第13pedia お正月

「「新年あけましておめでとうございます。」」


いつもの2人、よみ知依ちよはこたつを挟んで、お互いに深々とお辞儀をする。

先に顔を上げたのは知依ちよだった。


「今年もよろしくね!」

「こちらこそ、よろしくお願いします。さて、朝ごはんですね。」

「あ、わたし、ポスト見てくる!」


よみは去年作っておいた、おせちとお雑煮の準備を始める。

その間に、知依ちよはポストから年賀状を持ってきた。


「手が空いたなら、おせち広げてもらえますか?あと、お雑煮にお餅入れます?」

「お餅広げる!おせち入れる!」

「新年初ボケですか。おめでたいですね。」


知依ちよが首をかしげながらおせちを広げている間に、よみは淡々とお雑煮を注いで、席に着く。


「ありがと!いただきまーす!」

「作ってくださったのは知依ちよさんなので、これくらいはさせてください。では、いただきます。」


知依ちよは、おせちをつつきながら、年賀状を確認している。

その中で気になったことがあった様子で、お箸を置いて、年賀状をまじまじと見始めた。


「どうかしましたか?」

「や、いろいろ気になることがあるんだけど…ヨミpediaはお正月休み?」


知依ちよは、鏡餅の前にお供えのように置かれている、よみの本を見ながら尋ねた。


「まあ、そんなところですね。事前に調べてはいるので、食べながらで良ければできる限り答えますよ。」

「じゃあ…教えて!ヨミちゃん!」

「…なんか普通ですね。新年早々、タイトル回収できてませんし。」

「ダメだった…?」

「いえ、大丈夫です。どうぞ、続けてください。」


知依ちよは「それでは1つ目!」と言って、年賀状をよみに見せつけた。

が、すぐにその手を引っ込め、続けた。


「お正月はどうして祝われるようになったの?新年だから?」

「年賀状は後にするんですね。お正月は、『歳神様としがみさま』という豊穣を司る神様をお迎えする行事です。起源は明らかにされていないそうですが、おおよそ仏教が伝来してきた6世紀半ばには行われていたとされています。『新年だから祝う』と言うより、『新年に歳神様としがみさまがいらっしゃるから祝う』ですかね。お迎えして一緒にお祝いをするといったところです。」

「ほえー。お祝いはお祝いなんだね!鏡餅とか門松とかも、歳神様としがみさま関連なの?」

「そうですね。簡単に説明すると、門松は目印、鏡餅は依代よりしろ注連縄しめなわは神様をお迎えするのにふさわしい場所という印です。」


説明を一通り聞いた知依ちよは少し考え、深刻そうな表情で箸を置いた。


「うちには門松がない…」

「そうですね。しっかりとした門松が玄関先に飾られているお家は、今では珍しいのではないでしょうか。私個人の意見としては、結局、気の持ちようだと思いますので、『ある程度』『できる限り』『無理のない範囲で』お正月も楽しく過ごせたらいいのではないかと。」

「確かに!よみちゃんはやっぱり大人だね!」


よみは少し照れた様子でお雑煮を口へ運び、「次は年賀状ですか?」と尋ねた。


「そうそう!この『謹賀新年』と『恭賀新年』の違いは何?」

「大まかに言うと違いはないので、どちらも相手を選ばず使える言葉ですね。『謹賀新年』は『つつ』しんで新年のお祝いを申し上げます』。『恭賀新年』は『うやうやしく新年のお祝いを申し上げます』といった意味合いです。」

「うやうや?とはとは?」

「『相手を敬い、礼儀正しく振る舞うこと』ですね。『謹む』の意味の一つとして『恭しくかしこまる』というものがあるので、どちらもほぼ同じだと思ってよいかと。」

「ほえー。難しい言葉、いっぱい覚えられた気がする!」


説明を終えたよみは箸を置き「ごちそうさまでした。」と手を合わせている。

知依ちよはまだまだ箸を進めながら「そういえば」と質問を続けた。


「年賀状はいつから送られるようになったの?由来は今と同じ、新年のあいさつ?」

「意味合いは今と同じですね。こちらも起源ははっきりとしていないのですが、奈良時代の『年始回ねんしまわり』という、新年のあいさつをする行事が元になったといわれています。その時に直接あいさつに行けない、遠方の方へは、文書を用いた挨拶が行われていたそうです。」

「ほえー。昔は直接だったんだね!」

「今は文書は文書でも、SNSなどを使った軽い挨拶をする方が多いですね。年賀状を書き上げるのも楽しみはありますが、手間を考えると…となる気持ちもわかります。」


知依ちよは「うんうん」と頷きながら、ずっとおせちを食べている。


知依ちよさんはほんとによく食べますね。でも、そろそろ出かける準備しないといけませんよ。瑠仔るこさんと初詣に行く約束が――」

「えー!もうそんな時間??ごちそうさまでした!」


そういって、2人でせっせと後片付けを始めた。

片付け中によみははっとした様子で振り向き、どこかに語り掛ける。


「新年、あけましておめでとうございます。昨日もこんな感じでしたね。ワンパターンですが許していただけると幸いです。リアルタイムで読んでくださってる方も、後からこのお話を読んで下さってる方も、ありがとうございます。今年も精進してまいりますので、引き続き見守っていただけると幸いです。」


彼女は「それでは」と軽く会釈をし、後片付けを続けた。

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