第21pedia 家鳴り

「そろそろ寝ないといけませんね。さすがに遅くまでやりすぎました。」

「あっ、もうこんな時間!寝る準備しないとねー!」


時間は午前2時。

2人でゲームに没頭しており、寝るタイミングを逃してしまっていた様子。


「昨日は風がうるさくてなかなか寝付けませんでしたが、今日は静かですし、よく眠れそうですね。」


眠たそうに伸びをしながらよみはそう言う。

まだ眠くなさそうな知依ちよは、こたつでスマホをいじりながら「そだねー」と返事をした。

その時、家の隅の方から「バキッ」と大きな音が鳴った。


「ヒッ」


知依ちよは驚いてスマホを落とし、音の鳴った方向を凝視している。


「もう時間も遅いですし、そろそろ…出てくる時間ですかね。」

「や、やめてよそういうの!!」


よみはこたつに入り込み、いつもの本を開きながら「知依ちよさんはご存じですか?」と言った。

タイミングよく、部屋の電気が消え、真っ暗な部屋には、タブレットの明かりで真下から照らされた、よみの顔が浮かび上がる。


「日本には『家鳴やなり』という怪異が存在しておりまして、何もしていないのに、家や家具が動き出す現象があるそうです。いわゆる、ポルターガイストと呼ばれるものですね。」


よみはそう言いながら、知依ちよの顔を見つめ、不敵な笑みを浮かべる。

知依ちよは息をするのも忘れ、絶望した表情をしている。


「…というのは本当の話ですが、今のはただの『家鳴いえなり』でしょう。」


よみがそう言うと、部屋の電気がついた。

知依ちよがこたつに突っ伏すように倒れこむ。


「あー…怖かったよー…。でもすごいタイミングで電気消えちゃったねー。」

「あ、電気は私がアプリで操作しました。便利な世の中ですよね。」


知依ちよが呆然としていると、よみはタブレットを操作し、電気を様々な色、明るさに調整し始めた。

ミラーボールのようにもなるらしい。まるでゲーミング電気。


「…すみません。あまりにも怖がってくださるので、つい楽しくなってしまって。」

よみちゃんが楽しいならいいけどー…。家鳴するって、この家、いわくつきだったりするの…?」

「あ、そこは大丈夫です。そもそも家鳴は、気温や湿度の変化によって、建材の収縮が起きた際や、建材の劣化が主な原因です。あとは地盤が緩かったり、風や地震が原因の自然のものですかね。」

「ほえー。じゃあ今ので、この家が縮んじゃったってこと?」

「その考えだといつか圧死しそうですね…。さすがに目に見えるほど縮んだりはしません。木造の場合は、木材が水分を含んで膨張することもありますので、建材の状態の変化によって起きる、というのが正しいかもしれませんね。」


知依ちよは「そうなんだー」といった後、少し引っかかるような表情で、何かを考えている。


「どうかされましたか?」

「や、さっきよみちゃん、『木造の場合は』って言ってたから、他何かあるかなって思ったんだけど――藁とかレンガでも家鳴するの?」

「童話の世界ですか…?一般的には木造か鉄筋コンクリートかと思われますが…。」

「あっ…そうだよね!で、鉄筋コンクリートも縮むの?あんなに硬いのに?」

「そうですね。コンクリートがもともと水分を含んでいるので、乾燥して収縮することがありますし、もっと言うと、鉄骨なども乾燥ではなく、温度によって収縮することもあります。」

「ほえー。自然の力ってスゴイなー。」


少し話をしていると眠くなってきたのか、知依ちよがぐーっと伸びをした。


「話し込みすぎましたね。そろそろ寝ますか。」


よみがそう言ったとき、またまた「バキッ」と家鳴がした。

知依ちよが跳ねるように驚き、こう言った。


「えーと…やっぱり怖いから、もうちょっとお話しない?」


よみは「仕方ないですね」と優しく微笑み、話をつづけた。


「せっかくですから、家鳴についてもう少し。先ほど、『いわくつきの家が――』というお話がありましたが、実は建材が馴染んでいない新築の方が、家鳴は多かったりします。あとは深夜帯、外と部屋の温度や湿度差が激しいと起きやすかったり――」


その日は2人して、いつもより少しだけ夜更かしをしたそうだ。

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