第16pedia お雑煮

三が日も過ぎ、新年4日目の夜。

そろそろ晩ご飯の時間になるころ。


「4日目の晩まで持っちゃいましたね。お雑煮とおせち。」

「どっちもお正月にしか食べないから名残惜しいねー。」

「ですね。どちらも残さないように食べつつ…そろそろお雑煮についてお話しますか。」

「ふぁっ」


知依ちよは、雑煮の餅に食らいつきながらフリーズした。

昨年末の年越しそばの回に雑煮のことも気になると、自分から言っておいて忘れていた様子だ。


「いふぁふぁひわふ(いただきます)」

「あ、そっちですか。てっきり、お雑煮のことを忘れていたのかと。」

「お雑煮のことは…忘れてました!」

「あんまり急いで食べると詰まらせますよ。」


よみは、話すためにあまり時間をかけずに口の中を空っぽにした知依ちよを諭す。

それから「いただきます」と手を合わせ、おせちをつつき始めた。


「以前、気になると言われたので調べておきました。このまま話しますね。」

「よ、よみぺでぃあ…」

「…このまま話しますね。お雑煮の始まりは平安時代と言われています。ここ数回登場している『歳神様としがみさま』にお供えしていたお餅や農作物、新年最初に汲んだ水『若水わかみず』を使い、新年最初の火で煮込んで食べ始めたのが、起源だそうです。『歳神様としがみさま』にお供えしていたものには恩恵が、『若水わかみず』には長寿の効果があるとされていたそうです。」

「ほえー。日持ちするからとかじゃなくて、ちゃんと由来があったんだね。名前の由来はいろいろ入ってるから『ざつに』って書くの?」

「そうですね。正確には『煮雑にまぜ』が由来だそうです。」


珍しく予想が的中した知依ちよは満足げに雑煮の餅に食らいつく。


「ところで、このお雑煮、地域によって出汁やお餅に違いがあるそうなのですが、知依ちよさんはどんなお雑煮が好きですか?」

「んーとね、わたしは今食べてる白味噌の丸餅のが好き!実家ではお澄ましと白味噌両方あったから、お澄ましも好きかな!」

「それで今年も白味噌のお雑煮なんですね。ちなみに白味噌は関西に多く、丸餅は西日本が多いそうです。あとはお餅を焼く地域や、あげる地域など、いろいろありますね。」


知依ちよは「ほえー」と言いながら立ち上がり、お雑煮のおかわりを注ぎに、台所に移動した。

お餅を雑煮に入れる前に、よみに見せるように突き出しながら尋ねた。


「どうして西は丸餅なの?」

「ええとそれは…調べます。ごめんなさい。」


知依ちよは、ここぞといわんばかりに、お餅を掲げ、叫んだ。


「調べて!ヨミpedia!」


よみは事前調査が甘かったことを後悔しているようで、悔しそうな表情をしながら、本を取り出し、調べ始める。

知依ちよは叫んだ勢いそのままに、餅を雑煮に投入し、雑煮が跳ねたようで「ヒャッ」と彼女も跳ねた。

雑煮を注ぎ終え、席に戻るころには、よみの検索は終わり、食事を再開していた。


「何かわかった?」

「わかりましたよ。関西では丸餅が主流なのは『円満』を意味する縁起物とされているからだそうです。」

「関東は円満じゃなくていいの?」

「まあ、そうなりますよね。おそらく効率よく生産できれば円満がよいのでしょうが、昔は関東に人口が集中していたこともあり、大量生産可能な角餅が主流になったそうです。」

「ほえー。みんなに行き渡らなかったら、丸餅でも円満にはならなさそうだし、そこは考えられてるんだね!」


よみは、一足先に食事を終え、「ごちそうさまでした」と手を合わせる。

まだ食事を続けている知依ちよを眺めながら、もう少し話を続けた。


「そういえば調べている最中に目に留まったのですが、お餅に餡を入れる地域もあるそうですね。」

「えっ、甘いお雑煮?」

「餡は甘いそうなのですが、お出汁は白味噌です。」


知依ちよは目の前にある雑煮の出汁を口へ運びながら、難しそうな表情を浮かべる。


「想像できましたか?」

「想像…できないです!ちなみにどこの地域?」

「香川県だそうです。昔は砂糖が贅沢品だったので、『正月くらい甘いものが食べたい』と餡を入れたとか。一部の人に人気というわけではなく、普通においしいそうです。」

「ほえー。来年チャレンジしてみる?」

「いや、どこか出先でチャレンジ出来たらなー…程度に見てました。」


それを聞いた知依ちよは、「香川旅行かー」と言いながら、食事を続ける。


「また落ち着いたらどこか旅行の計画でも立てましょうか。」


よみはそう言って、空の食器を台所へと運んだ。

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