第19pedia 七草粥

「突然ですが、今日は何の日でしょうか?」


エプロンをしたよみが、珍しく目にやる気を宿している。


「1月7日!よみちゃんの誕生日だね!」

「ちが…わないけど違います。七草粥を食べる日です。」


拍手をしている知依ちよの手が止まる。


「七草粥って聞いたことあるけど、食べたことないね!」

「実は私もそうなんです。そこで、正月食べ過ぎた知依ちよさんのためにも、今年は作ってみようかと思いまして。管理人さんから材料もいただきましたし。」

「わーい!でも、どうして1月7日は七草粥を食べる日なの?正月に酷使したお腹を労わるなら、1月4日の方がいいんじゃないの?」

「それは、以前、おせちのお話の際に出てきた『五節句ごせっく』が関係しているのですが――起源は何なんでしょうね…。」


首をかしげながら考え込むよみを見て、知依ちよは唱えた。


「調べて!ヨミpedia!」


それを聞いたよみは「久々のまともなタイトル回収…!」と呟きながら、いつもの本を使い、検索を始めた。

その間に知依ちよは、食材の準備をしている。

今回はすぐに調べられた様子で、よみはぱたんと本を閉じ、手を洗い始めた。


「あまり難しいお話でもないので、作りながら話しましょうか。まずは――そうですね、せっかくなので七草のお話でも。知依ちよさんはこの七草の名前、全部ご存じですか?」


よみはキッチンに並べられた七草を見ながらそう言った。

知依ちよは自慢げに答える。


「わかるよ!せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろ!」

「どれがどれですか?」

「わかりません!」

「正直でよろしい。実際、すずなとすずしろ以外は葉っぱですし、分かりづらいですね。ちなみにすずなは蕪で、すずしろは大根です。」

「ほえー。じゃあまずはすずなとすずしろをした処理するね!」

「お願いします。この七草についてもう少し補足すると、七草粥に使われる七草は『春の七草』と呼ばれておりまして、他にも四季それぞれの七草や、地域によっては海の七草などもあったりするそうです。」


知依ちよは「そうなんだー」と言いながら、すずなとすずしろの茎を切り、4等分にし、さらに薄切りにしている。

よみは隣で2つの鍋に水を張り、火にかけながら続けた。


「で、『どうして1月7日に七草粥を食べるのか』でしたよね。」

「そうそう!1月7日の節句って『人日じんじつの節句』だっけ?」


知依ちよがした下処理したすずなとすずしろ、その他5種類をそれぞれ別の鍋に入れながら言った。


「よく覚えてましたね。七草粥の起源は、紀元前の中国の風習になります。元は『七種菜羹ななしゅさいのかん』という、七種類の野菜を入れた汁物を食べ、無病息災を祈願していたそうなのですが、日本に伝わった際に、古くから日本の正月に行われていた、『若草摘み』という風習と結びつき、現在の七草粥になったそうです。」

「ほえー。もとはお粥じゃなかったんだね!」


知依ちよは葉物が入った鍋をざるにあげ、水気を絞り、みじん切りにし始めた。

よみは空いた調理器具を洗い始める。


「元々は『正月で疲れた胃を休めるため――』っていう感じじゃなかったんだね?」

「そうみたいですね。そもそも、使われている春の七草が、『日本のハーブ』と称されているような健康に良いものですし、お正月に不足しがちなビタミン類を補える、かつお粥なので消化にも良いという点では、理にかなっているので、後付けだったとしても理論的には正しいと思われます。」

「健康にいいし、おいしそうだし、いくら食べても大丈夫だね!」


知依ちよは、土鍋に炊いてあった米に、塩と七草を加え、混ぜながらそう言った。

よみは出来上がった七草粥を見ながら、続けた。


「確かに、健康に良さそうな見た目してますが、食べ過ぎないようにしましょうね。胃を休めるためでもあるんですから。」

「善処します!」


知依ちよはそう言いながら、ミトンを装備し、土鍋をこたつへ運んだ。

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