第8話 必殺技の発明
1.必殺剣
必ず殺す技、略して必殺技。なぜ必殺技で必ず止めを刺せるのか? それは通常技よりも遥かに強い技であるとともに、あらかじめ通常技で敵を弱らせているからです。通常技で弱らせる前に、必殺技を使うと不発に終わることも多々あります。
現代では、ヒーローが必殺技の名前を叫んで、必殺技を出すのがお約束となっていますが、必殺技の元祖は宮本武蔵と決闘した佐々木小次郎の「燕返し」だと言われています。
但し、○○流という流派はそれ以前にもあったので、「燕返し」も技の名前なのか流派なのか微妙ですし、決闘時に「燕返し!」と技の名前を叫ぶことは無かったでしょう。(技名を叫んだら、その隙にやられてしまう)
エンタメ的な意味での「非現実的な必殺技」が日本で登場するのは、戦後の1956年に週刊誌連載された「眠狂四郎」の「円月殺法」だと思われます。なぜ、剣を円を描くように回すと強いのか意味不明な所も必殺技の典型です。
1955年に金庸も香港で武侠小説を書き始め、1958年には山田風太郎が「甲賀忍法帖」を発表するので、ここら辺が「非現実的な必殺技」の黎明期だと思われます。
2.必殺技の名前を叫ぶ
戦後、プロレスラーの力道山の空手チョップが必殺技として日本中に広まりましたが、あくまでもアナウンサーが「空手チョップ」を連呼しているだけで、力道山が「空手チョップ!」と叫んでいたわけではありません。
主人公が技名を叫びながら出すようになったのが、どの作品からなのか詳細は不明なのですが、テレビアニメがきっかけという説が有力です。
鉄腕アトムの「100万馬力だ!」というセリフが、はたして必殺技かというと微妙ですが、マジンガーZでは「光子力ビーーーム」「ロケットパーーンチ」と技名を叫んでいるので、アニメの黎明期に叫び始めたのではないかと思われます。また、アメコミ作品では必殺技というものが出てこないので、日本のアニメが発祥だと思われます。
3.必殺技エフェクトの発明
今では、必殺技を出すとド派手な視覚的演出があるのが当たり前ですが、必殺技にエフェクトがかかるのは、1977年に少年ジャンプで連載が始まった「リングにかけろ」が発端かと思われます。それ以前の、例えば、グレートマジンガーのサンダーブレークでは雷のエフェクトが入りますが、単なる演出ではなく実際に雷が落ちてエネルギーとして敵にぶつけます。
「リングにかけろ」はボクシング漫画なのですが必殺技があり、「ギャラクティカマグナム!」と叫んで右ストレートを放つと、見開き一面の巨大なコマの背景に流星群が現れ敵がリングの外に吹っ飛びます(繰り返しますがボクシング漫画です)。この時の流星群は、実際に空から流星が降ってくるわけではなく、「まるで流星が降ってくるかのような」右ストレートの強さを表す「演出」です。
「リングにかけろ」は他にもいろいろな必殺パンチがあり、「技の名前を叫ぶと、技の威力を表すその技特有の背景と効果音が現れて、敵が吹っ飛ぶ」という様式美(車田飛び)を確立しました。当初は技の説明がありましたが(パンチに凄い回転がかかっている、0.1秒の間に5発撃つ、真空波を飛ばす等)、必殺パンチが増えるにつれてだんだんと端折られ、途中からは技名を叫ぶだけになります。
集英社が自社ビルを建てることができるほど「リングにかけろ」は大ヒットし、「リングにかけろ」の必殺技表現は、漫画だけでなくアニメや特撮など以後の作品に多大な影響を与えています。
昨年大ヒットした「鬼滅の刃」でも、主人公が水の呼吸を使うと空中に水の映像が現れます。そして、日の神かぐらを使うと、太陽のプロミネンスのような炎が画面いっぱいを駆け回る素晴らしい映像美を堪能できます。なお、設定によると呼吸法を使う達人が技を使うと、動きがあまりに見事なため周りにいる人には実際に水があるかのような幻覚が見えますが、下級の剣士が呼吸法を使っても幻覚は出現しないとのことなので、単なるエフェクト以上のものがあるようです。
不思議なことに海外作品では必殺技がない作品が多く、ラストバトルも普通のパンチやキックであっけなく終わることが多いです。ハリウッドクオリティで必殺技の映像美が見られないことが残念です。
4.合体必殺技の発明
一人では倒せない相手を味方の力を使って倒す。ヒーローものの熱い展開ですが、単にチームワークでの勝利ではなく、複数人が集まって初めて出せる必殺技が合体必殺技です。
合体必殺技の元祖と言えば、1975年に放映された「秘密戦隊ゴレンジャー」でゴレンジャーが使う「ゴレンジャーストーム/ゴレンジャーハリケーン」でしょうか。モモレンジャーの用意するボールを、他のメンバーが順番にキックしていくと最後に爆弾となって敵を倒します。5人いなくてもよいのでは、最初から爆弾出せばいいんではというツッコミができてしまうのは、必殺技黎明期故の詰めの甘さなのかもしれません。
1971年の仮面ライダーにおける、ライダー1号、2号が同時にライダーキックを放つ、ダブルライダーキックが元祖という説もありますが、ライダーキック自体が単体技であり、かつ、二人でキックしても威力が1+1=2になっているだけなので、合体必殺技というよりはコンビネーション技なのではないかと思います。
合体必殺技は以後いろいろな作品で使われていますが、今一番ど派手なのがプリキュアシリーズの合体必殺技です。YouTubeにはプリキュアシリーズの合体必殺技を集めた動画も上がっているので、一度ご覧になるとゴレンジャーストームから始まった合体必殺技の進歩の凄さがわかるかと思います(フレッシュプリキュアの「ラッキークローバーグランドフィナーレ」は、「ゴレンジャーハリケーン」をリスペクトしています)。
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