第10話 死亡フラグの発明

1.すべては戦争から始まった

 シリアスなドラマを、さらにドラマチックに演出する死亡フラグですが、1986年に公開されたオリバーストーン監督によるベトナム戦争の悲惨さを描いた作品「プラトーン」が、死亡フラグが登場した初作品と言われいます。


 ベトナムで戦う一人の若いアメリカ人兵士が「俺、この戦争が終わったら、この娘と結婚するんだ」と言った直後に、悲惨な戦死を遂げます。視聴者に幸せな展開を予想させた後にどん底に落とすことで、戦争の悲惨さを何倍にもして伝えるこの斬新な演出手法を見出すとは、さすが名監督のオリバーストーンです。


 以後、アメリカの戦争映画では、バリエーションを変えながら死亡フラグ描写が定番となります。


2.死亡フラグの例

 日本のエンタメ作品で死亡フラグがよく使われるのは、皆殺しの富野と呼ばれる富野由悠季作品やガンダムシリーズです。


 1979年放送の機動戦士ガンダムに出てくるスレッガー中尉が、ミライに母親の形見の指輪を渡してキスするシーンは、まさに死亡フラグのお手本です。


 しかし、現在では死亡フラグも多用されすぎて、逆に陳腐化してしまうことも多いです。以下のようなセリフが出てくると、「あ、このキャラ死ぬな」とわかってしまい、その後死んでも「やっぱり死んだか」と思ってしまいます。しかし、そう思うのは死亡フラグ作品を多数見ているからであって、死亡フラグの存在そのものを知らない人にとっては、感情を揺さぶる演出であることには間違いありません。


「私、アイスクリーム食べたことない」「戦争が終わったら、一緒に食べましょう」

「俺、戦争が終わったら実家を継ぐことにする」

「圧倒的じゃないか、我が軍は」


 また、「ここは俺に任せろ」も死亡フラグの定番です。レギュラーメンバーの場合は物語終盤のクライマックスで、準レギュラーやちょい役の場合は物語序盤から中盤で死ぬのがお約束です。


 しかし、人気のあるキャラの場合は、後付けで理由を付けて復活するケースも多々あります(ハリウッド作品はほぼ確実に死にますが、少年ジャンプ作品は生き延びる確率が高い)。自分のお気に入りが死んでしまった場合は、制作元に抗議しましょう。読者や視聴者の声には、強い力があります。


 バリエーションとして、死んだ人間の双子の兄弟(最近だとクローンも)がいきなり現れて代役になるケースもあります(1987年公開「男たちの挽歌II」や「ガンダム00」など)。


3.死亡フラグの進化

 陳腐化を防ぐために、思わせぶりな台詞に頼らない死亡フラグも増えています。


 部隊で最強なメンバーが初戦でやられるパターン(1996「エグゼクティブ・デシジョン」、2002「バイオハザード 」)や、間一髪ギリギリで敵を倒して安堵した直後や、恋人や家族と一緒にいる幸せ描写のあとが、特に危険な瞬間となります。


 昨年大ヒットした鬼滅の刃では、家族団らんの幸せな風景を描いた後に、両親、弟三人、妹一人が殺され、ただ一人生き残った妹も鬼になるという壮絶なオープニングで始まりました。一人ぐらいは殺されるだろうと思っても、読者の想像を遥かに超える惨劇です。


 逆に死亡フラグを立てながら、死なないというパターンもあります。


 1985年から連載が始まった「魁!!男塾」では、死亡フラグを逆手にとって、死んだと思わせて復活するという展開を、これでもかと執拗に繰り返しました。


 2007年に放映された「ガンダム00」に登場するパトリック・コーラサワー(不死身のコーラサワー)も、すぐに死ぬだろうという視聴者の予想を裏切って、テレビ版の1stシーズン、2ndシーズンだけでなく、劇場版でもしぶとく生き残りました。

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