第4話 主人公覚醒の発明
1.ニュータイプの出現
絶体絶命のピンチでの逆転劇はヒーロー作品につきものですが、敵が強ければ強いほど、逆転するのは難しくなります。
スポーツ作品では、一度負けて、修行をして強くなって逆転するというパターンが多いですが、ヒーロー作品では主人公が負けると世界が滅びてしまうケースもあるため、そう簡単に負けるわけにはいきません。どうにかして、その場で逆転する必要があります。
助っ人が来る(マジンガーZ最終回)や、敵が自滅する(タイムボカンシリーズ)などが古くからありましたが、これらのマンネリ化を打破するために素晴らしい発明をしたのが、1979年公開の「機動戦士ガンダム」です。
主人公が「ニュータイプ」に覚醒することでモビルスーツの操縦能力が飛躍的に上がり、強敵を次々と倒していきます。そもそも、「ニュータイプ」とは何なのか? 超能力者なのか? それは誰にも分りません。「宇宙時代に即した新しい人類の形」で誤魔化していますが、ようするに「短期間でめちゃくちゃ強くなる人」のことです。
「機動戦士ガンダム」では、アムロがニュータイプ能力を発揮すると「シャキーン」という効果音が流れて、それがわかります。いわゆる「火事場の馬鹿力」なのですが、この「短期間(瞬時)でめちゃくちゃ強くなる(=主人公覚醒)」と「主人公が強くなったことをわかりやすく伝える演出(=主人公覚醒演出)」のセットが、「機動戦士ガンダム」が生み出した大発明です。
1979年から始まる「キン肉マン」では、主人公がピンチになるとスバリ「火事場のくそ力」を発揮して大逆転します。
この精神的な「火事場の馬鹿力」的なものに、もっともらしい(?)説明を付けて視聴者に納得させ、さらに演出で視覚的にもわかりやすくしたことが、「ニュータイプ」という概念を成功に導いたと言えるでしょう。
パワーアップアイテムによるパワーアップが外からのパワーアップだとすると、覚醒によるパワーアップは内からのパワーアップ(メンタル的なもの)となります。
2.覚醒のパターン
覚醒時には視覚的な変化がありますが、実際に主人公の肉体に変化がある(変身の一種)ものと、あくまでの演出で主人公の肉体には物理的に変化がないものに分かれます。
また、最近の覚醒の特徴として「パワーアップ時の視覚的な変化」がどんどん派手になり、パワーアップ以前と以後が明確に区別できるようになっています。
スポーツ作品でも、ヒーロー作品で培われた演出をフィードバックして、強さを可視化できるようにした作品も現れています。
◇北斗の拳(1983年)
北斗神拳究極奥義「無想転生」を使うと、相手の攻撃が全てすり抜ける。
◇ドラゴンボール(1984年)
スーパーサイヤ人、スーパーサイヤ人2,スーパーサイヤ人3.スーパーサイヤ人ゴッドなど。髪型が変わってオーラを帯びる。
◇聖闘士星矢(1984年)
小宇宙(聖闘士が持つ戦いのエネルギー)を爆発させると、まとっているブロンズクロスが黄金色に輝く。(小宇宙を爆発させると、他にもいろいろできます)
◇テニスの王子様(1999年)
無我の境地に目覚めると、体からオーラが出て煙をまとう(テニス漫画です!)。
◇ガンダムシード(2002年)
ピンチになると種が割れるアニメーションがカットインされ、主人公の瞳のハイライトの色が変わって、SEED(宇宙世紀シリーズのニュータイム能力にあたる)が発動する。
◇黒子のバスケ(2009年)
ゾーンに入ると目からイナズマが出る(バスケ漫画です!)。
◇鬼滅の刃(2016年)
日の呼吸に目覚める。体に痣が出るとパワーアップする。
覚醒によるパワーアップか、パワーアイテムによるパワーアップかは、スポンサーの意向が大きいように思えます。漫画は覚醒、特撮ヒーローはパワーアップアイテムによるパワーアップが多いように感じます。
覚醒すると、だいたい10倍ぐらいまで瞬時に強くなりますが、やりすぎるとりアリティが無くなるので、さじ加減が重要です。
3.主人公機の覚醒
人間でなく、人間が搭乗する「機体が覚醒する」ケースもあります。機械の「火事場の馬鹿力」ってなんだ!というツッコミがありそうですが、パイロットの安全を守るリミッターを解除したり、エネルギーを大量消費することで一時的にパワーアップします。
なお、燃料の大量消費による速度アップは実際に超音速戦闘機で「アフターバーナー」と呼ばれる装置によって実現しています。F15の場合、アフターバーナー使用時には最高速度マッハ2.3で飛行できますが、燃料消費量が通常飛行の10倍になります。
主人公機の覚醒が初めて登場したのは、1985年放送の「蒼き流星SPTレイズナー」だと思われます。主人公レイジの乗る機体「レイズナー」がピンチの時、機体を制御するAIの人格が代わってリミッターを解除し、V-MAXを発動させます。通常よりも3.57倍の起動速度となり、バリアーを纏います。
主人公機が覚醒すると、多くの場合機体の色が変わったり、オーラを纏って光り輝きます。
1985年 蒼き流星SPTレイズナー V-MAX(通常の3.57倍)
1994年 マクロスプラス ハイ・マニューバ・モード
1995年 新機動戦記ガンダムW ゼロシステム(敵の動きを先読みする)
2007年 機動戦士ガンダム00 トランザム(通常の3倍)
2009年 ヱヴァンゲリヲン新劇場版・破 EVA弐号機ビーストモード(変形する)
最近のエンタメ作品では、絶体絶命のピンチでどうやっても脱出できないだろうという不可能シチュエーションでは、たいていの場合覚醒します(私も自作で覚醒させました)。いかにかっこよく、かつ、リアリティを持って覚醒させるかが作家の腕の見せ所です。
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