第15pedia お年玉

3人は初詣を終え、いつもの部屋に戻ってきた。


「ふぃー。やっぱり冬はこたつですなー。」

「ですなあー。」


帰って来て早々に、知依ちよ瑠仔るこはこたつに潜り込む。

よみは「2人ともお茶でいいですね。」と確認したようなしていないような口調でそう言い、お茶を淹れてきた。


よみちゃん気が利くねえ―。そんなお嬢ちゃんにはいいものをあげよおー。」


瑠仔るこはそう言い、懐からポチ袋を取り出した。


「もしかして、お年玉ですか?さすがに受け取れないですよ?」

「まあまあー。開けてみてえー。」


よみはしぶしぶポチ袋を受け取り、「こうゆうの目の前で開けるものではないのでは…」と言いつつ、ポチ袋の中身をちらっと覗いた。

中身が予期したものではなかったようで、彼女は不思議そうな表情でそれを取り出した。

出てきたのは二つ折りの紙。そこにはこう書かれていた。


『今回のお題はお年玉です』


「回りくどいことを…それを仕掛けるなら私ではなく、知依ちよさんに仕掛けるべきだったのでは?」


そんな心配など必要なかったようで、間髪入れずに知依ちよは疑問を投げかけた。


「ポチ袋って、どうしてポチ袋なの?昔はわんちゃんが持ってきてたの?」

「心配は無用だったみたいですね!始めましょう!」


計算通りといったような笑顔を浮かべる瑠仔るこ

そして、眠たそうに、伸びをするように片手を挙げた。


「調べてえー。ヨミpediaあー!」


よみは、はっとした様子で立ち上がり、鏡餅の前に備えられていたいつもの本を拾い上げ、調べ始めた。

瑠仔るこは「一度やってみたかったんだよねえー。」と言いながら、満足げな表情をしている。

そんな瑠仔るこに、知依ちよはちょっとした疑問を投げかける。


瑠仔るこちゃんはいつもなんでも教えてくれるけど、今回は知らないの?」

「んー、瑠仔るこちゃんは何でも知ってるよおー。今年に入ってから3話目なのに、1回もやってないから、やっとこうと思ってえー。」

「そんなことだろうと思って、ざっと調べましたので、補足お願いしますね。」

「はあーい。よみちゃんは鋭いねえ―。」


知依ちよは「さんわめ?」と少し引っかかった様子を見せる。

よみはそんなことは気にもせずに、調べていた本を閉じ、お茶を一口飲み、説明を始めた。


「まず、大体予想はついていると思われますが、犬は関係ないです。」

「ワンチャン…」


知依ちよはすごく悲しそうな顔をして俯いた。

本当に犬が関係していると信じていたのだろうか。


「…続けますね。起源として、その昔、茶屋娘や芸妓げいぎさんに、お心付けとして小銭を渡していたというお話です。このお心付けを渡す際に、半紙に包んで渡していたそうなのですが、小銭が零れ落ちてしまうこともあったため、半紙が糊付けされるようになり、今のポチ袋の形になったそうです。肝心の語源ですが、『これっぽっちのご祝儀』の『ぽっち』を取ったという説が有力ですね。」

「あとは『ポーチ』とか、フランス語の『プチ』が元になったとかあるけどおー、時代背景的にあんまり信憑性はないみたいだねえー。」

「ほえー。今はすっかりこれっぽっちじゃなくなっちゃってるけど、そうなんだね!」


知依ちよはそういったものの、どこか引っかかる様子で「あのー」と続けた。


「ちなみに、お心付けとは…?」

「義務ではないのですが、結婚式や、旅館に泊まる際など、お世話になるスタッフの方にお渡しするものですね。文字通り『お気持ち』です。いわゆる『チップ』といった方が分かりやすいでしょうか。」

「チップ!わかった!」


知依ちよはすっきりとした表情になったが、今度はよみが何か引っかかるような表情をしている。

そして、首をかしげながらこう言った。


「今回のお題って『お年玉』でしたよね?これでは『ポチ袋』になってしまうのでは…?」

「確かにそうだねえー。でも長くなっちゃいそうだから、ここは瑠仔るこちゃんに任せてえー。」

「では、お言葉に甘えて。お願いしますね。」


瑠仔るこは説明を始める前に、置いてあった鏡餅を、こたつの上に持ってきた。


「まず、お年玉を配るようになった起源とされているのは、歳神様としがみさまが帰っちゃうときに、家長から家族とか奉公人に、鏡餅を分け与えると、1年の健康と豊作にあやかれるとされていた、っていうお話みたいだよおー。ちなみに知依ちよちゃんは、お正月の鏡餅の役割覚えてるうー?」

「ええと、歳神様としがみさま依代よりしろだっけ?」

「そーそー。『歳神様としがみさま』の『魂』が込められているから『御歳魂おとしだま』っていう説と、『1年』の初めに目上の人からもらう――『たまわる』ものだから、『お年賜としだま』っていう説があるねえー。」

「ほえー。もとはお餅を配ってたんだね!でも、どうしてお金になったの?」


よみが本を開いたまま、「いいですか?」とそわそわしながら瑠仔るこに問いかけた。

瑠仔るこは「仕方ないなあー」と言いつつ、よみに出番を譲る。


「当時、お餅自体、希少価値のあるものでして、それに代わって金品を分け与えていた、ということもあったそうです。現在のように現金をお年玉とするようになったのは、高度経済成長期の頃と言われています。背景としては、そもそも『お餅をついて歳神様としがみさまへお供えする』ということ自体が減り、容易に準備可能な現金へと変化していったそうです。」

「ほえー。確かに餅つきするお家って少ないイメージあるね!杵と臼、確かにうちにもないし!」

「用意しようかあー?」

「なんでも用意してくださるのはありがたいですが、うちが倉庫になってしまうので、今回は遠慮しておきます…」


知依ちよ瑠仔るこは2人してふくれっ面をしながら「餅つきしたい!」と駄々をこねている。

よみはぽパンッと手をたたき、「この話はおしまいです。」と言い、お茶が入っていた湯呑を持って台所へと向かった。

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