゃねぇ……」


 まあそれはいつものことなんだが。

 互いに昼食がまだということで自室ではなくリビングにエレインを通し、燐音はキッチンに立つ。今日は両親共に旅行でいないので、独身歴うん十年の中年男性の料理スキルを発揮することにした。


 ……息子の誕生日に家を空にして旅行に行く親とかおる?? と思わなかったが、旅行といっても親戚づきあいとかそんな感じのサムシングであると聞いていたし、行かないと言ったのは燐音だ。尚、前世でも同じことがあって、その時も面倒だったので行かなかった。


 夕食はエレインが用意するとの事だったし、腹ペコなのでそんなに時間を掛けずに出来るみんな大好きオムライスである。

 燐音の作るオムライスはケチャップライスではなくカレーピラフをふわとろ卵で包み込んだ上にケチャップを掛けない系のオムライスだ。


 因みに卵の焼き加減に関しては他の追随を許さないという自負を持っていたりする。それ故、ケチャップの濃いで味を塗り潰す事を是としなかったが故のカレーピラフオムライスチョイスだ。


 独身男性の変な所に凝った料理特有のクオリティ、といえば良いのだろうか。前世で社会人になっても交流のあった友人全員を実験台とし、軒並みに向こう一年は卵料理を食べたくないと言わしめる程に練習を重ねた末、燐音の得意料理は卵料理全般となったのだ。尊い犠牲だったね……。


 期間にすると二ヶ月にも及ぶ訓練。

 消費されるサウザンドエッグ。

 それに伴い目減りしていく老後貯金。

 通常、卵を見たくなくなる程に付き合ってられないと匙を投げられるのは必定であっただろうが、そこは長い付き合い故に握っていた弱みに漬け込みまくってカバーした。


 まあ現在はそんな事実は存在せず、未来永劫訪れなそうなのでノーカンである。

 今瀬ではそんな友人達(3/1)との関係が破綻してるので……。

 進路が変わったので残り(3/2)の友人達とはそもそも出会えなそうであるし……。


「てかハグして思ったけどエリーまた背が伸びた?」


 出来上がった二人前のオムライスをダイニングテーブルに持っていき、エレインの前に置きながら、燐音は着実に出来つつつある身長差に抱く嫉妬心を表に出さずそんな事を口にする。

 料理が出来る事が意外だったのか、黄金色のオムライスと燐音の顔を愕然とした表情で視線を行ったり来たりさせていたエレインはハッとしたように答えた。


「え、測ってないから分からない」


 まあ、余裕のある人はそうでしょうね(怒)。


「ちゃんと食べてる? ちゃんと運動してる? 研究ばかりで睡眠時間削ってないだろうね?」


「だ、大丈夫だとも。燐音に心配掛けない様に、その辺はちゃんとしている。メイドも雇った」


「冥土……? まあ顔色は悪くないから信じるけどホント無理したら駄目だよ」


「分かっているとも。……美味しいねコレ」


「卵の美味さは産地やない、焼き加減や」


 尚、TKG卵かけご飯等の生卵を使った物は産地と鮮度である。

 ケチャップが出て来ていない事を疑問視する事無くオムライスを口に運んだエレインはスプーンが止まらないと行った風で食べ進める。


「ばかな……これが真なる卵料理だと言うのか……!」


 滅茶苦茶大げさな感想を零すエレインに燐音は苦笑を漏らす。これは作った本人としても確信を持って言えるが、エレインは間違いなくこれより美味しい卵料理を食べている。なにせ金銭感覚が違うのだし、それに伴い金にものをいわせて美味しものを食べてきている筈で、この道うん十年とかそういう人の料理と比較してしまえば間違いなく月とスッポンだ。そもそも材料からして大安売りの卵と今朝炊いたご飯やぞ。後何処にでもあるカレー粉etc。

 故に間違いなく燐音が作ったという事で下駄を履かせている。

 まあ愛情とかは入ってるから……。


「晩ご飯はエリーが用意してくれるんだよね?」


 そういえば材料とか持ってきてないけど一緒に買いに行く系? 荷物持ちは任せてくれたまえよ。


「あぁ、期待していてくれたまえ。手配は万全だ」


「……手配?」


「行くのが駄目なら、呼べば良いのだよ。日本人ならみんな好きだと聞いたので、

SUSHI職人を手配している」


「!?」


「マグロ解体ショーもやるそうだぞ」


「それパーティプランかなんかじゃない!?」


「燐音のお誕生日パーティじゃないか」


 違う、そうじゃない。

 なんなら、プランがどうこうって話でもない。

 ていうかここ(普通の3LDKマンション)でマグロ解体すんの!? 寿司は好きだが家で食うなら出前で良いじゃん!

 変な所で律儀な燐音は善意に文句を口にすることも出来ず、口をまごまごさせた後、当たり障りのないことを口にする。


「俺はてっきりエリーが何か作ってくれるのかと思ってたよ……」


「私が!? ……その発想はなかったな」


 何でじゃ。

 というか、今日両親は帰ってこないのだが、二人でマグロ一匹食べなければいけないのだろうか?

 燐音は凄く嫌な予感がした。


「出来ないことは出来る者に任せるのが一番コストパフォーマンスが良いし、この所特に忙しくて流石に練習する時間は取れなんだな……」


「や、時間的リソースの無い辛さは俺も知る所だし、そこはしゃーないよ」


 ただその代替が極端だっただけで。


「その時間的余裕が無い筈の燐音が料理出来て私はビックリしたよ」


「出来なかったら流石に俺も買い飯で済ますかな……」


 ひょっとしてエレインは燐音が自分を練習の実験台モルモットにするとでも思ったんだろうか?

 友達にそんな酷いことする訳ないじゃん、何考えてるんだか。


 なんか料理のプロが来ることになっているそうなので、うちのキッチンを使うかはわからないが燐音は洗い物をそのままにしておく訳にも行かずちゃっちゃと洗い物を済ませ、隣のエレインに食器拭きと収納を任せ、キッチン周りを綺麗にしたり、まさか自室でやる訳にも行かないだろうからリビングの簡単な掃除を初めた。

 元々綺麗にしてあったし、友達が遊びに来ているのに何で掃除してるんだろうと思わなくもなかったが、完全な他人が来るならもうちょい気遣う必要が出てくる。

 ……せめてちょっとはパーティ会場っぽくした方が良いのだろうか?


 尚、量の不安は解決不能である。

 家に呼べるほど親しい友達がエレインしかいないので……。


 タッパー持ち帰り有りなら冷蔵庫がマグロで埋め尽くされる事になるな。完全に偶然だが冷蔵庫の中は殆ど空っぽだったのでサイズにもよるがギリギリ入りそうではある。

 保冷剤とか腐らない系の住人は必要になったら出してクーラーボックスにでもぶち込めばいいだろう。




「……そうだ、誕生日プレゼントを先に渡そう」


「え? 寿司じゃないの?」


「パーティ料理がプレゼントに含まれる訳無いだろう……」


 なんか常識ないなこいつ、みたいなニュアンスが感じられるんですけど!

 やれやれと首を振るエレインに燐音は『誠に遺憾です』という視線を向けるも無視された。怖くて値段とか聞けないけれど、プライス的には間違いなくプレゼント相当だと思うのだが。


 兎も角、エレイン的には別らしく、縦長の化粧箱を手渡される。この時点で高そう。サイズに対して随分重い。


「ありがとう。……開けてみていい?」


「勿論だ。大したものじゃないので、緊張する必要はないぞ」


 エレインの金銭感覚はまるで信用ならなかったが、まさか受取拒否する訳にもいかない。恐る恐る上箱を取った。


「……? ……エレイン色のトロフィー?」


 それは白金色のトロフィーだった。

 『あんたが優勝』っていうのを物質化したあれである。

 ホムセンとかで数千円で作れるような安っぽいものではなく、音楽コンクールとかで貰えそうなデザイン性に富んだ金属製のそれは、まさか文鎮というわけでもあるまいし、それ以外の何かには見えなかった。

 なんでトロフィー? 生きてるだけでめっちゃエライねって事?


「あ、前後逆か」


 普通『何々記念』とか書かれているものじゃないの? とか思って首を傾げていたが、テキストプレートらしき造形が逆さまになっていた。


『エレイン・フォン・シュタイン父親検定 最優秀者 世良 燐音 殿』


 ひっくり返したトロフィーには、そう書かれていた。


「……エリー?」


「賞状もあるぞ」


 違う、そうじゃない。


「違う、そうじゃない」


「うんまあ、知ってた」


 受験した覚えのない検定で最優秀者に選ばれた。

 そもそも検定なら段とか級では? とかそういうツッコミも口からでてこない程度には困惑していた。


「これ、持ってたらどうなるの?」


「可愛げのない娘が出来る。だがその娘が死ねば莫大な遺産が転がり込むぞ」


「親より先に死ぬ予定を立てるとか娘失格だろ。出直してこい」


 とはいえ、よもやよもやである。

 実のところ、エレインが自分に何を求めているのかは、燐音からするとわかり易すぎて考えるまでもない事だったりした。出会ってから半年位の時既に。


「講習最終日に言ってたお願いしたい事って……」


「うん、まあそういうことなんだ」


 家庭環境が冷え切っているんだろうことは、何でも無い事に大げさなまでに喜ぶ姿から察せられたし、そもそも十歳位の女の子から、愚痴にせよ自慢にせよ、親の話が一回も出てこないなんてそれだけで何かはあると察して然るべきだ。


 エレインは、燐音に理想の父親を見ていた。

 早くに亡くなったのか、毒親であるのか。


 流石に事情を聞かずにそこまで推測するのは難しいが、少なくとも彼女が天才であると世に認められている時点で生活的困窮は無い事から後者であるような気がする。

 キャリアが特殊過ぎるから、飛び級したという大学やなんかの学費免除とかはされていないだろうし、目先のことではなく先を見据えた目標をを持つのは『失った者』ではなく、『初めから持っていない者』の精神構造であるように思う。


 まあ、燐音はその辺を問うつもりは無かった。

 何故ならそれ昔話は今後の行動を決める選考基準足り得ないから。

 エレインにとっては行動原理の根底であるのかも知れないが、燐音が見るべきは顔も知らない赤の他人では無く、目の前の少女なのだから。


 取り敢えず、片手間にする話でもないので横並びでソファに腰掛ける。

 普通こういう話しをするなら対面じゃね? と思ったが女の子が横に座って来たのに対面に座り直すのは『貴女が嫌いなので近寄らないで下さい』のサインになるので諦める。



「……因みに、エリーの選考基準って何だったの?」


 分かっていた、と言っても燐音はわざわざ口に出さないごっこ遊びの延長線であるように考えていた。


 寂しい時間があった。

 気の合う友達が出来て、その寂しさをそいつで埋めようとした。


 それは全然構わないと思う。

 だけどそうじゃないとこの金属の塊が言っている。

 貴方を父と呼ばせて欲しい。

 間違いなくおかしな事を言っている。それでも言わずにはいられないから、形にして贈ります。二重の意味でクソ重てぇ恋文。

 破り捨てられる程、この友情は薄くない。


「色々あるよ。気が合うとか、優しいだとか、一緒に笑えるだとか、仕事に理解があるだとか、私より背が高いとか」


「おいゴラ、最後で選考漏れしてんぞ」


 話し打ち切ってやろうかオォン?


「抱っことか、肩車をして欲しかったんだ。私より小さくても軽々抱き上げられて、基準は改定されたよ」


「なら口に出す必要ねーだろ」


「そう、無いんだ」


「?」


 無い?


「家族というものに理想を描いていた。父親はこうあって欲しい、母親はこう斯く在れかし。無い物ねだりで、実情を知らない者の夢想。燐音は私の想像なんて塵屑だった。選考基準は燐音に合わせて改定され続けるクソレギュレーションになった」


「……」


 だから無い、か。


「きっかけと言うなら、やはり最初に誕生日を祝って貰った時だろうか。私はあの時生まれたんじゃないかと錯覚したよ。現在2歳だな」


「その位の子なら俺が親でも生物学上おかしくはないな」


「……? 単一生殖は人類には不可能だよ?」


「え、何でちょくちょく煽ってくるの?」


 単一生殖は人類には不可能相手もいないのにどうやって?とか知ってるわ!  喧嘩売ってんのか! その理屈で言うならプラチナブロンドのフランス人形がコケシの子供っていうのもおかしいだろ! ……誰がコケシだ!


「本当なら母親とか、兄とかも欲しかったんだけど……全部燐音でカバー出来そうだし」


「横着すんなし」


 兄は兎も角母親は嫌ザマス。


「冗談だよ、でも燐音だけで良いって思ったのは本当」


「……」


「燐音が欲しい。死がふたりを分かつまで、ずっと一緒にいておくれ」


 愛の告白ではない、と。

 まあ分類的には近いものだろう、究極的にはあれも『家族が欲しい』というアピールではあるのだし。


 因みにだが、燐音にお茶を濁すつもりとかは欠片もない。

 是か非かの二択である。


 自分が変なことを言っている自覚があるから、エレインでさえ言うことを決意するのにここまで掛かっている。本当であれば、この願いは十代に入る前の少女のものであるだろうから。


 なんだかんだ言いながら、選考は入念に行われている。

 燐音以外の候補もいたんだろうし、なんなら諦めるっていう選択肢もエレインにはあった。いや、もう少し成熟していれば今までのごっこ遊びで満足し、その選択肢を選んでいただろう。


「……現状、俺に親が背負うべき金銭的な甲斐性は無い」


「必要ないが、不要な要素ではないのは分かっている。だが元より一般的とは言い難いのだし、そこは私に甘えてくれてもいいと思うんだ」


「俺が親になるなら、運動は推奨じゃなくて義務。健康的な生活で体を大事にしてほしい」


「それは……まあ頑張るよ」


「後、むっちゃ甘やかす。怒るのとか得意じゃないから怒られるような事はしないで欲しい」


「可愛気がない分、良い子にするとも」


 可愛気がない、には後で異を唱えるとして……。


「法的な養子縁組は俺が成人しないと無理なので十八歳になってから」


「……そう言うって事は、三年後の今日、籍を入れに行ってくれるのかい?」


 籍を入れるのは結婚じゃね?

 燐音はエレインと目を合わせる。

 距離が近いので表情から不安が丸分かりで、軽い気持ちで言っていないのは明らかだ。そして燐音は燐音で、それなりの心構えをしてエレインと接してきた。

 孤独で泣いてる子供をあやすのは大人の義務だ。


 それに前世では結婚と縁遠い生活をしてきたから燐音にもそういう関係性に憧れがあるのだ。

 故に、エレインの気持ちは、別に一方通行ではない。


「親愛なるエレイン。俺の事は父さんと呼ぶように」


 燐音だって、エレインを娘のように可愛く思っている。


「最愛の父よ、ぜ、絶対に幸せにするから……どうか、私を愛して欲しい」


 燐音は決壊したように泣き出してしまった我が子を優しく抱きしめた。




 この日から半年もしない内に、学生兼冒険者見習い兼バツ無し子持ちの父親(15)の冒険が始まる。



――――――

【あとがき】


 尚、以降しばらく世良家の献立は三食マグロだった。(描写されないSUSHI)


 難産でございました……エレイン親子ENDです。オチって難しい。

 実はエレインが燐音におぎゃりたいのを匂わせるような描写はこれまでしてきたつもりでした(ネタじゃなかったんやで)。

 これで序章は終わりです。

 次からいよいよ物語の舞台へ進出します。我が中二病を開放する時が来た……!



 後、白雲糸さんにレビュー頂きました!ありがとうございます!

 そのお陰か見てくださる方が一気に増えて(当社比)嬉しいです! 執筆速度もブーストしました(止まっていた筆が進んだ)!

 今後も頑張っていきますので続きを読みたいと思って下さった方は、星とか応援とか感想とかで是非是非評価お願いします!


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