第17pedia 正月ボケ

「おはようございます。…ってあれ、そんなところで寝てたら風邪ひきますよ?」


こたつで寝転がっている知依ちよを、よみが諭す。

が、知依ちよは一向に動く気配がない。


「朝ごはん食べます?」

「食べる!」


知依ちよは食べ物につられて飛び起きた。

よみは正月の残りの餅を焼く準備をしながら続けた。


知依ちよさんの元気がなさそうなのは珍しいですね。風邪でもひきましたか?」

「うーん…熱とかじゃないんだけど、常にぼーっとするようなだるいような。でもごはんとかお菓子はいくらでも食べられるから、元気なのは元気なんだけどー…。」


よみは餅を焼きながら、思いついたことがあったようで、知依ちよに尋ねた。


「昨日は何時に寝ましたか?」

「んーと…3時くらい?スマホ触ってたらいつの間にか寝てたからー…」

「今日何時に起きました?」

「さっきだから、10時?」

「昼過ぎてないだけましだとは思いますが――年末から夜更かししてますよね?」

「あー…確かに!」


よみは焼いた餅をこたつに運び、席に着き、続けた。


「正月ボケでしょう。生活リズムの乱れと過食によってよく起こると聞きますし。過食は普段からのような気もしますが。」

「ボケたくない…何とか解消法を…」

「もうボケてると思いますけど。生活を正す以外に解消法ってあるんですかね?ちょっと調べてみますね。」


知依ちよは、ぐーっと伸びをし、お茶を一口飲んでから、気怠そうに言った。


「調べて…ヨミpedia…」

「しんどいなら、言わなくていいのでは…」


よみは小言を言いつつ、いつもの本を開き、調べ始めた。

その間に知依ちよは餅をモリモリ食べている。


「何かわかった?」

「はい。ちょっと元気になりましたね。」

「お餅おいしい!」

「それはよかったです。」


よみは少し安心した様子で一息つき、説明を始めた。


「まず、解消法より、来年はひどくならないように、原因を知っておくといいと思いますので、今から話すことを、頭の隅にでも置いておいてください。」

「はい!」

「原因といってもいくつかあるのですが、『生活リズムの乱れ』『食生活の乱れ』が主な要因です。あとは普段しないこと、普段と異なる、慣れない環境で過ごすことで、思いのほか疲れが溜まっていることが原因だそうです。あ、あと太ると新陳代謝が落ちるので、それも要因かもしれませんね。」

「ふとっ…太ってはないよ!!」

知依ちよさんは、いくら食べても太りませんもんねー。」


知依ちよは否定しつつも、お腹をつまみ、少し気にする様子を見せる。

よみは引き続き、解消法の話を始めた。


「解消法についてですが、少し考えればわかるようなことしかヒットしないですね。当たり前だと思うかと思われますが、効果はあると思いますので、では説明しますね。」

「お願いします!」

「まず、早寝早起きです。生活リズム戻しましょうというお話ですね。それに加えて、朝起きたらまず日の光を浴びましょう。」

「光合成?」

知依ちよさんは光合成できるんです?なかなか便利な体をお持ちで…ではなくて、日の光を浴びると、セロトニンという物質が生成されます。このセロトニンは精神安定や、生活リズム、睡眠、体温調節など、様々な生理機能にかかわっています。今回のお話では、『生活リズム』と『睡眠』に深く関わってきます。詳細を話すと難しくなりそうですが…聞きます?」


知依ちよは少し考えた後に、こう答えた。


「難しいのは苦手だけど、原理を知ってた方が、気持ち的に効果が上がりそうな気がするというか、そんな感じがするから聞いておきたい!」

「なんとなく言わんとしていることはわかります。わからないところがあれば、都度、聞いてくださいね。」

「はい!」


「まず、『生活リズム』についてですが、知依ちよさんは、『概日リズム』という言葉はご存じですか?」

「がいじつ…?」

「おそらく、授業で耳にしたことがあるのではないかと思うのですが――『サーカディアンリズム』の方が馴染みがありますか?」

「あ、それは知ってる!意味は知らない!」

「そんなに自慢げに言わなくても…。いわゆる『体内時計』ですね。これが困ったことに、約25時間周期で動いています。」


知依ちよは首をかしげながら、質問する。


「あれ?毎日1時間ずつずれちゃうじゃん!」

「そうですね。ですが、この体内時計は明暗の刺激によって、ある程度修正されるそうです。」

「それがさっきの光合成か!」

「光合成…ではないですが、先ほどお話しした、日の光を浴びることによって生成される『セロトニン』によって修正されます。」

「ほえー。あ、じゃあ寝る前にスマホ見ると眠れなくなるっていうのも同じ?」

「同じ感じですね。もう少し詳しくお話しすると、睡眠の質には、セロトニンから変換される『メラトニン』という物質に関わってまして、このメラトニンは、網膜に光を受けると、生成が阻害されてしまうそうです。なので、寝る前にスマホを触っていると、睡眠障害を起こしたり、眠りが浅くなったりするそうです。あと、メラトニンの量は日中に生成されたセロトニンの量に依存しますので、日中に日の光を浴びておくと、睡眠の質が良くなるそうです。」


それを聞いた知依ちよは、何やらスマホをいじり始めた。

それから、よみにスマホを突きつけ、こういった。


「ナイトモード!!」

「…とか画面暗くすると多少はましでしょうけど、一番なのは寝る前は控えることですね。難しいでしょうけど。」


知依ちよは「デスヨネ…」と言いながらしょんぼりしている。

よみは、どこまで話したかを少し考え、思い出した様子で話を続けた。


「解消法の話に戻りますが、あとは規則正しく、バランスの取れた食生活と、エクササイズですかね。特につきたての脂肪は落ちやすいそうなので、エクササイズは早いうちに始めるといいと思います。」

「エクササイズ!ご飯食べたらやろう!よみちゃんもやろう!」

「どうして私も…寒いのはイヤです。」

「お外には出ないよ!アレがあるから!」


そう言って知依ちよはテレビの横にあるゲーム機を指した。

コントローラーが本体から外れる例のアレだ。


「アレですか…まあ、最近運動してませんでしたし、家でできるならやりますか。」


よみは珍しく運動する気になったらしく、食器を片付け、動きやすい服装に着替えに行った。

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